第3話 目の前にある現実

目が覚めると売り払ったはずの実家の自室だった。

両親の葬儀の後、首都圏にあるとはいえ駅からも遠く、都心に出るにも時間がかかる古い我が家は大した金額では売れなかった。

そんな懐かしの我が家で目が覚めた私は、まず最初に日付の確認をした。


「逆行とは言ってたけどいったい何時に戻されたのか……」


テレビをつけ、確認できた日付は3月23日。


「えっと、この日は」


両親の葬儀が終わり、やっと家で寝れた日だ。

思わず一回のリビングに駆け込むと、そこにあったのは二人分の骨壺と遺影。


「そっか、まだここにあるのか」


葬儀の後、お墓をどうするかなんて考えられなかった私に、手を差し伸べたのは。

手を差し伸べたように思えたのは、父のはとこの夫だったはず。

父のはとこは両親がなくなる少し前に亡くなられて、その葬儀に向かった時に喪主をしていたその人にあった。

もう70を超えた老人だった。私の人生を狂わせたやつ。


ピンポーン


このチャイムは、やり直した人生の最初の分岐点になる。


そう思って、玄関を開けると

想像していた通りのやつが、立っていた。



やつが言うのはこういうこと。

遺骨を引き取るし二人一緒に埋葬してやる、相続の手続きもこっちでやる。

だからすぐに引っ越しなさい。大学に近い方がいいだろう。すぐに引っ越しの準備をしたらいい。

行政的な手続きはこっちでやるからこれにサインしてほしい。


前の人生ではなんて優しいんだと思って、サインをした。

そのまま家を追い出されて、すべて奪われた。

本格的に仕事をして、世間を知ってから調べた私には今何をしたいのか手に取るようにわかる。


「お断りします。相続は相続人私しかいないし、いまはまだお墓のことも考えられません。それに一回しかあったことのない知らない人にお願いするのは申し訳ないので……」


両親の遺産も、思い出の詰まった家も失ってたまるか。


朝から、部屋着のまま行われた人生の分岐点はあっという間に前のものとは違う方向に向かった。

遺産が大した金額にならないのもわかってる、家だって2,3年で水回りの修理をしないといけないだろう。

それでもここは私の大切なものだから、今度こそ守りたいんだと強い口調で追い出してしまった。


「心残り一つ亡くなったかな。家の片づけと自分でできる範囲でDIYしてなんとか10年くらいは住めるようにしなくちゃ」


大学の3年前期の学費は親が払ってくれているはずなので、半年の間に奨学金の申請とか私が生きていくための手段を取らないと。


「ところでなんであと10年なんだろ」

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