第22話 ふたりの再会

(ふたりの再会)


「すみません! 柏木ですが、誠さん、ご迷惑をおかけしました……」


 十五年ぶりの加代の声だった。


 そこには、昔と変わらないくらい美しい女性がいた。


 その顔で、昔の思い出が昨日の出来事のように思い出される。


「いえ、久しぶりです。ご足労をお掛けしました。せっかくですから、食事でも、四人分の予約がしてありますので、どうぞ……」


 誠は、少年に戻ったみたいに胸がドキドキしていた。


「ありがとうございますー、あの子たちは……?」


 加代は昔と変わらず、しっかりと誠を見据えていた。


「さっき、ゲレンデの方に出て行きました。あと食事まで一時間くらいですので、部屋で待っていてください。これカードキーです……」


「すみません、きっと怒られると思って、逃げたんですわっ!」


 加代は、体裁が悪そうに渋い顔を見せた。


「そうですか、楽しいお嬢さんたちで……」


 誠は、少し微笑んで答えた。


「……、苦労ばかりですよっ!」


 加代は、ロビーから見える窓の外を眺めて、顔をしかめて言った。


「先が楽しみですね……」


「それで、ちょっと込み入った話とお願いがあるので、仕事が終わってからでいいですので、私の部屋に来ていただけないかしら……?」


 加代は、誠を見つめて言った。


「いいですよ……、込み入った話とは?」


「お部屋で、お話します……」


「僕の仕事は、もう終わりですから、部屋で待っていてください、着替えていきます」


「お願いします……」





 誠が、加代の部屋に入ると、加代はベットで眠っていた。


「鍵もかけないで、不用心だなー」と思いながら……


 日々の生活によっぽど疲れていたのだと思った。


「加代さん、……」


 一声かけただけでは、は起きなかった。


 よく寝ているので起こすのが可哀そうに思えた。


 こうしてまじかに見るのは十五年ぶり、変わってないなっと誠は思った。


 変わったとすれば、自分の気持ち、十五年前は、どうしてあんなに好きだったのだろうと思い返していた。


 若かったからと言えば、そうなのかもしれない。


 でも、今はどうかと訊かれれば……


「やっぱり、好きなのかもしれない……」


 誠は、自分の心を確かめてから、もう一度、加代に声をかけた。


「加代さん……」


 そう言えば彼女、一度寝ると、なかなか起きないことを思い出した。


「加代さん! 加代さん!」


「……、よっ子!」


 いつまでだったかな? この名前で呼んでいたのは……


 カー子って、言ったら、カラスみたいで嫌だと言って、よっ子になったんだったね。

 でも、意地悪して、カー子、カー子って、からかったりもしていたけど……


 そんな君が、高校生になったときだったかな?

 もう、他の人に変に思われたくないから、よっ子とは呼ばないで、加代と呼んでっていったんだったね。


 それから、加代さんって呼ぶようになったんだ。


 僕のことも、マーちゃんから誠さんに変わっちゃったね。


 でも、そのことが、大人になるということだったのかな……

 いつまででも、よっ子、マーちゃんって、子供でいられない……

 分かっていたけど、ちょっと寂しかったよ……


 呼び方を変えても、何も変わらないのにって思っていたけどね。

 

 でも、君はそれから、僕たちを置いて、東京の大学に行ってしまった。


 よっ子を卒業したんだね……




「……、よっ子!」 


 その声で、加代は薄っすらと目を開けた。


「……、誠さん!」


「……、よく眠っていたよ」


 加代は、ベットに寝たまま、光が眩しいのか腕を上げて目を隠した。


「……、ちょっと、ベットで横になっていたら、あまりにも気持ちよくって、寝ちゃった!」


 加代は、はにかむようにゆっくり話した。


「そう、疲れていたんだね……」


「そうかなー? 東京に居た頃は、ぜんぜん眠れなかった。いつもイライラしていた……」


「そう、……」

 誠は、ひとこと言っただけだった。


「こちらに帰って来て、よく眠れるようになった。ほんと不思議なくらい……」


「そう……」

 誠は、もう一度、繰り返した。


 窓の日差しが斜めにさしていた。


「……、いい部屋をありがとうー!」


「いや、僕にできることは、これくらいだから……」


 加代は、誠が、ずっと立っているのに気が付いた。


「……、ごめん、いつから立っていたの?」


「いや、今、来たばかりだよ……」


 加代は、誠がいつもの嘘をついていると思った。


「……、ちょっと話があるって言ったでしょう。だからちょっと座らない」


「ベットに座ってもいいの?」


「……、一緒に寝てもいいわよ!」


「ちょっと、それは、でも娘さんと同じことを言うんだねー」


「あの子、そんなことを言ったの?」


「そう、……」


「……、怖いわねー、でも誠さん、好かれているみたいね!」


「それは、光栄なことで……」


「誠さん、今、誰か女の人と付き合っている人、いるの?」


「……、いないけど!」


「本当に……?」


「本当だよ……!」


「それならよかった、話、しやすいわー」


 誠は、それを聴くと、ベットの横に腰を掛けた。


「……、話っというのは、私と付き合っていることにして欲しいのよ。嘘でいいから!」


「付き合う……?」


「そうなの、それで娘の前で宣言するのよ。恋人宣言……!」


「……、どうして?」


「今日のことで分かったでしょう。あの子、私たちをくっつけたいと思っているみたいなのよ……」


「……、お母さん思いの娘さんなんだねー!」


「それは、それでありがたいけど、ちょっと過激なところがある娘で、この先、何をたくらむか分からない始末で……」


 加代は、腕で目を覆ったまま、誠を見ずに話していた。


「「ふたりのロッテ」って言うお話、覚えている?」


「ケストナーだね、君の好きな話だ……」


「そう、あの中で双子の姉妹が別れた親たちをくっつけようとしていたでしょうー」


「そうだったね……」


「私、小さい時から真理にあのお話、何回も聞かしていたから、きっと同じことをすると思うのよ……」


「だから、……?」


「だから、先回りして、恋人宣言すれば、納得して、これ以上私たちに関わらないと思うから……、お芝居でいいのよー」


「加代さんが、それでいいのなら、僕に異存はないよ!」


「ありがとう、じゃー食事の席で、宣言しましょうっ!」




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