代理学園スピンオフ 透海視点

藍夢

Falling story

1 歪む情



数年前


○○県某市


賑やかな小部屋に電子音が響く


周囲に居た子供達は、そのゲームの勝利の音を聞き付け僕の元へ駆け寄ってくる


「透海!!また1位取ったのかよ!!すげぇな!」


と、1人の“兄貴¿?”が歓喜の声を上げる


「流石俺等の弟/妹だな!!!」


姉貴¿?と兄貴¿?が続けて同時に声をあげる


「兄貴五月蝿いからもっと静かにしろよ」


笑い声が絶えない場所


ここは少年院、犯罪を犯してしまった子供達や両親の居ない子供達が沢山集う場所


僕は、5歳の時に此処へ来た。

その前は祖父母の家に居たけど、どちらもいつの間にか居亡くなっていたから。


小学生になって少年院から僕ともう1人の──「遥輝」という男の子と小学校に一緒に通っていた。

遥輝は明るくて、リーダーシップがあって笑顔を絶やさない奴だった。

でも小学校では住処が少年院という理由があり生徒は勿論、先生からも奇怪の目を向けられた。

特に僕は───だから遥輝よりも拒絶、無視等をされた。

そんな僕をいつも遥輝は慰めてくれた。


学年が上がるにつれ僕と遥輝は段々と耐え切れなくなって問題行動を次々と起こしてしまうようになった。

授業を無断で抜け出す、無断欠席、物の破壊等、

その度生徒指導室に連れて行かれた。

僕等は何をしても気が紛れず、徐々に笑顔が失われて征ったまま卒業を迎えた。


「卒業、僕等なんかに出来たんだね」

そんな会話を交わしながら帰路に着く。

互いの感情のない声を交わしながら———



中学生に上がると環境が一気に変わるも僕等は毎日学校に行っていた。

けど、互いに小学生の頃のトラウマでコミュニケーション障害になっていた。

やっぱり、奇怪の目が向けられ続けるのは変わらなかったから授業中はずっと屋上にいた。

遥輝は───いつの間にか学校に来て居なかった。


「逃げたんだ、本当屑だな」


少年院では、皆が「家族」と云う物のように暮らして居る。

唯一その場所だけが安心して生きられる場所で、

遥輝はそこに留まることを決めたらしい。



何かが壊れた



「家族」と云う偽りの集団と縁を斬りたくて、

中3の夏に僕は誰にも何も言わず深夜3:47、少年院を後にした。




部屋に一輪の漆黒の鬱金香を残して









思い出の電子ゲーム機器を抱えて明け方に近い街を走り抜ける。

心がモヤモヤしていたけど、よく分からない。


とにかく離れたくて必死だった。

虚で出来上がった偽物から、離れれば離れる程僕が失われて征く感覚があったけれどまた作り直せばいい。

彼奴等に洗脳されかけたこの性格も、

何も感じない様なこの心も、

全てが偽、僕自身でまた作るんだ。

そんな思いでずっと走り続けた。




何時間走ったのだろう


目の前に広がる光景は絶望に染っている。

外出すら登下校以外殆どしたことが無い僕にとって、未知の土地というものは地獄でしか無い。


少しだけ後悔をするも後戻りはしたくないから少しずつ歩んで行く。




「此処は、、何処、?」




とりあえず、一時的に住める場所を探しておいた方が良さそうだ。

家賃は遺産で何とかなるはず。

幸いにも近くに安く借りれるマンションがありそこに留まることにした。


───此処、稀に変なセールスマンらしき人間が立ち寄るから気を付けてね。


大家さんがそんなことを言いながら部屋を案内してくれた。いきなりホラーな事を呟かれた為少し戸惑うも「稀にだからね」と言われ安堵の息を漏らす。

まだ捨てきれていないこの性格だ、そもそも対応出来るのかすら分からない。


部屋に着いて、大家さんに一言礼を伝え直ぐさま荷物の整理をする。

───整理整頓は正直苦手だ。少ない荷物だからといい、どう頑張っても足の踏み場が無い。


何とか荷物の整理を終わらすも、やはり人1人が座れるスペースしか無い。

渋々その空いたほんの小さなスペースでゲームを開く。


正直、あいつらから全て離れたかったけれど、好きな物はどうしても離すことが出来ない。

だからこのゲーム「スカイバスターズ2」だけは離さず、ここまで持ってきた。


僕がよく「スイカバスターズ」って言い間違えて、彼奴等は笑っていたな───


『よろしくお願いします!!』


考え事をしていたらボイスチャットで1人の女の子が挨拶をする。

続けて他2人もボイスチャットで挨拶をする。


(ゆきみさん、つきみさん、音猫さん、か)


メンバーを確認したところで僕だけボイスチャットに繋いでいないことに気づいて、直ぐさま繋げる。


『touaです、よろしくお願いします。』


堅苦しいと思われるが無理も無い、初対面なのだから当然の事だろう。


『よろしくね!touaさん!!』

なんだか胸が暖かくなったような気がした。

心を落ち着かせると同時にゲームが始まる。


数時間経つと、初対面だったはずの4人だけれどもいつの間にか会話がかなり発展しフレンドにもなっていた。


『つきみってルルァのランクもうそこまで上がってるの!?』

『ゆきみの方こそシュリンのスキル値高くない!?羨まし〜!』

『touaキル数凄、、尊敬する、、!!』

『音猫も立ち回り凄い上手だよ、キルも確実に取ってて良いね』


少し慣れない言葉遣いながらも、その新たな環境に直ぐさま染まれた。

僕を隠し続ければきっと、あの時には戻らないから。


『そろそろ落ちる〜』

『了解、また明日もやろうね!』

『そうだね、じゃあまた明日』


これから、此僕をよろしくね。



数ヶ月後

卒業式シーズンの此頃、今日は一人でとゲームをしていると突然インターホンが鳴り響く。

何か注文したっけ?などと思いつつ扉を開けると、知らないおじさんがいた。


___稀に、変なセールスマンらしき男の人が立ち寄るから気をつけてね


大家さんの言葉を思い出すがもう遅い。

そのおじさんは、

「君、透海ちゃん?くん?まぁどちらでも良いけど」

と言い名刺を差し出してくる。

結構ですと断るもしつこくて渋々受け取ってしまった。

「僕さ、君を勧誘に来たんだよ!」

明らかに誘拐オーラを出しまくっているおじさんが淡々と話しだす。

「僕は『代理学園』って云う学園の案内人で君がリストに加入されたのを聞いてこれを渡しに来たんだ。ちゃんと受け取ってくれ!」

そう言い僕に両面真っ白いトレーディングカードを渡してくる。

「何これ、、ただのゴミ、、」

「ゴミじゃ無いよ!!ほら、表面見てみな?」

さっき見たのにと思いつつ表面を見るといつの間にか文字が記載されていた。

「あなたの夢は、?」

「そう!君の夢を此カードに唱えるんだ。そしたら入学証が発行されたことが学園側に行く、君は新たな新入生になるんだよ!」


何を言ってるんだ此奴は、、

そもそも僕が其の学園に入学する前提で話が進んでいる。

不審者だ。


「___何が目的かは知らないけど、小汚い怪し過ぎるおじさんの話には乗れません。さっさと帰ってください。」


少しだけキツめに言うと「これだから此仕事は嫌なんだ」とおじさんが呟く。

「まぁまぁそんなことは言わずに!ほら、夢くらい唱えてみてよ!」


あまりにもしつこいから、渋々夢を唱える。

___夢、なんて僕には無いけれど此程度でも良いよね、、?


「プロゲーマーになりたい」

すると突然カードが光だした。

あまりの眩しさに怯むも直ぐに光は消え、おじさんが喋りだす。

「うん!これで入学証も学生証も発行完了だよ!4月某日、入学式が有るからまた今度は迎えに来るけど、カードは捨てないことと、寮に住むなら荷物をまとめること!」

そう言い、おじさんは去って行った。

あまりの突然の出来事で如何にも頭の処理が追い付かない。

とりあえず、部屋に戻りゲームを再開する。


4月某日か___少しだけ希望が見えた様な気がする。

本当の僕を隠せば前みたいにはならないから、僕を作り上げよう。

過去の僕は彼奴等が作った「屑」だから。


「よろしくね、僕」

鏡に向かってあからさまな作り笑顔を向ける。


これで良いんだ。



おじさん、去り際に「其の程度の嘘が分からないわけ」って呟いていたの聞こえてたからな。

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