第6話 水中呼吸の秘密

 ゲッペは死んだ。だがゲッペの雄姿を引き継ぎ、半魚人共がこちらに近づいてくる。私は発見されていない。当然だ。幻の生き物を半魚人なんぞが発見できるわけがない。


 次の奴に向かって早泳ぎし、毒を注入。はい、死亡。そうやって次々と半魚人の臭い足に触手をぶっさすごと六回。ここで異変が二つ起きた。一つはアヴェリーの意識が戻り、海から顔を出したこと。


 もう一つは、私の触手が半魚人の中でも一段と大きな個体の足に刺さらなかったこと。


 奴を鑑定してみたら、名前はどうでもいいとして、種族名が半魚人(マローダー)となっていた。


 これはあかんやつや。耐久とHPが異様に高い。ちなみに毒自体に問題はない。なぜなら今の私は猛毒を持つクラゲを食べてから奴のスキル毒(強)がデフォルト状態になっているからだ。毒(空)ではないのだ。スキル吸収があるから毒切れなんてことにはならない。多分魔力で作れている気がするし。


 このマローダーの半魚人、私には気が付かなかったにせよ、必死に逃げ始めているアヴェリーにずかずかと近づいている。アヴェリーちゃんは私が守るぞ、なんてことは、今の私に出来る気がしないのだが。だが前向きになったのだ。前向きになった私の最後の前向きネタの引っ張りは今この時しかない。


 ちなみに今の私はさっき明らかに格上の半魚人を倒しているためレベルがかなり上がっている。


 ステータスはこんな感じ。


 名前 なし

 種族 雌雄同体

 種族 アオミノウミウシ(変異体)

 レベル 56

 HP 52/52

 MP 310/310

 力 36

 敏捷 41

 耐久 34

 魔力 310


 相変わらずステータスの伸びは魔力以外は小数点以下ではあるが、魔力はついに300を突破。それに前より水流を操作する技量も格段と上がっている。今の私に怖いものはない。なんてことはないが、さすがに魔力100以下の半魚人が、水魔法なんて持ってて、それで人間を相手取ることも出来るとしたら。


 それは私にも出来るということ。エビの時はそもそも見えている範囲が狭すぎたため、魔力の操作からして手間取っていた。しかし今は違う。今はエビよりはそれなりに遠くが見えて、魔力操作技術も上がっている。


 すると何が出来るのか。水中呼吸のできる半魚人を窒息させることは無理だろう。だが柔らかい部分くらいなら、壊せるかもしれない。出来れば毒だけで処理したかったが、こうなった以上状況を打破するために、ぶっつけ本番で行動に移さないといけない。


 私は水面上に体を出し、ウォーターバレットを奴の大きな目玉に向かって発射した。


 途中で軌道がぶれそうになるも命中。目玉を貫いた弾丸は奴の脳みそにまでたどり着いたのか、倒れて動かなくなった。そして私はレベルが上がった。


 こんな数センチほどの生物が自分を攻撃しているとは思わないだろう。実際に私以外にもこの辺りには小さい数センチほどの生物はそれこそ数十匹はいる。


 相手には魔力感知、なんてスキルがあるかどうかはわからないが、持ってないのは確か。つまり、奴らは自分たちを攻撃してくる相手がどこにいるのかもわからないということだ。


 ただ私が見える範囲はそこまで鮮明に映るわけではないので、発射する前に目の位置を把握するため、早泳ぎで近づく必要がある。それで発見されたとしても、混乱している状況はどうしようもないだろう。奴らはアヴェリーちゃんのことは忘れてきょろきょろと見つからない敵の存在を探すのに必死だ。



 連中がそうしている間に一匹、また一匹と私のウォーターバレットによって倒されていく。二回ほど的である目から少し離れた位置にウォーターバレットをぶつけてしまったけど、だからと奴らは目をかばうこともせず痛がるばかり。


 結局最後の最後まで奴らは混乱したまま全滅してしまった。


 一仕事終えた私はこの後どうするか考える。アヴェリーちゃんは自分が今どこにいるのかわかっているんだろうか。彼女のことを確認してみたら砂浜に座り込んでシクシクと泣いていた。


 彼女の村から捜索が行われているとして、ここが一直線上にあるとしたら、最終的に発見はされるだろう。アヴェリーちゃんはそれを知っているのか知らないのか動こうとしない。立ち上がり周りをきょろきょろと見て、また座る。この辺りには一度も来たことがないのか、そもそもここから村までの距離はどれくらいになるのか。


 そして私は半魚人を食べてしまうのか。いや、まあ。今食べているが。食べるよ、そりゃ。経験値だし。エビからアオミノウミウシになっても味なんてしないし。槍術スキル付いたし。今は振るう腕も持ってないが、いつかきっと、役立つ日が来るはず。


 この世界のスキルは、ただ身に着けていることを表しているだけではない。その逆。スキルとして表されないと身につけることが出来ないのだ。一生懸命頑張ったところでそのスキルが身に着けることはない。私も同じ。ただ加護によってスキルの付き方が違う。



 加護



 神々から貰うことによって能力を授けられる。加護がないとスキルに該当する能力は使えない。


 人間の場合は神殿にて祈りを捧げることで加護がついてスキルが発現する。切に願う人間の声聴いたら、星の守護神エギオンはその人に合う能力を授ける。エルフには魔法の神グラッシアン、ドワーフには鍛冶の神デマラックが付いている。


 魔物には破壊と混沌を司る神々の恩恵が付くが、彼らの加護ではスキルより能力値が上がりやすい。動物にはその動物が生活する環境によってまた違った神による恩恵を自動的に授かる。


 人間やエルフ、ドワーフは魔物や動物が持つ固有のスキルを授かることは不可能とされているが、魔物や動物が人間やエルフ、ドワーフが持つスキルを持つ場合は少なくない。


 それは星の神々が根本的に同じところから力を引き出し、生物にそれを授けるからである。



 ここで疑問。すべての行動にスキルが必要とされるわけではないとする。なら水中呼吸はなぜスキルに入っているのか。それはデフォルトとして生物が持つ能力はスキルにならないからだ。それ以上を求める時にスキルになる。水生生物に水中呼吸が付いているのは、そうでない状態がデフォルトじゃないから。


 鑑定してみたらこのように書かれてあった。



 水中呼吸


 水生生物がネプトヌスから貰う恩恵。



 この文章全体をまた鑑定してみる。

 すると隠れた意味が現れた。

 


 一般的にはネプトヌスの恩恵により授かるもの。遥か昔、海はネプトヌスが原初の生物が創造される場所であった。しかし時が過ぎるにつれ、海は制限なく増えていく生物により澱み、取り返しのつかないところまで進んだ。生物は自らが生み出した澱みにより殆どが絶滅した。


 残りわずかな生物の中から、地上に這い出たものが現れることにより澱みは止まるも、ネプトヌスは再びそのような状態が起こる可能性を是としなかった。彼は自分の管轄下にあるすべての生物に、どのような水の中でも呼吸の出来る恩恵を与えたが、同時にそれを奪われた瞬間呼吸の出来ないようにと生物の在り方を捻じ曲げた。


 その判断は創造神であっても罪となり、彼は星の守護神の座から降りて、因果の神であるエギオンが守護神の座を受け継いだ。

 



 鑑定の新しい可能性に私は歓喜した。アヴェリーはそっちのけに歓喜した。


 別に彼女は命の危機からは脱しているのだ。今は問題ないだろう、多分。心の傷さえ癒えれば何とかなる。それが問題かもしれないが、今の私ではどうしようもない。


 前向きになることにも限界がある。


 それはそれとして、村からここまでどれくらい離れているんだろうか。確認しないとわからない。しかし鑑定して確認してみたけど正確な距離まではわからなかった。そもそもここが具体的にどのあたりなのか、地名すらもわからないと言うのに村からの距離を鑑定スキルだけで調べるにも限界があったというわけだ。


 困った。じゃあ私が水流を操作して村まで行ってみる?さすがにそれは私の限界を超えている。


 さっきから限界しかないじゃないか。限界は突破するものじゃなかったのか。それは気のせいか。限界を突破したら反動が来るのは当たり前だ。どうしようか。






 

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