第7話

 目を覚ますと、目じりから耳にかけて乾いた涙でかぴかぴになっていた。大きく息を吸うと、埃で咳が出た。

 おぼろげながら、昨日のことは覚えていた。

 漆黒の客席、燃える練炭、男たちの足音、ソファーで眠る父親、手首に食い込むロープ、昇る火柱……

 行かなきゃ。

 手首にはロープが巻かれておらず、足首のものはきつく巻かれていなかった。服装は誘拐されたままだったが、スマホは無い。

 立ち上がると、膝に力が入らずふらつく。頭はまだ痛い。でも、我慢する。

 階段を下りていくと男たちの声が聞こえた。息を止めて、すぐ横の通路を通り過ぎる。扉をゆっくりと開けると、目の眩むほどの太陽が飛び込んでくる。

 路地を今できる全速力で駆ける。しばらくして、大通りへ出た。私の見たことのあるどの景色とも一致しない。

 ここどこ?

 助けを求めようと見回すが、こんなに人がいるのに誰とも目が合わない。

 やがて、横断歩道の向こうに小さな交番が見えてくる。信号が変わる時間すらも惜しいほどだった。縦側の歩行者用信号が点滅する。もうすぐ、もうすぐ。

 こちら側の信号が青に変わる。一歩を踏み出した。時だった――


 視界が一気にブラックアウトし、男に両側から掴まれる。

 厚手のコートを被さられたことに気付くまで一瞬かかった。

「声を出してみろ。この場で殺してやる」

 目の前でナイフがギラりと光った。

 私が頷くと、男に肩を掴まれたまま交番へ背を向けた。振り向くと、ショッピングセンターのオーロラビジョンに私の家が燃えているのが映し出されていた。テロップに「全焼」、そして、「3人死亡」の文字が流れる。

 お父さん、お母さん……

 涙がたまっていく目でその名前を追っていく。

 そして、3人目の死亡者の名前が表示される。


 『小梨 桜さん』


 ――っ。

 言葉を失う。

「お前は誰だ」

 隣の男が静かに聞いた。


 私は――

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