第50話
あっという間に3日が経過し、麻帆の退院の日を迎えた。その間に受けた検査の結果はどれも良好で、昨日の夕方は病院に併設するカフェでふたりで新作スムージーを飲んだ。私がアイドルになってからはじめてこんなに長い時間ふたりでおしゃべりしたと思う。明日から、お葬式の準備や諸々の整理と手続きで忙しい日々が続く。私は職場から1カ月休んでいいと言われたが、麻帆は来週から学校に行くことになっている。その間にお母さんのお葬式をあげるけど、お父さんとおばあちゃんの葬式は司法解剖を待ってなのでしばらく後になるとのことだった
当日は9時に看護師さん何人かに見送られながら病院を後にした。途中で歯ブラシを買って合宿所に着くと、もう社長とかすみが待っていて、向こうの社長と愛理さんと立ち話をしていた。
まずは向こうの社長と愛理さんによろしくお願いしますと頭を深く下げた。「そんなのいいよ。こっちこそよろしく」と愛理さんが私の手を引っ張った。通された部屋は8畳ほどのふたり部屋でシーツとカーテンは真っ白だった。
「ここしか空いてなかった。ふたり部屋だけど我慢して。あと、ふたりがいる間は私も隣の部屋にいるから困ったことがあったら言って」
それから愛理さんは野次馬の最後列にいた弥生ちゃんを呼んだ。
「弥生、ふたりを案内して色々説明してあげて」
「はい」と私の正面に立った。
「よろしくお願いします」
部屋にバッグと、かすみからもらった着替えと日用品の入った段ボールを置いて、弥生ちゃんを先頭に施設ツアーが始まった。15名ほど同時に食事を取れる食堂、調理室、レッスン室が大きいところが1室と小さいところが2室ある。あとはシャワー室と大浴場。
朝食は7時から、昼食は自分で調理、夕食は8時以降、シャワー室は24時間だが、大浴場のお湯を張るのは毎週水曜と日曜のみ。消灯時間は無いが、テスト前以外は夜0時には寝るようにしているという。朝食と夕食の調理片付けは研修生、施設の共用部分の清掃は学校に通っていないメンバーが交代に行うという。私も手伝いたいというと、リーダーに確認してみるとのことだった。わかってはいたが、改めて事務所の規模の差に驚かさせる。
一通り説明を終えると、私たちの部屋の前に戻ってきた。
「調理室の説明がてら、お昼はご一緒しませんか。修学旅行の振替で学校お休みなので」
「うん、ありがとう」
部屋の扉を開けるが、麻帆は思い立ったように弥生ちゃんを追った。
「弥生さんて、もしかしてE組の?」
「そうだよ。小梨さんはB組だったよね。話すのは初めて?」
「たぶん。体育祭で話した?」
「あ、話したかも。小梨さんのお姉ちゃんが桜さんかもって思ってたけど、なかなか恐れ多くて話せなくて」
「そんなことないよ。私は全然ふつうだし」
「そっか。そうだよね。私もリーダーと一緒で隣の部屋にいるから、来週から一緒に学校行こう」
「うん。じゃあね」
「じゃあね」
会話を聞きながら思わずニコニコ顔になる。麻帆の中学生らしい笑顔を久しぶりに見た気がした。私が部屋に入ると、麻帆が小走りに来た。
不審な侵入があったのは、すぐその夜のことだった。
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