第2話 出会い
「君、大丈夫?」
自分が柵を越える前にはいなかったはずの、季節外れな半袖の白いワンピースを着た黒髪の少女が自分に声を掛けてくる。
「はい、大丈夫です。」
とすっかり口癖になってしまった言葉を吐いた。そうすれば立ち去ってくれるだろう、この少女が自分の前から消えたらもう一度やり直せばいいと思った。
「どうしてあんなことをしたの?」
予想外にも再び声を掛けられた。
正直、今日は誰とも話す気はなかった。だから空っぽな返事をしたのにもかかわらず、目の前の少女はもう一度質問をしてきた。戸惑いの気持ちとともに自分を地獄に引き戻した少女に苛立ちすら感じていた。
「君には関係ないよ」
自分のやりたいことを邪魔され、1人になりたい気持ちから突き放すように言い放った。これで1人になれると思った。また心の整理をしなきゃな、と考え始めていると
「あなた、名前は?歳はいくつ?」
こりずに少女は質問を繰り返してきた。正直自分には何を考えてるのか分からなかった。死のうとしてた人間の何をそんなに知りたいのだろうか。しかし、このまま無視を続けたところで立ち去ってくれる雰囲気では無いことを察し、
「山岡竜之介。歳は21。」
そう伝えると少女は軽く微笑み
「私は礼衣。歳は……秘密。」
と興味の無い情報を伝えてきた。
「で、もう一度聞くけど竜之介はどうしてこんなところであんなことをしたの?」
しつこい。そう感じたものの、やはり無視出来る空気ではなく
「救われたかった」
一言、そう伝えた。
「死ぬ事が救いになるの?」
一瞬目を丸くした後、礼衣が不思議そうに尋ねてくる。
「分からない。ただ、生きるのが苦しくて他に逃げ道が無かった」
不思議だった。たった一言なのに、両親にも友人にも伝えられなかったことを、目の前の初めて会ったばかりの少女にはすんなりと伝えることが出来た。二度と会うことは無いと無意識に思っているからなのか、自分がやろうとしたことを邪魔されたことに対する腹いせなのかは分からない。
それを聞いた礼衣はまた質問をしてきた。
「ねぇ、竜之介。あなた今いくら持ってるの?」
今までの話の流れと全然違う質問に一瞬思考がとまる。だが落ち着いて考え直すと、ただ金が欲しくて助けたのかと納得した。
「2000円だけ。」
真実を伝えた。そもそもここで終わるつもりだったのだからここまで来るための交通費を持っていただけで、そこまでお金を持つ必要はなかった。
「ほんとにそれだけ? 家には?」
しつこいな、と思いつつも質問に答える。
「貯金は80万くらいあるよ」
と少し自慢げに答えると礼衣は目を輝かせ、
「どうせ死んで無くなっちゃうならそのお金これから全部使おうよ。」
と提案してきた。結局金目当てか、と呆れはしたものの、将来のための貯金だったそれはもう要らなくなったものだったので断る理由も無かった。しかし、1つ疑問がある。
「いいけど何に使うの? 礼衣に任せるよ。」
そう、自分としては明日以降食べたいものやしたいことを一切考えていなかった。ならば礼衣がしたいことに金を使い、満足させ礼衣が自分の前から消えたあと今日のやり直しをすればいいと考えた。
礼衣は少し考え込んだ後こう答えた。
「超高級焼肉を食べて美味しいお酒が飲みたい!」
高級焼肉や美味しいお酒が飲めるような場所というと、銀座などだろうか。六本木や築地なども大きな市場が近くにあるためそういう店が多そうだ、どちらにしろ都内に向かうことになるな。そんなことを考えていると礼衣が少し呆れたように
「早く行こっ!」
と腕を引っ張る。正直、自分で歩く気力は無かった。しかし礼衣の雰囲気に流されるまま、先程まで進もうとしていた方向の逆側へ体が進む。1度後ろを振り返るとかなり傾いていた太陽が水平線に沈みかけていた。
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