父の背中は大きかった

父を辿る

 お父さん、待ってよぅ。


 北国の道は、真白の雪が振り積もって歩きにくい。けど、前を行くお父さんは、雪の柔らかさを感じさせずにずんずん歩いていく。


 ふははッ、頑張れ、頑張れ。この程度の雪でへばるなよ。


 お父さんは、ぼくを振り返って笑った。その間も、止まってはくれない。頑張って追いつきたくても、足は雪にはまって何度もよろける。転ぶ度に、冷たくてふわふわした雪に沈む。

 ふと、少し滲んだ白い視界に、一定の間隔で続く靴跡があった。少しグレーがかっていて、ぼくの足よりうんと大きい、お父さんの足跡。座り込みながら後ろを見てみると、それよりも狭い間隔で、小さい靴跡が着いてきていた。その続きはぼくのおしりに踏まれて潰れている。ふん、と白い息を吐いて、ぼくは重たい頭を持ち上げる。



 急に静かになった背後を、少し心配になって振り返る。しかしどうやらその心配は杞憂のようだった。彼は俺の足跡を、小さな足で上書きしていた。その小さく、短い足を精一杯に伸ばして、見たことないくらいの真剣な顔で一歩ずつ。その一生懸命な姿に、俺はあえて歩幅は変えず家までの真っ白な帰路を行く。



 夢中で歩いていたら、目の前にぼくの家があった。お父さんに持ち上げられると目線が高くなって、大きく見えていたお父さんの足跡も小さく見えた。

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