第9話 二度目の進化からの
花の作り出した蜜はとても美味しい。前世は苦いものや辛い物が好きだった。甘いものはとてもじゃないが食べたいとは思えなかった。それがどうだ。蝶になった途端、甘いもの以外は食べたいとも思えなくなるではないか。
フクロウの魔物を倒した翌朝のこと、私はアヴェリーの前で進化して見せた。芋虫や蛹になることなく、そのまま蝶となった。寿命が普通の蝶のように短いわけではないからと言って、長々と虫の姿でいたいわけではないので、早めに進化した方がいいだろう。
と言っても、レベル上げの手段が倒すことに限定されてしまった。この口の形で肉食なんてもってのほか、植物でも蜜くらいしか飲めない。あっちへフラフラこっちへフラフラと、花を探して放浪の旅。
幸い、アヴェリーは私が変わったことに戸惑いすら覚えないのか、笑みを浮かべては付いてきた。ただ海から離れるのは得策ではない。半魚人は危険だが、奴らは近づいてきたら匂いでわかる。森の連中はそうもいかない。そもそも何があるかはまだ定かではないが、この数週間、海岸沿いを泳いで生きていた私は半魚人意外に捕食者になり得る魔物なんぞ見たことがない。
それが森に入った途端、フクロウの魔物に襲われるなんて、夜であることを考慮しても森は子供を連れてうろうろする場所じゃないのはわかる。だが花の魅力には逆らえない。蜜は至福である。誰も私を止められない。蜜をよこすんだよ、おら。
当然のように満腹にはならない。だからしばらく様々な花から蜜を堪能した私は、狩りを始めることにした。それとアヴェリーを元の居場所はと返してあげたいという気持ちは無きにしも非ず。
確実にそういう気持ちを持っているわけではないのは、村が安全であるという保障がないから。それに、アヴェリーは私と生活したら、死なない限り強くなれるだろう。こんな世界で強くなるとそれだけで大きなアドバンテージになるはず。
森の外延部をしばらく見て回っていた。アヴェリーと小川を発見したり、アヴェリーと小さな洞窟を発見したり、アヴェリーと崖を発見したり、アヴェリーと大きな木を見てはしゃいだりと、もはやただのハイキング。林間学校。引率者は怪しさ満点の蝶。生徒は一人。
真昼だからなのか、そうしている中でも魔物と接敵することはなかった。ただ感知範囲にはいたが、多分寝てる。それをわざわざ起こして殺すなんて、私一人、いや、一匹でならともかく、アヴェリーを連れまわしている状態ではあまりいい判断ではない。
だがいつまで魔物と出くわさないなんてことはあり得なかったんだろう、さすがに動きすぎた。クマの魔物に出会ってしまった。奴はアヴェリーと目が合っていた。アヴェリーが生唾を飲んでいる間に、私は木の枝に生えた花の蜜を飲んでいた。美味しいからさ。飲まないわけにはいかない。
いかん、蜜なんて飲んでる場合じゃない。だがやめられない止まらない。自分ではどうしようもできない。マーキングはしている。多分大丈夫だと思う。アヴェリーの前に風で壁を作ってる。アヴェリーは徐々に後退りしているが、そうする必要はない。
クマの魔物は、確かに強そうではあるけど、私には必殺技が出来たのだ。眠れ。そう念じながら魔力をそれなりに込めてクマの魔物に魔法を飛ばすと。
はい、眠った。私はまた蜜を吸い始める。念のために作っていた風の防壁も解除。私は奴の顔を水で覆った。奴が死ぬ前にステータスを確認してみよう。
名前 なし
性別 メス
種族 熊(魔物)
レベル 21
HP 889/1137
MP 199/199
力 1309
敏捷 311
耐久 691
魔力 199
スキル
威嚇 咆哮 爪撃
称号
森の頂点捕食者
加護
ジェフィーラの恩恵
説明
それなりに長生きして魔物に変じた熊。全長4.5メートル、黒い毛皮を持つ、ここら一体では誰しもが恐れる頂点捕食者。しかしその正体はのクマが大きくなって、スキルが少し生えてるだけである。ただ脅威的なステータスを所持しているため、冒険者ギルドが指定した討伐推奨難易度はAと高め。
寝ている。そして溺れている。もうすぐ死ぬ。
これが脅威的なステータスとな。私は力の項目に鑑定を発動してみた。こういうのはまだしたことないから、どうなるかワクワクする。
力
ステータスの中で力を表す項目
1ごとに10ジュールと変換できるよう、分かりやすく表記されている。ただ10以下の表記は継続的な活動においての物となっている。力が10を超えてから100ジュールと同等な力を発揮できることになる。
1ジュールが百グラムの物体を1メートル持ち上げるために必要なエネルギーだから、100ジュールだと10キロ。力10で10キロなら、力80で80キロ?アヴェリーの力は最初に86だった。だから86キロの物体を一メートル持ち上げられた。まあ、両手でってわけじゃないから、全身を使ってのデッドリフトなら86キロまでは行けるってことなのか?
アヴェリーが特別に怪力なのかは、比較対象がないのでまだ判断できないが、アヴェリーがそれなりに強いことはわかった。そしてクマの魔物が、1.3トンを持ち上げられる、まさに頂点捕食者と言う何相応しい存在であるということも。
1.3トンの力で放ったパンチを喰らったら粉々になること間違いなし。今の私なら83キロの物体を一メートルも持ち上られげるってことか。こんなちっちゃな体で。
ちなみにこれはレベルアップで上がった数値だ。あれから数分。クマの魔物はもう息絶えている。
名前 なし
性別 オス(可変)
種族 幻惑蝶(変異体)
レベル 33
HP 168/168
MP 67/491
力 83
敏捷 121
耐久 96
魔力 491
スキル
蜜感知 精神魔法 それ以外は同じ
称号
異界からの転生者 蜜に誘われしもの
加護
ジェフィーラの恩恵
ナクアの寵愛
説明
ちょっと強くなってから調子に乗ってる変異体の幻惑蝶。幻惑蝶は10年ほど生きるが、その前に進化する気になっている。普通の幻惑蝶より一センチほど大きいので、幻惑蝶の群れに飛びついたらハーレム作れる。
しかし最初に雌雄同体と性別が可変だったため、メスにもなれる。つまり逆ハーレムも作れる。これは進化しても続く、この変異体だけが持つ固有の能力。生きるのに便利だろう、多分。
なんで説明がふざけているのかは今更ではあるのだが、ふざけ度合いが増してないか?性別は、まだ考える時期じゃないだろう。別にオスでもメスでも、楽しく暮らせればそれでいい。そもそも他の同族と番うのは、いくら様々な経験の重さを尊ぶ私ですら、そこまでする必要性を感じない。少なくとも人間のような体になってからじゃないと。
それより魔力の上り幅がそれまでより広くなってる。同時に精神魔法がどれくらいMPを使うのかがわかる。400以上も使ってやっと眠らせるなら、記憶の改ざんなどには一体どれほどの魔力が使われるのか。
力がジュールだから敏捷は秒速メートルなのか?さすがに秒速121メートルでは動けない。時速?仮設なんて建てないで、実際に見てみよう。
敏捷
ステータスの中で敏捷を表す項目
分かりやすいよう、1ごとに時速100メートルを表すようになっている。これは持久力が続く限り継続的に動ける速度で、瞬間的な速度ではない。スキルや種族によって瞬間速度は表記されている速度を上回ることがある。状態異常にかかった場合は瞬間速度が表記された敏捷以下に下がることもある。
つまり今のアヴェリーは時速16キロメートルのスピードで常に動ける。私は時速12キロメートルくらい。
これが地球の単位をわかっている私にだけ見えるステータスな気がしてならないが、果たして他の人は鑑定スキルで何が見えているのやら。後でそんな人物にあったら、色々話してみよう。
それはともかく、ステータスが漠然とした数字ではなく、実際の物理的な数字であることが分かった。耐久とかは、後で確認していいか。
それより今はクマの魔物だ。熊肉は、クマがそれまで食べてきたものによって味が決まると言われている。例えば果物を主に食べる比較的に小さい黒い熊の肉は甘くて香ばしい。サーモンを主に食べるグリズリーは魚の匂いがするんだと。
こいつはどうだろう。この大きさだし、肉ばっかり食べてたんじゃないだろうか。なら問題ないか。ただこの世界でも生物濃縮が行われる可能性があるので、一応鑑定。
魔物となったクマの死骸
魔力を大量に含んでおり、美味しいだけじゃなく、食べた人に活力を与えてくれるだろう。この世界に生物濃縮なんて都合の悪い事象は存在しないので安心してどうぞ。
なるほど。安心した。鑑定さん、嘘つかない。私はわかるのだ。それはともかく、私はせっかくなので風魔法を使ってパパっと解体。皮に寄生虫の卵とかあるかもしれないので、皮は剥いでから放置。魔力が少なくなったのでいったん休憩。
アヴェリーははそうしている私をきょとんとした顔で見ている。信頼されている気はするが、果たしてこの子に私はどう映っているんだろうか。気になるところである。
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