第10話 ゴブリンを倒すのです

 精神魔法でアヴェリーの考えを読み取ったり逆にこっちが考えるのを伝えることに思いついたのはそれからすぐのことだったが、それを実行するなら寝る前だろう。どれくらいMPを消費するのかがわからないので、下手に実行していざという時に魔法が使えなくなったらアヴェリーを守れない。


 というわけで、やってきたのだ。さっき発見した小さな洞窟。アヴェリーには見えなかったかもしれないが、暗視を持つ私には見えていた。ゴブリンが。



 名前 なし

 性別 オス

 種族 ゴブリン(グルーマー)

 レベル 3

 HP 201/201

 MP 33/33

 力 90

 敏捷 112

 耐久 128

 魔力 33


 スキル


 暗視


 称号


 森の嫌われ者


 加護


 マラゴースの恩恵


 説明

 

 知性の低い人型の魔物。身長110センチ、肌は緑色。人間を含む他の動物の赤子を攫って食べることから、嫌われ具合が半端ない。ゴブリンの女王から生まれる彼らは群れの規模が大きくなりすぎると弱い連中を集落の外へ放逐する。


 すると追い出された弱いゴブリンは寿命が尽きるまで洞窟などに住みつき始める。


 マラゴースによって創造された魔物の中で一番弱いと言われているが、規模が大きくなると小さな町を飲み込むほどまでの脅威となるため、女王を持つ集落を発見したら冒険者ギルドで最優先で討伐するクエストを発注するのが一般的だ。


 ただグルーマーの場合は子供でも倒せる弱さを持っていて、討伐推奨難易度はF。木のこん棒を持っているがスキルがないため振り回すだけである。


 名前すらない彼は、そのうち生存競争から脱落するだろう。




 つまり雑魚という事だ。アヴェリーの初戦相手にちょうどいい。ほら、囲まれないように私が守ってあげるから、倒してみて。私はそう思いながら、洞窟の入り口付近に座り込んでいるゴブリンの頭上を鬱陶しく飛び回る。私の羽ばたきは殆ど音を出さないためか、ゴブリンには気付かれない。蝶はスパイ活動に向いているかもしれない。しかし蝶のままではいられない。次も昆虫や昆虫のような小さな生物しか選択肢がないならどうしようか。見た目は選ぶ必要があるだろう、アヴェリーを怖がらせないためにも。


 アヴェリーは私に付いてきているので、このままだとゴブリンと接敵するのは時間の問題。彼女に私の意図が伝わったんだろうか。半魚人の槍をいつでも突き出す準備をしたままゆっくりと、闇の中で羽ばたいている私の元へと進んできているのが見える。見えている?見えてない?わからない。私はアヴェリーではない。だがアヴェリーはしっかりと私の方角へと歩いてきているのだ。草で編んだ靴の小さな足音が聞こえる。


 ゴブリンの巣穴へと誘い込んだと思われる可能性もあるので、後でフォローしておく必要があるだろう。どうするべきかはまだ考えてない。行き当たりばったりである。今のところは。少なくとももっとこの世界の成り立ちや仕組みを知らないと、当分は思いつきからの行動しか取れないだろう。


 クマの肉を食べて活力が満ち溢れているとは言え、果たしてアヴェリーは魔物を殺害することが出来るのかと、一応は心配をしているので、彼女が戦えなかった場合は私が皆殺しにする。


 洞窟の中は外から光が入っては来ているので真っ暗闇ではない。しかし暗視スキルがないアヴェリーは前があまり見えないだろう。そんな暗闇に目が慣れる前にゴブリンから攻撃を受けるアヴェリー。しかし彼女はしっかりと槍でガードをしていた。今更ながら槍を鑑定してみる。



 半魚人の槍


 海底に溜まる鯨の骨で出来た槍。半魚人が鯨の骨に手をかざすと、ダルゴーンの恩恵により槍へと変わる。鉄に負けないくらい頑丈ながらも軽いその槍は、冒険者の間でもそれなりの値段で取引される一品。


 ただその槍はダルゴーンの力が溶け込んでいるため、握ってる人から闘争本能を引き出す。長く使い続けるとやがて狂戦士へと至るであろう。




 要するに今は一度も戦ったことのない少女が使うには悪くないが、いずれ変える必要がある武器ってことか。


 アヴェリーはそれを振るって柄の部分でゴブリンを殴り飛ばした後、正確に奴の胴体を突き刺した。するとゴブリンの悲鳴が洞窟の中に響き渡り、ゴブリンが一匹また一匹と現れる。戦力の逐次投入である。倒すには絶好のチャンス。しかしアヴェリーはまだ動いていない。全部揃うまで待つなんて、愚策と言いたいところだが、ステータスを鑑定してみると全部グルーマーだった。


 アヴェリーでも十分に倒せる。ちなみに今のアヴェリーのステータスはこうなっている。


 名前 アヴェリー

 性別 女性

 種族 人

 レベル 3

 HP 188/188

 MP 79/79

 力 101

 敏捷 167

 耐久 111

 魔力 79


 スキル


 農作業 グリタリア南部公用語(基本) 槍術


 称号


 神に願いし者


 加護


 エギオンの恩恵


 説明


 半魚人に攫われ、死ぬところを通りすがりのウミウシに助けられた少女。ウミウシは蝶となり、これからも変化する。少女が一人前になるまで変わらず彼女を導くであろう。


 良質の新鮮な魔物の肉を食べたせいでステータスが上昇している。これからも彼女に新鮮で量子な魔物の肉を食べさせるべき。頑張って。




 鑑定さん、どうしたんだろう。私に対しての評価がやけに高いじゃないか。というか命令しているんだろうか。未来予知して、応援までされてる?鑑定さんには意志があったりするんだろうか。考えても答えは出ない。今こそアヴェリーに注意を向ける時。


 洞窟の暗さに目が慣れ始めたアヴェリーは、それはもう尋常ではないスピードでゴブリンたちを掃除し始めた。突き刺してから抜いて、柄で殴って、刃の部分で首を切り飛ばして。


 少し大げさに回避をしていること以外は素人とは思えないほどの強さで、アヴェリーは次々とゴブリンたちを屠った。しかし後ろからのゴブリンの一撃がアヴェリーの後頭部を狙う。だがそれは何かに阻まれたかのようにピタリと静止した。私が作った風の防壁に当たったのである。


 彼女が危険にならないよう、あたるタイミングで展開していたのだ。アヴェリーは殺気を感じたんだろうか、後ろを振り返ってから攻撃してきた奴を槍で突き刺して倒した。


 最後のゴブリンを倒したアヴェリーは私を見ては苦笑いを浮かべた。そのまま洞窟を出ると夕焼け空が広がる。この星の空は、地球で見たそれより鮮明だ。何もかも。太陽はずっと大きく、月もそう。夜になると天の川がはっきりと見える。


 アヴェリーは怒ってないのか、私に変わらずついて来る。クマの肉を干している場所へと戻る。薄く切って木の上に干してあったのだ。そのまま野生動物や魔物に見つかって食べられたら仕方ない、そうでないならしばらくの間は食糧の心配をしなくてもいい。


 それで行ってみると肉はそのままあった。ただ周りに狼が群がっている。それも真っ黒な狼だ。単純に色が黒いのではなく、まるで闇が狼の形をとっているかのよう。


 奴らは木に登ることは出来ないのか、体当たりを始めている。早速鑑定。


 名前 ワンウォウォ

 種族 影狼(魔物)

 性別 メス

 レベル 19

 HP 328/328

 MP 166/166

 力 208

 敏捷 339

 耐久 221

 魔力 166


 スキル


 呼び声 爪撃 影魔法 威嚇


 称号


 群れの統率者


 加護


 マラゴースの恩恵


 説明


 狼の姿をしている魔物。体全体を黒い魔素で覆っていて、それを使って攻撃する危険な魔物。群れを作って社交的な魔物であるため、名前まで持ってる。ただ人間には発音しずらい。


 群れ全体を相手取ることが多いため、冒険者ギルドからの討伐推奨難易度はB。高い難易度にも関わらず、魔素の抜けた綺麗な毛皮は手入れをする必要がなく頑丈なため、高値で取引されることから、多くの冒険者たちから狙われる。人型のゴブリンより知性は高い。



 見るとざっと八匹くらい。全部眠らせるには魔力が足りない。匂いに気が付いて何匹がこっちを、アヴェリーを見ている。こうなることは予想だにしなかった。言い訳のしようがない。私はどこからか森の脅威を甘く見ていたようだ。


 調子に乗っているという鑑定さんの言葉が身に染みる。だがまだ戦ってもないのに諦めるのは癪に障る。私は水の弾丸を作って秒速1㎞で飛ばした。あっさりと倒せた。


 なんだ、いけるじゃないか。私はすべての影狼たちにウォーターバレットをお見舞いして、一匹残らず倒した。表情があったらドヤ顔をするところだ。


 死んだ影狼の毛皮はなぜか真っ白だった。これでアヴェリーに防具を作ってあげよう。肉も食べられる。ただ肉ばかりじゃ栄養素が偏る。野草を鑑定して食べられるのを添えるようにするか。







 

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