第22話

 姫夏が目を覚ますと、自分の歌声が聞こえてきていることに気が付いた。一昨日のライブの時の音声。開演前から観客が入っていないことにさくらが動揺し、ちゃんと気持ちを作れずに始まったステージ。自分は自分のパフォーマンスをしたはずなのに、私の歌声も散々だった。

「もっとマシな映像観ればいいのに」

 コタツに正座してノートパソコンに向かう麻帆ちゃんに声をかける。事務所から帰ってきて、この日の映像を確認していたら寝てしまったようだ。コタツで横になっていたせいでわき腹が筋肉痛のように痛い。

 麻帆ちゃんに「みかんとって」って言うと、かごのみかんが無くなっていたのか台所の箱からいくつか持って帰ってきた。台所には実家から送られてきたみかんが残っている。

「まだ、有る?」

「あと半分くらい」

 私に1つ渡し、残りをコタツの上のかごに積んだ。

 コタツに戻るとまたパソコンをいじる。

「私、この時行けなったから観たくて。でも、2曲目で終わってるよ。続きは?」

 マウスを動かしながら苦情を言う。

 その日のライブは観客ゼロ。2曲歌ったところで心が続かず、以降はパフォーマンスをしていない。終了時間までイスに座って待っていたが、誰一人来なかった。だから、この映像の続きはない。

 ありのままを伝えることはできないが。

「どうしたんだろうね。また後で送られてくるんじゃない?」

 「えーーー」と言いながらコタツで寝ころんだ。

 おじさんのファンももちろんだが、この小さいファンを見ていると、普段の練習や挫折なんてどうでもよくなって、またステージに立ちたいと思えてしまう。かすみや、桜みたいに言葉にしないが、私もこのステージが大好きなんだと実感する。


 だからこそ、今はこの少女を守らなければいけない。


「麻帆ちゃん、」

 「勉強みてあげようか」を言い終わる前にスマホが鳴った。画面をタッチすると、かすみからだった。事務所で別れてからまだ5時間しか経っていない。何だろう?

 画面をスライドさせて電話に出る。

 「姫夏、時間ちょっといい?」に「少しなら」と答える。いつもと違う真剣なトーンのかすみに驚く。人差し指を立てて、麻帆ちゃんに「静かに」を伝える。

「どうしたの?」

「ねえ、姫夏、  


 姫夏にひとつ聞きたいことがあるんだけど」


 一際(ひときわ)強く吹いた北風が窓枠を震わせた。

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