家電好きな男が住む家
ナナオイ
1話完結
広大な土地を持つこの国には開拓しても仕切れないほどの土地がある。そこには夜も光が絶えない都市部に対して、昼でも遭難してしまうほどの森が広がっていたりする。そんな森の中に立派な家を建て、一人の男が住んでいた。別に人嫌いというわけでは無いし、男は家電が好きで有名な企業の新しい家電が出ると、わざわざトラックを出して買いに行くほどだったが何故か森に住んでいる。森は景色が特段いいわけでも無いし、夜なんかは若者たちから心霊スポットとして恐れられている所だった。何故男がこんな所に住んでいるのか。その答えは男の家に居るものだけが知っている。
今日もウチの家電たちは賑やかだ。朝起きるとまずラジオが砂嵐の無い綺麗な声で「おはよう!」と言ってくれる。俺も「おはよう。」と返す。洗面所に行くと洗濯機がご機嫌にしている。何かいいことがあったのかと聞くと洗濯機は太い声で答えた。
「なあ、聞いてくれよ。今日の朝でタオルを洗った枚数が100枚になるんだよ。」
「あぁー、そういえばタオル好きだったな。」
「そうなんだよ。今から楽しみだぜ。」
リビングに向かうとエアコンがまだ寝ていた。春や秋といった時期に彼は動くことが少ないため大分ぐうたらしている。エアコンとは逆でいつでも動く可能性がある扇風機はシャキッとしていて俺にシャキッとした声で挨拶をした。机の上ではテレビと電気ポットが最近の情勢について話していた。その声で起きてきた掃除機はあくびをしながら声でみんなに挨拶をした。
「ひんひゃ、おはひょー(みんなおはよう)。朝ごはんできてる?」
あまりに頓珍漢なことを言う掃除機をみんながきょとんとした顔で見つめる。そんな中、扇風機がツッコミを入れてあげる。
「おはよう掃除機。朝ごはんは無いしそもそも僕らはご飯を食べないぞ。」
それを聞いて恥ずかしくなって焦りながら「あれ、そうだっけ」なんて抜かす掃除機。それを見てみんなは笑う。
「いやぁ、ごめんごめん。コンセント繋がってないからどうにも記憶がね。」
と、掃除機は弁明する。ゴミを吸う時くらいしかコンセントを刺さないため掃除機の記憶は大概曖昧だ。そんな彼でも回路がつながっていないと記憶があやふやになることは覚えてる。
そのうちねぼすけのエアコンも起きてきて、それからみんなで雑談をした。そんな中掃除機が何度か変なことをいいその度にみんなで掃除機を見つめた後扇風機がツッコみ、掃除機は恥ずかしがりながら訂正した。しばらく話しているとみんな疲れてきたのか少し間ができた。その間にエアコンはまた寝てしまったしテレビと電気ポットはまた情勢について話し出した。俺は基本相槌を打っていたのであまり疲れなかった。
「おはようございます。」
聞き慣れない声が入ってきた。みんなが「おはよう」と返す。プラスチック製の人形だった。茶髪で目が大きく綺麗なドレスを着ていた。どこを見ても回路らしき物は見当たらない。俺は疑問をそのまま口にした。
「あれ?人形も喋れるんだっけ?」
みんなが俺を見つめる。想定外だったのか満を持してだったのか扇風機がツッコミを入れる。
「君も人形だろ。」
みんなが笑う。俺は背中に手を当て電池の入っていない窪みがあることを確認した。俺は恥ずかしくなって
「あれ?そうだっけ。」
と笑いながら言ってみるとみんなも笑った。
家電好きな男が住む家 ナナオイ @inananao
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