第18話
私と遠藤が話しているのを見て、かすみは何も聞かずにその間に割って入り、私を背中に隠した。
「こんにちは」
かすみの「こんにちは」は笑っていなかった。
「なにか御用ですか?」
「お前に用はない。でも、昨日は助かった。ありがとな」
「ちゃんとお礼は言えるんだ」
「桜、行こう。時間になるよ」
かすみは私の背中に手をまわした。かすみが歩こうとする。私は歩こうとしない。
「桜??」
「かすみ、ちょっといい?」
誘拐犯のひとりが殺されたこと、まだ事件が終わっていないこと、妹のこと、おばあちゃんちのことを一通り話した。
かすみは腕組みしながら聞いて、最後に「で?」と言った。
「その情報を全部信じられるの? 今は、私たちの大事な場面なんだよ。グループの存続、これからの予定、ファンへの報告、大事なことがいっぱいあるんだよ」
かすみに手を掴まれる。痛いほどに強い。
「妹だけは守らないと」
「お父さんもお母さんも死んじゃって、もう私しか麻帆を守ることができないんだ。ファンのみんなも、事務所の人も、かすみも、姫夏も、みんな大事だよ。でも、それと同じくらい麻帆のことも大事なんだ」
かすみは言われて、桜がはじめてステージに立った日、涙が溜まった目のまま一瞬も逃さないようステージも見上げていた少女の姿が浮かんだ。桜の最初のファンは間違いなく妹の麻帆ちゃんだと思う。あの子を守りたいって言われたら、何も言えない。無意識に頬がゆるむ。
「『ファン』のこと言うのはズルいなあ」
桜の手を強く握りしめていた右手を離して、代わりに左頬をつねる。
「イタイ」
「わかった。姫夏には私から言っておく。麻帆ちゃん探して、すぐに戻っておいで。ね?」
私は「わかった」と頷く。思ったより声が大きく強く出た。
「かすみ。でも、大丈夫?」
何を今更だが。
「大丈夫だよ。私はいちようリーダーだからね。やれるところまでは頑張るよ」
かすみは笑った。かすみの笑顔はいつだって私や姫夏を「私たちはまだ頑張れる」って気持ちにさせてくれる。
私とかすみはガラにもなく右手同士でハイタッチをして、別れた。かすみはまた事務所のある強すぎる日差しの中へ。私は日陰が深く続く路地へ。
まずは、もぬけの殻になったおばあちゃんの家へ向かった。
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