第19話
今後の活動についてのミーティングが始まったのは、予定を10分過ぎた時刻からだった。会議室には、マダム(社長)、かすみ、姫夏がテーブルを囲み、マネージャーの島田さんの電話が終わるのを待って開始となった。
まずは、島田さんが時系列順に昨日の対応を改めて説明した。桜の家が全焼したこと、その中から3体の焼死体が発見されたこと、ニュース報道からその遺体が桜とその両親であったということ、昨日の打ち合わせの結果。最後に、タッチパッドを渡されて、ホームページ上に公開した文面と今後のスケジュールを確認した。
まだ桜の親族からコメントが出ていないこともあって、会社から桜が亡くなったというメッセージは出されていない。桜はしばらく休業するということにしているが、本名で活動していたのでファンやライブ関係者は気付いているだろう。
姫夏は「わかりました」と神妙な顔つきでパッドを返した。姫夏にはビルのエントランスで、経緯と桜の行動については説明しておいたはずなのに、仲間の死を惜しんで悩むメンバーをうまく演じた。
「新しいライブのスケジュールは決めないけど、今決まっている練習日とライブの日程は予定どおりやりたいと思うの。姫夏もそれでいい?」
「はい。リーダーが決めたことなら」
姫夏は「でも」と続けた。
「私は、これ以降のスケジュールも決めるべきだと思います」
「なぜかしら?」
「グループとしての活動は続いていくわけだし、それに、もしかしたら桜が実は生きているかもしれないし」
「姫夏!?」
かすみの声が大きく響く。
「……すみません。桜が亡くなったってまだ受け入れられなくて」
「そうよね。でも、あなたの言うとおりかもしれない。桜の葬儀が終わるまで公表しないとしても、今後のスケジュールは作っておいた方がいいわね」
マダムは島田さんにその旨を指示して、いくつか事務事項の説明をして解散となった。
ふたりでエレベーターに乗り込み、扉が閉まると同時にかすみが口を開いた。
「『桜が生きてるかも』って言ったの、何で? このことは隠すって話(はなし)したよね」
「『もしも』の話だからいいじゃないですか」
珍しく声のトーンを落として、反抗する。いつもはしない敬語に、距離感を感じる。
「生きてるんだからいいじゃないですか。それに、こんなところで私のアイドル人生を無駄にしたくないんですよ」
言い終わると同時に、エレベーターが1階へ着いた。姫夏は「お疲れさまでした」と先に下りてしまった。
かすみは呆然として立ち尽くした。扉が閉まりそうになり、慌てて「開」ボタンを押して事なきを得る。この後、お昼を食べながら今後の活動やパフォーマンスについて話したかったが、誘える様子ではなかった。桜が加入する前、姫夏とふたりで活動していた。その時はそれが当たり前だったのに、今は、桜がいないとこんなに私たちはまとまらないものだろうか。
ビルを出ると、この時期にしては強すぎる日光にまた照らされることになった。
思い出したことがあった。
ミーティングの最後に島田さんから「葬儀の日程を確認したいから妹さんの電話番号わからないか?」って聞かれて、知っていたが、私も姫夏も知らないと答えた。私は今朝、桜から麻帆ちゃんのおかれた危険な状況を聞いていたので、知らないことにした。姫夏も私と同じように桜から聞いていたのだろうか。
それだけが気になった。
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