第11話 早くも三度目の進化
昨日はウォーターバレットが通じなかったら死んでた。そんな危機感を募りながらも、性懲りもなく次の日も魔物を探してアヴェリーと森をうろちょろした。
アヴェリー成長してるし。弱っちい連中相手には無双できて、ちょっと強くても私が何とかすればいい。そもそもグリタリア大陸は雑魚ばかりじゃないか。そうでなくとも、この森はそこまで大きな森ではないので雑魚ばかりじゃないのか。そういう気持ちが無きにしも非ず。
雑魚いっぱいな森でなら、こちらが好きにしてもいいってことだ。出来ればアヴェリーの村にも連れて行ってあげたいんだけど、方角がまるで分らない。アヴェリーはついて来るだけで自分からどこかへ行こうとはしない模様。次の進化先で喋れるように出来ないんだろうか。さすがに喋る小さな生物は存在しない気がするが。
やはり喋る魔物を食べないといけない気がしないでもない今日この頃。鑑定さんはいかがでしょうか。それでアヴェリーと一緒に行動するようになってから四日目の夜のこと。
フクロウの魔物をウィンドバレットで撃退して自分のステータスを確認してみたら進化できるようになっていた。なんて早いペースでの進化なんだ。進化しないわけにはいかない。ほれ、今回も長々とリストを見ることなく言語能力に関して検索をかける。
鑑定さんお願いしゃす。するといくつか候補が出てきた。あるんかい。ちっちゃな生物でもあるんかい。それで見てみると。
喋るコオロギ。
説明
よく喋るコオロギ。ただ調子に乗って色々喋ってしまうので、珍しさで飼い始めた主人を怒らせて殺されたりする。一応魔物。なぜか声がめっちゃ渋い。
こいつを見たらみんなこう言う。いや、喋るんかい!
うん、これはちょっと。コオロギで飛び回るのも難しそうだし。見た目からアヴェリーに怖がらせるかも知れない。渋い声はちょっと。
喋る雑草
雑草の分際でよく喋る。隣人の噂を特によく喋る。おばさんみたいな声をしている。一応魔物。錬金術の素材として使われる。雑草なので自分からは動けない。
これも選択肢から除外。植物でも動けたら有り得たかも知れないが。いや、ないかな。普通にパスだわ。
喋るカイコ
えげつない可愛さを持つカイコ。一応魔物なので、お金持ちの家に入り込んではその愛くるしい見た目でご飯をもらうことを待つ狡猾さを持つ。シルクを出せるので気に入った人にはシルクを出してあげたりもする奇特な魔物。
自分からは滅多に狩りをしないため、戦闘力はかなり低め。しかしその見た目の愛くるしさゆえに敵対されにくい。魔物なので寿命も長い。白くてもふもふ。万人に愛される見た目をしており、歌も歌える。金持ちの商人や貴族や王族が住み着いた彼らをそのまま飼う場合が多い。ただすばしっこく飛べるので、野生の喋るカイコは滅多に捕まらない。
オスでもメスでも幼女のような声をしている。親近感が湧きやすいので少女と同行するならおすすめの進化先。
別に進めなくていいから。まあ、これしかないか。消去法だからな。言っとくが、私は決して幼女の声で喋りたくて進化先を選んでいるわけではない。
今回は眠りに就こうとしているアヴェリーの顔の前まで飛んで、進化を始める。
光って、カイコになるのだ。
するとアヴェリーからの反応。
「なんか光ってる。また変わっちゃうの?」
言葉がわかる。こんな喋り方していたんだと少し感動。
「進化したんだ。そりゃ光るさ。」
私はアヴェリーにそう答えて、自分のステータスを確認した。
名前 なし
性別 メス(可変)
種族 喋るカイコ(変異体)
レベル 1
HP 208/208
MP 605/605
力 108
敏捷 159
耐久 116
魔力 605
スキル
言語理解 シルク生産 方角感知 蜜感知 精神魔法 風魔法 気流感知 鑑定 水中呼吸 自己再生 毒(強) 早泳ぎ 水中探索 水魔法 暗視 高次元思考 魔法適性 無制限進化
称号
異界からの転生者 蜜に誘われしもの
加護
ジェフィーラの恩恵
ナクアの寵愛
説明
シルクを作れるカイコの愛くるしい見た目を広めようと模索したジェフィーラが作ったヘンテコな魔物。普通のカイコよりずっと大きく、羽を広げると20センチほど。
戦闘力はほぼ皆無なはずが、異界からの転生者が進化してめちゃくちゃ強い喋るカイコが生まれてしまった。
マラゴースの被造物を処理してくれるのには感謝するけど、森の生態系を破壊することだけはほどほどにね。(By ジェフィーラ)
ジェフィーラから鑑定に介入されちゃったよ。ジェフィーラって動物の神なのかな。少し遅い気がするけど、気になって仕方がない。アヴェリーは私が喋ってからフリーズしてるし、その間にちょっと鑑定で見てみよう。
ジェフィーラ
説明
私を見ようとしてるなんて、いい度胸だね。けど私は寛大だからね。教えてあげる。私は陸上生物の中で、植物と菌類以外の全ての生物を創造した神だよ。異界にも同じ生物がたくさんあったんでしょう?知ってる。でもあれは別に異界固有の物じゃないの。生物は似たような環境なら形に向かって進化してしまうのよ。それを私は自らの力で加速させ、形を固めた。それが私が持つ権能ね。
人からも信仰はされてるけど、主にエルフから信仰されてるかな。女神としての像があるので、神々を祭る聖堂に行けば私に会えるよ。何回か具現化したことがあるのですでに知られているんだよね。
ただあれは借り物の姿で、本当の私は五次元の存在。人が私をその目で見たら多分発狂すると思う。本来の私は思考も三次元の存在よりもずっと高次元。あなたみたいにね。そんなあなたなら、私を直接見ても大丈夫かも知れないけど、ナクアの奴に怒られたくないから積極的な干渉はしないつもり。
ただ私が司る陸上生物に進化するなら、私からの恩恵をもらう代わりに、私からの一方的なメッセージが受信されることがあるかもね。じゃあ、元気でね。次も私の恩恵をもらえる進化先を選んでくれると嬉しいな。(By ジェフィーラ)
神になんか言われたよ。神って五次元なのか。三次元の立方体を重ねたら四次元になって、それをまた重ねると五次元だから、どんな見た目になるか想像すら出来ないんだが。
それはともかく、面食らっていたアヴェリーが復帰したんだろう、返事が戻ってくる。
「今、喋った?」
アヴェリーは起き上がって私と目を合わせた。彼女は私が簡易的に加工した影狼の皮で出来た布団と、同じく影狼の皮で出来た、中身は乾いた葉っぱを詰め込んだ枕を使っている。
ブンブン飛ぶ自分の羽根の音が少しだけ煩かったので、隣にある岩に着地してそのままアヴェリーと会話を始めることに。私たちは森の開けっ広げになっている場所で、火を焚いている。星空が今日も綺麗だ。
「うん、喋ったよ。喋れるようになった。アヴェリーが何を言っているのかもわかる。」
淡々とした口調でアヴェリーに言う。私はどのような状況でも淡々とした口調でしか喋ったことがない。多分、これからもそうなるのだろう。
「私の名前もわかるの?」
「わかるよ。」
「あなたは、その、妖精さん?」
やはりそう見られてたか。
「どう思う?」
「最初は海の妖精さんだって思った。私のこと、助けてくれたんだよね。ありがとう。」
「ゴブリンのいる洞窟に入ったのは、怒ってない?}
「ううん、私を成長させるためにそうしたんだよね。わかるよ。」
私はそれを否定することなく頷いた。
「そう、あなたが強くなって欲しいって、私は思ってる。」
「うん、村にはもう戻れないから。このまま強くなって、大きな町へ行って、冒険者になりたいって思ってる。だから、あの、あなた、名前はない?」
村にはなぜ戻れないんだろうか。後で聞いてみることにして、名前か。
「名前……、私の名前は。」
確かに自分に名前を付けることはしなかった。ギリシャの夜の女神の名前が確か二クス。今は夜だからと安直ではある。ただ短い名前として覚えやすいだろう。
彼女は混沌の神であるカオスの娘だ。ナクアが混沌の神かはわからないけど、混沌とした進化をしている私には似合うのではないだろうか。
「教えたくないの?」
「ううん、私の名前は二クスだよ。」
「二クス。わかった。こんなに可愛いのに、格好いい名前持ってるんだね。」
アヴェリーはそう言ってから私に近づいてきて、私の頭を撫でた。触覚に当たるとくすぐったさが倍増するが、振りほどきたいとは思わなかった。子供がやることだし、そのうち飽きるだろう。
「次に進化したら、可愛くなくなるかもしれないよ?」
「進化って何?」
アヴェリーが私の頭をずっと撫でながら聞いて来る。
「もっと強い存在として生まれ変わるってこと。」
「強いって、ドラゴンとか?」
ドラゴンいるんだ。
「最終的にはドラゴンになるかもしれない。」
「じゃあ、今もふもふしておかないと。」
アヴェリーはしばらく私の頭を撫でた。三十分はそうしていたんだろうか。無言で撫でられ続ける。私は遠い目をして、星々を見上げた。あの空の向こう側に、ナクアがいるんだろうか。
いつか会える日が来るのか。そしてアヴェリーのナデナデ攻撃はいつ終わるのか。
それはまだ、わからない。
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