第17話

 上がった踏切が私たちに一瞬だけ影を作り、すぐにまたまぶしい陽の光が照らす。バーが真上を指す前に、かすみと走り出す。他の住民も続く。ここの開かずの踏切を3分以内にクリアできたのは大きい。先月から駅の改修工事が始まっていて、この件(くだり)をするのもあと半年の辛抱(しんぼう)のようだ。

 私たちが所属する事務所は駅から2区間バスに乗った先にある。けど、バスを使わず走るのが私たちのルールだった。雨の日も、雪の日も走って事務所に向かった。事務所の近くに格安で借りれるダンススタンドもあるので、週に1回はこの道を走っていたことになる。駅前のバス停にバズが停まっていたが、今日も走ることにした。

 秋晴れにしては明るすぎる光に晒された大通りからビルの間に挟まれた人通りの疎らな道路に移る。半地下になっているうどん屋の角を左折して、50メートルほど先に事務所の入っている雑居ビルがある。そのビルの外にあるベンチに姫夏の姿が見えた。スマホを見ていてこちらにはまだ気付いていない。

 あ。

 私は速度を落としてスマホを確認する。着信は無い。妹の麻帆とはまだ連絡がとれていない。父方のおばあちゃんの家に電話しても誰も出なかった。

 事務所は電波が悪いので、着信があっても気付かないかもしれないと重い、もう一度、麻帆の番号をダイヤルする。コールが鳴る。

 立ち止まった場所がたまたま日陰になっていて、秋服では少し暑い。日焼け止めを塗り忘れたことを思い出した。かすみは持ってるかな。声をかけようかと思ったが、少し前にいたので、電話を優先する。後ろから走ってきた自転車を左に避けた。

 麻帆はまだ出ない。


 電柱の影に入った瞬間に空いていた左手を掴まれる。


 誰!?

 驚いたが、こんなことが過去にもあった。最近。

 雑居ビルの裏手に連れていかれる。日陰は少しだけ肌寒い。一瞬で汗が冷える。真っ黒に汚れたブロック塀に背中を押し付けられ、妹の番号をコールしていたスマホを取り上げられた。

「なに?」


 そこには、汗だくになった遠藤がいた。ブラックアウトした私のスマホを返し、代わりに自分のスマホの画面を私に見せた。ネットニュースのようだ。昨日、遠藤と共に私を誘拐した男が写っている。遠藤は伝える。

「昨日の夜、『確認したいことがある』と言って火事になったお前の家を見に行っていた。そして、その帰り道で殺された。まだ、事件は終わっていない。昨日のふたりの他にこの事件について動いている奴がいる」


「誰も信用するな」


 言って、遠藤は左わき腹を押さえる。昨日、銃で撃たれた箇所だ。

 その時、路地の向こうから私の名前を呼ぶかすみの声が近付いてきた。

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