第41話

 姫夏と愛理が落ち合ったのは、駅ビルの裏口近くの公園。予定より2時間程早い。

 愛理は小走りで来て、息を整える。息が整うのを待って、姫夏は愛理におしるこの缶を渡した。

「おしるこで良かったん?」

「ありがと」

 愛理は缶を開けて、姫夏の隣に腰を下した。冬とはいえ、日差しにあぶられたベンチは温かい。小豆を残さないように、一息で飲む。

「早めて悪かったね」

「いいって。こっちこそメンバーの指導してたら遅くなった」

「ありがと」

 愛理はもうすぐアイドルグループを卒業する。メンバーと過ごす有限の時間を奪ってしまって申し訳なくなった。

 私の表情を見て愛理が笑う。

「だから早く終わらせよう。その代わり、うまくいったら私の卒業ライブでサプライズ出演してもらうんだから。もちろん弾き語りで」

 彼女とは、お互いが今の事務所の入る前から一緒に路上で歌った仲だった。愛理はギター、私はキーボードで何度も歌ったし、何度もご飯を食べながら深夜まで話した。

 「うん」と答える。

「じゃあ、確認」

 愛理は缶を置いて、周囲を確認する。公園内には私たちしかいない。

 私たちの作戦はこうだ。

 昨日、麻帆ちゃんが誘拐される前に愛理に頼んで発信機と煙玉を渡しておいた。

 まずは、発信機で麻帆ちゃんが監禁されている場所のだいたいの建物を確認しておく。そして、今夜遅くに、渡してある煙玉に火をつけて、火災の混乱に乗じて麻帆ちゃんを取り戻す。個人的なコンプレックスだが、警察には頼らない。

 本当はスマホで電話できればいいのだが、残念ながら取り上げられているようだった。

「犯人はどうするの?」

「捕まえて警察に突き出す。催涙スプレー買った」

 銃を持っていることは伏せておいた。使わないに越したことはない。愛理はわかったと頷いた。

「じゃあ、さっそく下見に行きますか」

 愛理はスマホの位置情報アプリを起動した。

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