第14話
中山が駅に着いてスマホを見ると、遠藤から『女と買い物に行ってくる』とメッセージが入っていた。スマホをダウンジャケットのポケットに入れて、南口から外に出る。電車で来たのは初めてだが、トラブルがあった時のために駅と誘拐現場への道は何度も往復した。コンビニを過ぎてひと気のない商店街を抜けていく。
バイトの休憩中、事務所でテレビを見ている先輩の向かいでコンビニのおにぎりを開ける。端っこの海苔が少し破れた。ニュースではちょうど、あの火事の報道をしていた。テレビに背を向けているから見えないが、どうやらCGかフリップかを使って現場について説明し始めた。自分がこの事件に関わっていることを誰も知るわけはないが、この場にいて気分の良いものではなかった。
昆布とツナマヨのおにぎりをそれぞれ平らげ、休憩時間はだいぶ残っていたが席を立った。その時、キャスターが言った。
『警察関係者に取材したところ、亡くなった当時、父、母、娘は同じ部屋で川の字になって寝ており、眠ったまま煙に巻かれたとのことです』
気の利かないコメンテーターが『今時、家族三人でいっしょに寝ていたなんて、仲良かったんですね』なんて感慨深そうに言っている。
家族三人が同じ部屋にいた?
母親は見ていないが、父親は確かにリビングのソファーで寝ていた。それに、その娘は俺たちが誘拐して今は遠藤さんの家に監禁されているはずだ。どうなっているんだろう。あの”小梨 桜”が本物かどうかはまだ結論が出ていない。
ここに来てもどうしようもないのはわかっていたが、一日前と同じあの家の向かっていた。当たり前に警察官がいて近付けなかった。横目で見る。工事現場のような電飾に囲まれて、黒い瓦礫となった住まいがそのまま放置されている。下見で何度か来て見回したが、建物が無くなってみると案外広くない土地だったんだと感じた。野次馬のふりして、もう一度あの家だった場所を見回す。
ここに家族4人で暮らしていたんだな。俺はしばらく家族に会っていない。
警察官が声をかけて来そうだったので、そそくさと現場を後にする。駅に向かう。まだ、電車は残っているだろうか。誰もすれ違わない市街地を急ぐ。
そして、妹はどうしたんだろう。ニュースの一場面を思い出す。
『親戚や職場も動揺しているでしょうね』
『そうですね。でも、これは未確認なんですが、当時、修学旅行中で家にいなかった次女とは現在も連絡が取れてないとの情報もあるんです』
『それは心配ですね』
俺は次女のことは知らされていなかった。遠藤さんは知っていたのだろうか。依頼人は知っていてこの日を指定したのだろうか。偶然なのだろうか。
スマホで時間を確認し顔を上げると、児童公園の東屋に人影が見えた。それが気になり近付く。月の上の雲が流されその人物と目が合う。
「なんでお前がここに――」
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