第12話 アヴェリーと偵察
それから二日経って、自分の萌え声にも慣れつつある。変わらず狩りの日々を過ごしているが、意思疎通が出来るようになってから、私はサポートに回ってるので、レベルを上げるペースは大分遅くなってる。
ただ私は倒してはいないが、食べてはいるので、レベルが上がってはいるのである。葉っぱを食べてるのだ。カイコは葉っぱを食べるのだ。植物繊維がこれほど美味しいとは。この酸味がたまらない。むしゃむしゃ。昼の木漏れ日に照らされた森の中で、歩き疲れたアヴェリーの近くに生えてる木の葉っぱを食べていた。
「美味しそうに食べるね。」
アヴェリーにそう言われ、私は食べていた葉っぱを飲み込んだ。
「アヴェリーも食べてみる?」
「えっと、私が食べてもお腹壊したりしない?」
ちょっと鑑定してみる。
その辺の木に生えた葉っぱ
説明
その辺の木という木に生えた葉っぱ。なぜか酸っぱい。硬いので顎が発達した昆虫じゃないと食べれない。カイコの好物。硬さゆえに人が食べるには適していない。
その辺の木って木があるのか。随分といい加減な名付けをするものだ。
「人は食べられないみたいだ。」
「だと思ったよ。食卓で見たことないもん。」
アヴェリーは岩の上に腰を掛けて足をぶらぶらとしている。
「何か話す?」
「何かって?」
「私に聞きたいこととか、ない?」
「あるよ。えっとね。二クスはどこで生まれたの?」
「海の中だよ。」
「海って怖くないの?色んな生き物がいるんでしょう?魔物もたくさんいて。」
「確かに生き物はたくさんいるね。海産物は美味しいよ。捕まってあげようか。」
「今はいいかな。後でお願い出来る?」
「問題ない。」
「二クスみたいな妖精さん、じゃなかった。なんだっけ。」
「カイコ。」
「カイコ、たくさんいたりするの?」
「わからない。生れはエビだったよ。」
「エビ?あの塩漬けにして食べると美味しいエビ?」
「そう、そのエビ。」
「光ってあの、海の妖精さんになったの?」
「進化ね。海の妖精じゃない。あれも生き物だよ。動物。魔物じゃない。アオミノウミウシって言うんだ。」
「そんなのあるんだ。」
そのまま会話が途切れて、私はまた葉っぱを食べ始める。今回の食事でレベルが上がった。前にレベルが上がってから二百枚以上は食べてるのに、やっと一上がってる。相変わらず食べたものがどこへ行ったのかはわからない。
しばらくしてからまた歩き始めた。
「今はどこへ向かってるの?」
「目的地があるわけではないんだけど、出来ればゴブリンの集落を見つけたい。」
「また私をそこで戦わせるつもりなの?」
「そうだよ。でも、単純にゴブリンの女王とやらを倒しておきたい。放っておくとずっと増えるばかりで、いずれは被害が出る。もしくは、もう出ているかもしれない。」
「なんか、二クスって大人みたい。二クスって、大人なの?今何歳?」
「生まれてまだ一か月ってところ。」
「すごい。なのにそんなに賢いんだ。」
「多分、ナクアって神のおかげ。聞いたことある?」
「ないかな。どんな神様?ジェフィーラ様みたいな女神様?」
「わからない。私も見たことはないんだけど、なんかその得体の知れない神に愛されてるみたい。それより、ジェフィーラが女神なのは知ってるんだね。」
「様付けないと。」
「ジェフィーラ様。」
うんうんと頷くアヴェリー。
「私の村に祠があるの。小さな女神像があって。壊れないの。村の狩人さんたちは毎日祈ってるよ。」
「なんか祈って、能力授けたりする?」
「どうだろう。祈ると能力授かるの?」
「アヴェリーは祈ってから実際に能力授かったよね?」
「私は供物捧げてたよ。それって祈りと同じなの?」
アヴェリーはそう言い、簡易祭壇で切ってから短くなった髪の毛を弄る。
「祈りに種類があるの?」
「わかんない。何となくこうすれば何か、貰えるんじゃないかって、その時は思ってて。」
「ジェフィーラ様に?」
「私が祈ったのはヴァロリア様だよ。」
「ヴァロリア?」
「ヴァロリア様ね。武神の一柱で…、詳しくは良くわからないけど、弱いものを守ってくれる女神様なの。私って弱いから、もしかしたらって。」
「よく知っていたね。どこで学んだの?」
「村にね、エルフのお兄さんが住んでるの。色々教えてくれる。」
「エルフか。格好いい?」
「それなりに?大人の女の人たちは、夫より格好いいって言ってる。でも、なんでそれが気になるの?カイコなのに?」
こちらの世界でエルフがどのように映っているのか気になったからというのもあるが、美酒感覚がどのように作用しているのかがわからなかったもので。
メディアの存在しない世界では、現代人の美酒感覚なんてそんなに当てにならないんじゃないかなと。これを説明するわけにはいかないので、私は逆に質問を投げた。子供は話術にひっかかりやすい。
「村に戻って彼に会いたくないの?」
「会いたいよ。でも、村で私は多分死んだ人扱いになってるはずだから。今から行ったって、私の物は全部誰かの物になってる。ママとパパはもういないし、親戚のところで住んでたんだけど。」
そう言ってアヴェリーが少し泣きそうな顔をした。
「大丈夫、今言わなくてもいいから。後で聞くよ。」
「ううん、今言わないと。親戚とか、村の人たちとかいい人達だけど。あまり面白くない。どうせ、大人になると、村から出ていきたいって、ずっと思ってて。大きな町へ行くって、ずっと思ってて。」
「無理する必要はないんじゃない?今から戻っても。」
「今戻ったら、迷惑かけちゃう。ママとパパが死んじゃってから、迷惑ばかりかけて。もう、そういうの、嫌だよ。今は、えっと、二クスが守ってくれるし。」
少し恥ずかしそうにしているアヴェリー。
「私でいいの?」
「二クスといると楽しいから。可愛いし。ずっと二クスと旅してたらって。」
「私と旅がしたいの?」
「いや?」
「いいよ、私の目的と相反するものじゃないし。」
「相反って何?」
今の私は自分が思い浮かべた単語を全部アヴェリーが知っているグリタリア南部公用語で喋れる。つまりアヴェリーにグリタリア南部公用語をより詳しく教えられるってことなのだ。
「ぶつかって対立しないってこと。」
「対立って?」
それで歩きながら色んな単語や概念を説明することになった。思い浮かんだら即説明。萌え声で。異世界で。10歳にも満たない子供相手に。
そしてその日、私たちは見つけた。数百匹のゴブリンが住んでいる、大きな集落を。
ちょうど崖の上から見下ろせるところにあって、安全に偵察することが出来た。それでも突っ立ってると発見されるかも知れないので、しゃがんで見ている。洞窟で見つけたゴブリンよりずっと屈強そうなゴブリンたちが集落の中を徘徊していた。木材を運んでいる。家を作っているみたいだ。
文明的な生活をしているんだろうか。
「あれを全部殺すの?」
さすがにアヴェリー一人に任せるわけにはいかない。今はまだ昼間なのでそこまで活発な動きは見えないが、この辺をうろついていたら発見されるのも時間の問題だろう。方角は方角感知のスキルでわかるので、このまま後ろを向いて逃げるのも出来るけど。
「このまま大きな町へ行って、冒険者ギルドに報告するって方法もある。アヴェリーはどうしたい?」
「わかんない。怖いって、思いはあまりないけど。」
「けど?」
「別に私たちがしなきゃいけないってことじゃないし。」
「じゃあ、町へ行く?」
「でも、私って強くなってるんだよね。」
「うん、レベル上がってる。」
「今の私って、どれくらい強いのかわかる?」
「ちょっと見てみる。」
名前 アヴェリー
性別 女性
種族 人
レベル 16
HP 231/231
MP 101/101
力 142
敏捷 299
耐久 153
魔力 101
スキル
農作業 グリタリア南部公用語(基礎) 槍術 俊敏 恐怖耐性
称号
神に願いし者
加護
エギオンの恩恵
ヴァロリアの恩恵
説明
9歳でゴブリンを倒した少女。もうすぐ10歳になる。寝る前にヴァロリアに感謝の祈りを捧げているため、ヴァロリアの恩恵が発動。俊敏と恐怖耐性を習得した。
熟練のゴブリン戦士と戦っても負けはしないだろう。ただ一対一ならではの話。まだ持久力と経験が足りない。
持久力はステータスに表示されないのか。耐久とは何が違う?見てみよう。
耐久
耐久値をわかりやすく表記している。持久力と頑丈さを反映しており、計算式はこのようになっている。最大のエネルギーを消費して継続的に動ける時間×体に異常が現れるために必要な運動エネルギーの総量+現在体が蓄えているエネルギー。
これがわかりやすいのかどうかはさておき、耐久が持久力も含めていることはわかった。これを上げさせるためには、多く食べて備蓄する必要があるってことも。
比較対象も必要なので、あの屈強そうなゴブリンを鑑定してみよう。
名前 ゴヴァヴァ
性別 オス
種族 ゴブリン(戦士)
レベル 8
HP 306/306
MP 83/83
力 199
敏捷 138
耐久 166
魔力 83
スキル
威嚇 剣術 剛腕
称号
熟練の戦士
加護
マラゴースの恩恵
説明
女王から比較的に早い時期に生まれ、長年戦ってきた熟練のゴブリン戦士。近隣の村を侵攻するために色々準備をしている。
人の赤子を三回程食べたことがあって、その味が忘れられない模様。そのため、とても意欲的である。
「アヴェリー、この辺に村はいくつある?」
「この辺にあるのは私たちの村だけだよ。」
「村の規模はどれくらい?」
「二百人くらい?」
「今のアヴェリーより強い人って、村の中にどれくらいいると思う?」
「だから、今の私がどれくらい強いのかって、聞いたよ?」
「強いよ。かなり強いと思う。レベルも高い、ステータスも高い。あれ見える?ゴブリン戦士って言うんだけど。あいつより今のアヴェリーの方が強いよ。」
「私が?あれより強い?」
「そうだよ。」
アヴェリーは少し驚いた顔をした。
「そうなんだ。」
「そう。そう言えば、アヴェリーって、結構力持ちだよね。何かやってたの?」
「確かに私って、結構力持ちって村からも言われてた。多分、あれだと思う。パパが狩人だったの。ウサギの魔物、よく捕まってて、家で家族みんなで食べてて。すると力持ちになれるんだって。」
この世界の大人なら魔物の肉を食べたことがあるはずだから、ステータスはそれなりに強化されてるとは思う。ただ、だとしてもプロの格闘技選手のより強いんだろうか。それはまだ見たことがないので一概には言えないかも知れない。
ただ、継続的に訓練をしてきた人間より強くはないと思う。魔物の肉がもたらす恩恵は、アヴェリーを見ればわかる通り、力の方へと偏りがあるのだ。スピードはそんなに変わらないだろう。
一般的なプロボクサーの放つパンチのスピードは時速32キロ。つまり、アヴェリーより少し早い程度。アヴェリーは獲物である槍を振り回しているので、それより早いだろう。
要するに。
「今のアヴェリーは平均的な大人より早く動けると思うよ。それを踏まえて考えてみて。」
「踏まえて考える?」
また説明タイム。
そしてアヴェリーが言うに、村に自分より強い人は、多分エルフのお兄さんしかないとのこと。
「なら危険だね。」
「危険って?」
「村が危険だってこと。もうすぐ奴らは村を攻撃するつもりだよ。エルフのお兄さんって、あいつらを一掃できる?」
また一掃の意味を聞かれたのでそれを説明。
「わかんない。でも、多分、できるかも?」
「エルフのお兄さんは魔法使いだったりするの?」
「うん。強い。」
「村が奇襲されても、対処できる?」
「多分、被害出る?」
なんで疑問形なんだ。
「わかった、じゃあ、夜が来る前に奴らを根絶やしにしよう。ただその前に。」
「戦うんだ。」
「そう、多分大丈夫。」
「多分?」
「アヴェリーは私が何があっても守る。私には奥の手もいくつかあるし。」
「奥の手?」
毒と精神魔法。今は言わないでおこう。説明する時間が勿体ない。
「それより食事だよ。何か食べよう。質のいい魔獣の肉。」
「奥の手って何?」
単純に意味を知らなかったのか。私はまたまた単語の意味を説明した。この集落を殲滅した後は、町へ行って本でも買ってあげないと。値段が高かったり、そもそも本がそんなに出まわらない場合は、学校のような施設に行かせる必要がありそうだ。
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