第5話 初めての進化
耐久値が高い連中を相手にするには、絡み手が必要だ。この場合は、毒。こいつらに通用するのかどうかは、まだわからない。ただ魔力を上げるだけでは、自分の大きさと認識能力に似合った魔法しか使えない気がする。
魔法は認識している範囲でしか動かせないのだ。
今の段階で視力などの感覚器官の能力を上げるにも限界があるのは明白。
なら魔法よりスキル頼りにすればいいのではないかというのが今の私が考えた最適解だ。
思ったよりスキルが使えなかった場合は、普通にまたレベルを上げて進化すればいいだけのこと。エビでここまでかかったんだから、次に倍かかるとしても寿命が尽きることはないだろう、さすがにそこまで寿命の短い生物にはなりたくてもなれない気がするし。
毒(強)のスキル持ち、進化先に表示っと。
すると虫が何種類か出たが、これは無視だ。虫だけに。
水生生物は一つだけあった。アオミノウミウシ。この世界にもあったよ、アオミノウミウシ。小エビと大差ない小ささではあるが、成長したらより大きくなれる。
それに見た目が何といっても美しい。ウミウシはそれなりに美しい姿の奴らが多いが、アオミノウミウシはその中でも断トツ。
エビから大出世だ。気が早いか。いやエビからこんなにも早く見られるものになるって、なんて素晴らしい。
アオミノウミウシとは、英語ではブルードラゴンなんて呼ばれてる。羽のように横に広がる触手みたいなのがあるからだ。
ただまあ、ウミウシは貝の一種なのだが、エビから貝か。
進化と呼んでいいのか。見た目はいいし、いいか。
ただこの時の私は知らなかった。毒(強)を持つには、毒(強)を持つ生物を先ず捕食しないといけないということを。
まあ、進化してステータス確認してからすぐにわかったけど。
ヒトデがいる場所で進化するのもあれなので、ここは戦略的撤退をば。
それで実家であるサンゴ礁に戻ってきた私は、アオミノウミウシに進化を選んだ。すると体が薄っすらと光って、一分ほど待ったら進化が終わったことが直感的にわかった。
感覚からして違ったから。
早速ステータスオーブン。
名前 なし
性別 雌雄同体
種族 アオミノウミウシ(変異体)
レベル 1
HP 38/38
MP 255/255
力 21
敏捷 29
耐久 19
魔力 255
スキル
自己再生 毒(空) その他は前と同様
称号も同じ
説明
強力な毒性を持つクラゲを主食とする青いウミウシ。美しい見た目を持っているため、愛玩用で飼われそうなものだが、人に今まで発見されることはない。毒性は毒性を持つ海洋生物を摂取することで毒(強)まで発展する。
変異体なため通常の個体より強力なステータスを持つ。
今の私は変異体なのか。ただのエビから変異体のウミウシになってしまったぞ。
それと毒、今は使えない。残念でならない。
スキルは全部受け継いじゃったけど、水生生物じゃなくなっても水中呼吸が残ったりするんだろうか。早速泳いでみるか。
もう後ろに向かって泳ぐことはない。今の私は前を向いてる。前を向いて泳いでいる。前向きなんだよ私は。後ろ向きの私からは卒業なんだよ。
なんか精神が幼くなった気がするが、今はまだ0歳なんだし、仕方ない。
ウミウシの寿命はエビより長いはず。ただ気になったので一応寿命を確認してみるか。
なのでアオミノウミウシを鑑定してみたら、寿命の部分にこう書かれてあった。
寿命は僅か数か月で短い。
なんてこった。自分から死地に飛び込んでどうする。
これはいけない。ただ私には勝算があった。毒性を持つクラゲが主食というのは、クラゲの群れに飛び込んでしまえばいいじゃないかと。リベンジの時間だ。
今の私は前向きなのだ。逃げるだけのエビからは卒業だ。
早くも調子に乗っているが、浅瀬なんてこんなもんだろう。
ただ私は一つ忘れていたかも知れない。ここは海は海でも、異世界の海だ。異世界の惑星にある、不思議な海だ。
クラゲの群れに突っ込んで、クラゲを全滅させる勢いで食べていた時のこと。
アオミノウミウシになってから三日目の夜。まだ夜行性だから夜に活動している私は、見てしまった。
手にギザギザとした骨で出来た槍を持っている、半魚人を。
人魚なら目の保養にでもなったものを、何が悲しくて魚に異形の手足が生えた怪物と遭遇しないとあかんねん。
まあ、今の私は小さい。発見されることもなく、遠くで見ていたら見つかることもなく奴らは動いたのである。十数人ほどの半魚人が海から這い出て森の中に入る。奴らは魔物なのか。言葉を交わしているようには見えなかった。
私はしばらくの間、連中を観察してみることにした。
半魚人の観察なんて、こんなちっちゃな生物じゃないと出来ないというか、やろうとしてもこんな身近で見るのは無理だろう。
奴らは私が一メートルほどの距離まで近づいてもこっちに何の注意も向けななかった。
これは鑑定し放題じゃないか。
名前 ゲッペ
性別 オス
種族 半魚人
レベル 5
HP 367/367
MP 83/83
力 222
敏捷 198
耐久 186
魔力 83
スキル
水中呼吸 水魔法 槍術 暗視
称号
嫌悪されるべきもの
加護
ダルゴーンの恩恵
説明
海に生殖する魔物。青白いギザギザとした肌を持ち、腐った魚の匂いを漂わせる海の嫌われ者。
サメの卵を盗んで受精するため、メスは存在しない。単純ならが殺傷能力のある水魔法が使える。
時折漁村に現れては住民や家畜を襲い、海の中へと引きずり込んでから食べる凶暴性を持つが、知能が極めて低いため簡単に罠にかかっては討伐される。
フェイントが通じやすいことからEランク冒険者でも真っ向から倒せるとされている。
しかし群れの規模が多くなると中に強い個体が出現し、小さい漁村を破壊し尽くす場合もある。
この群れは大きいのか小さいのか。そもそも奴らはなぜ海から出て森に入ってしまうのか。なぜ海の外に森があるのかを知っているかというと、今の私は水面上へと上がれるからだ。
ただ完全に浮上するというより、体中が水の中に入っている状態でぎりぎり海水で薄い膜を作って。
これで遠くの景色が見れる。人間のようにあんまりはっきりとは見えないが、それが何なのかは何となくわかるくらいは見れる。
エビと大差ない気がしなくもない。それでも少しは良くなっていると感じてはいる。これが進化ということなのだろう。
それで数日程、私は猛毒を持つクラゲまで食べていよいよ毒(強)とそれなりにレベルを上げながら私は半魚人の連中を見ていた。
奴らは一体何をしに森へと向かっているのか。森の向こう側に何があるというのか。水面上を漂いながら見ていたら、奴らの中の一匹、私が鑑定したゲッペの肩ににぐったりとしている何かが見えた。あれは生物か。徐々に海の方へと近づいてくる。
するとぼんやりとしていた輪郭がはっきりとなり、私は初めてこの世界に生まれてから人間を目撃することになったのだった。
名前 アヴェリー
性別 女性
種族 人
レベル 2
HP 111/159
MP 68/71
力 86
敏捷 101
耐久 99
魔力 71
スキル
農作業 グリタリア南部公用語(基本)
称号
なし
加護
エギオンの恩恵
説明
クアイント村出身、9歳。両親が流行り病で他界し、親戚の家で暮らしている。好奇心旺盛で、迷子になることもしばしば。将来は大きな町へ行ってみたいと思っている。しかし半魚人に捕まってしまった。多分死ぬ。
説明がなんだかおかしくなっているが、それは置いといて。要はまだ小さい子供が捕まって、これから死ぬってことだ。
ただここには私がいる。別に助ける義理も義務もないが、打算はある。
それはずばり、経験だ。前世の私は人を傷つけることばっかりしていたので、今世の私は逆をしてみたらどうかと。
人を傷つける人生は一度生きてみたのだ、それをまた繰り返すことに私は意味を感じない。今世の私はそうしない人生を歩むことにした。ただそれだけのことである。自分が経験してないことを経験することで、自分の何かが変わるかもしれない。変わらないかも知れない。
ただそれは経験しない以上、知らないものだ。人に変わるよと言われて、自分がそうなる保証はない。逆もまた然り。
別に感謝されたいわけでも、善人になりたいわけでもない。要は自分が何を体験してみたいか。それに尽きる。
それにリスクは少ないように思える。なぜなら今回の私は正面で相手と戦うのではなく、絡み手である毒を使うからだ。
やり方は簡単。自分の体から伸びている触手を、さらけ出されているゲッペの足に刺す。奴が反応しそうならその時になって逃げればいい。
ゲッペがアヴェリーを担いだまま海の中に入ってくる。私は早泳ぎで接近。
念のため自分の周りの水流を操作してバリアーを作るイメージで固める。それからちくり。
するとゲッペは数秒で死んだ。レベルが上がった。哀れゲッペ。ゲッペなんて名前を付けられたばかりに死んでしまったじゃないか。
ゲッペ、忘れないぞ、ゲッペ。いや、まあ、多分忘れる。明日くらいは忘れると思う。うん。しかし半魚人はゲッペだけじゃない。奴らはゲッペの異変に気が付いてこっちに近づいてきている。しかもアヴェリーはそのまま落っこちて顔が水中に。
絶体絶命?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます