第21話 大人の子どもとホテルの部屋

(大人の子どもとホテルの部屋)


 夏休みも終わりに近づいたころ、真理子と雪子は誠のホテルにいた。


「やー、君たち、宿泊ですか?」


 誠は、普通のお客さんと同じように、丁寧な言葉使いと笑顔で迎えた。


「そうなの、誠さんと食事がしたいと思って……」


 真理子は、昔から知っていた人みたいに、親しそうに話す。


「それは光栄ですねー」


 誠の嬉しそうな顔……


「今日でもいいけど、都合が悪かったら、お休みの日とか?」


 真理子は、礼儀正しく、誠の都合を聞いた。


「今日ならいいよ! お酒を飲むかもしれないから、部屋も空いているから、取ってあげようー」


「お兄さん、女子中学生を誘惑するつもりなの?」


「いやー、そう言うことではないけど……」


「誠さんとなら、一緒に寝てもいいわよ」と真理子。


「……、そんなことは大人になってから……」


「あら、あたし、もう大人よー」と真理子は声を大にして言った。


「ちょっと、ちょっと、誰かに訊かれたら大変だっ!」と誠は声を細めた。


「あたしの裸、見たいでしょうー?」と真理子。


「じゃー、今度ゆっくりと、今日の勤務は16時に終わるから、17時に食事しようー」


「食事は、レストランで、窓際の席でねー」と真理子。


「かしこまりました……、それで、部屋は大きな部屋にしてあげよう、今日は暇なんだ、あとはお母さんか、お爺さんが来るのかな?」


「いえ、私たちだけよー! 愛し合っているの……」と雪子。


「え、君たち二人だけ?」


「誠さんも、一緒でもいいわよ」と真理子。


「え、……、それはできないよ。保護者なしには泊まれないんだ。それに食事だって予約がいるけど……、三人だけでよければ、僕が予約を取ってあげよう……、でも泊は、なしで……」


「そんな……、不公平よ。あたしたち、もう大人よ」と真理子。


「それは分かっているけど、15歳以上ということになっているんだ。あとちょっとだね!」


「……、お母さんに電話してみる。保護者の許可があればいいんでしょうー」


 真理子は携帯電話から加代に電話をした。


「お母さん、雪子と二人で誠さんのホテルに来たんだけど、誠さんにホテルの部屋に押し込められて、出れないの、助けに来てー」


「……、なんですってー!」


 加代の怒鳴り声は、携帯から離れていても聞こえた。


「ちょっと、ちょっと、違うからー!」


 真理子は、誠さんが聞こえるように、携帯を向けた。


 誠は、慌てて真理子の携帯を奪い取って……


「冗談だよっ! そんなことしてないから、中学生同士で泊まりに来たから、保護しているだけだから、なにも、なにもしていないから……」


 真理子は、誠の前に手を伸ばして……

「あたしの携帯……」


「ちゃんと説明してよ……」と誠。


 真理子は、再び携帯を受け取ると……

「誠さんが、大きな部屋を取ってくれたのー! 一緒に泊まりに来ない。食事もご馳走してくれるって、その先どうなるかわからないから、早く来てー!」


「待ってなさい、すぐに行くから!」と、加代の声。


「聞こえたでしょう。そぐに来るって……、だから、お部屋お願い……」


「……、……、誤解されたかなー」と、誠はカードキーを真理子に渡した。





部屋は最上階で見晴らしがよく、床から天井まで届く窓が印象的だった。

窓の向こうには尖った山々が見えた。


「いい部屋ねー! 大きなベットと畳みの部屋ねー」


 真理子は、部屋を一周してから、大きなベットの上に飛び込み、体を揺らしてベットのクッションを確かめた。


「気持ちのいいベットよー!」と真理子。


 雪子も、それを聞いて、真理子の横に飛び込んでベットを揺らした。


「……、楽しいわねー!」



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