第2話
「来るぞ。」
ヤロニフも剣を抜き、二人は背中を合わせた。視線を感じるが、どこから見られているかがわからない。ケパレ馬が不安そうに頭を揺らした。
ヤロニフの向いている方向からガサゴソという音が鳴ると、身長が低く、背中の曲がった男たちが二人を囲うように現れた。憎悪の気が一層強くなる。
「我らはアッティアの使者。ルビに向けて進んでいる。使者を襲う罪は重いぞ。」
ヤロニフがその通る声で叫んだ。
「使者か。」男たちの一人が言った。
「我々は山賊ではない。この近くの村のドワーフだ。そこのイーマンさえ差し出してくれれば、お前は見逃す。」
イーマンは命を狙われやすい。その特殊な能力を死体を食べることで継承できるという伝説があるからだ。幸い、アピタスとヤロニフの母国アッティアではその伝説が伝説だという認識が広まっているが、世の中にはまだ信じている人が多いらしい。村人たちが一斉に武器を構えると、二人の剣を握る手に一層力が入った。村人は6人、それぞれの持っている武器は武器というより農具だ。体躯もこちらの方が勝っている。しっかりと対応すれば勝てそうだ。アピタスは思った。
「アピタス、気をつけろ。ドワーフは見た目以上に強い。」
ヤロニフが囁くと同時に、ドワーフたちは雄叫びを上げながら突っ込んできた。一人の持っている鎌とアピタスの剣が混じり合う。確かに想像していたよりもずっと重い衝撃がアピタスの肩にかかった。その衝撃にアピタスは耐えられず、膝をつく。
「立てアピタス!」
ヤロニフの叫び声が聞こえたが、アピタスはその声に反応できなかった。このドワーフ、手数が多い。一つの攻撃を対応するとすぐに次に攻撃動作を取られる。アピタスはついに押し負け、首元に鎌の先端を突きつけられた。
アピタスは剣の持っていない手を前に突き出し、言った。「待て。」
「命乞いなら聞かんぞ。」
「なぜイーマンの命を狙う。それだけ聞かせてくれ。」
「我々の村が貴様らイーマンの仕業によって崩壊したからだ。」
「ちょっと待て。その話、詳しく聞かせてくれ。」
ガチンという音がするとヤロニフの剣が折れたのが見えた。
「縛り上げろ。」
かくしてアピタスとヤロニフはドワーフに捕らえられた。手荒に縛り上げられながら二人はうつむき黙っていた。
小一時間ほど歩くとドワーフの村についた。それは森の中でももっとも光の入りにくいところにあり、トーチカのように地中に半分埋まった家が集まっていた。二人は村の中を見せしめのように歩かされ、中心にある家の中に押し込まれた。
「村長、イーマンを捕らえました。」
ヒゲが地面につくほど長い。村長と言われたドワーフの男は小さく頷いた。
「ご苦労。君たちは下がって良いぞ。」
はっ、と小気味よく答えると6人のドワーフは下がった。
「おや、片方は普通の人間のようだね。イーマンと一緒にいるばかりに災難だったな。」
村長はホッホッホッと笑った。
「ドワーフの村長。我々はアッティアから放たれた使者。使者に危害を加える重罪は知っているはずだ。」
「黙れ!」
村長が叫ぶと家の中にキンと声が反響した。
「貴様らアッティアの人間どもは、いつだって自分たちのことしか考えていない。」
村長が椅子から立ち上がった。怒りからか全身が震えている。
「その結果どうだ。我々ドワーフの住むこの地中に毒が流れ込み、我々はまともに水も飲めなくなった。同族同士で水を巡る争いも増えた。私の倅もその争いで生命を落としたものでな。」
アピタスもヤロニフも何も言えなくなった。確かにその通りだった。アッティアはイーマン持つ頭脳のお陰で最近急速に技術革新が進み、自国内でも「公害」という概念が生まれたところだった。
「貴様らにはその責任を取ってもらう。兎にも角にも水だ。安全な水をこの村で飲む方法を見つけろ。」
村長が手を叩くと外から先ほどのドワーフたちが入ってきた。
「逃げたりできると思うな。こやつらは強いぞ。」
そう言い残すと村長はドアから出ていった。
縛り付けられている縄は解かれ、二人は裸にされ、身体を覆う布だけ渡された。
異世界使者の一生 八鶴 斎智 @YazuruSaichi
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