第21話 なんだか、RPGのお使いクエストみたいだね

「事件の犯人ですか…」


「まあ、黒幕がいないとゾンビ事件なんて起こんないからね」


 千鳥の言う通り、こんな事件は現代社会では普通起きない。なら、異常な何かがこの事件の根底に関わっているということなのだ。オレはそれを掘り返して解決する。


「これから、基本的にオレは救助者のSOSを拾いながら、この事件に関して調査を進める。人命救助は最優先事項だから、そこは外せない」


「そうですね。なら、私のやることは今迄通りの情報収集でいいのでしょうか?」


「ああ、で千鳥はドライバーだな」


「まあ、そんぐらいお茶の子さいさいよ!」


 これで話は纏まった。今後は事件の全容をオレたちが暴く。恐らく危険なミッションになるだろうが、だからこそオレがやらねばなるまい。


「おっしゃあ!んじゃあ、さっそ、ぐぅ…!」


 オレの口はミナの人差し指で塞がれた。唇の内側の肉が、前歯に当たる。何だ、今の結論に不満でもあるというのか。


「ダメよ。今日は教会での仕事をして頂戴」


 そう言い終えると、ミナはオレの口から人差し指を離す。話の腰を折りやがって、人差し指咥えて奇をてらってやればよかった。


「はあ…、で、教会の仕事って何だ?」


「昨日、この近くに特異なアンデッドの存在が報告されていたの。タツヤくんは今日はそっちの調査をして貰うわよ」


「特異なアンデッド?」


 特異点的な存在なら、オレにも心当たりがある。銀行で遭遇した「異形」のゾンビだ。あれに類するヤツが近くにいるって言うなら、調査しないワケにはいかない。安全性の観点からも、事件の捜査の観点からもだ。


「わかった、今日はそっちに向かおう。んで、何処にいるんだ?」


「あら、どうせなら一緒に行きましょう。タツヤくんなら大丈夫でしょうけど、万が一ってことがあるでしょう」


 なんだコイツ、急に心配性だな。ラスアリアにいた頃はこんなことは滅多に言わなかったものだが。まあ、特に断る理由もないので、同行してもらうが。


「んじゃ、一緒に行くか。皆はどうする?」


 その後、この場に居たほたる、千鳥、新堂さんの全員が同行することになり、五人で特異なゾンビ調査に向かうことになった。






 教会を出て、徒歩十分程。目の前にはかなりの段数がある石階段が連なっていた。


「報告の場所はここよ」


「この無駄に長い階段、ここは神社か?」


「教会のお使いで神社に、ですか…」


「あー、こういう階段見ると古傷が…」


 正直言って、登るのがクッソ怠いが、ここでうだうだ言っていてもしょうがない。三桁はありそうな階段の一段目に足をかける。


 登ること一分程だろうか。上を見上げると、大きな石の鳥居が見えてきた。思ったよりはこの石段は続いていなかったようだ。終わりが見えてくると、スパートを掛ける様に早く登れるというものだ。


「ちょっと…、達也さん、速いです…」


「ほたる~、情けないな~」


「むっ、私は”二つ”千鳥さんよりも大きな重りを付けているからなんです~!」


「あっ!言ったな!アタシだって、そんなに小さい方じゃないっての!」


 千鳥はわざわざ階段を数段降りてまで、ほたるの重りを背後からグリップする。元気だな。


「ひゃっ…!千鳥さん!」


「…確かにアタシよりは重そうだ…。しかし、ここにはもっと重そうな人が…」


 千鳥の視線がミナの方へ移る。確かにミナの重りは、オレのパーティーメンバーの女性陣の中では一番大きかった。オレの目算によると、ほたるよりも重そうに見える。


「さあ、ご相伴にあずからせて頂こう!」


「あら、私は高いわよ。お嬢さん」


 千鳥とミナの視線がバチバチと交わる。まるで鍔迫り合いの如し。しかし、両者の間には、覆しがたいほどの技量の差がある。上段に居る分ミナの方が有利か。


 先手は勿論千鳥だった。狙うは勿論一点、ミナのおっぱいである。そのただでさえ主張の激しい胸は、パックリ開いた服で強調されている。水泳とかの時に邪魔そうだ。そんな身重そうなミナだが、千鳥の襲撃をひらりと躱す。


「ふっ、やりますね」


「まだまだひよっこね」


 続く一撃を仕掛けるのも千鳥だった。躱された際に、上下関係が入れ替わったことを利用して、階段の端の淵を右足軸に滑る。そして、ミナの居る段程まで降りた所で、彼女はターゲットに飛びかかった。


「決まった!」


「残念、お見通しよ」


 千鳥の足元にはシャボン玉があった。急にシャボン玉が発生した理由、無論ミナの仕業である。シャボン玉に触れた千鳥は、忽ち薄い膜に包まれて宙を漂うことになった。


「ふふっ、私の勝ちね」


「くっ…、無念…」


「ばかやろう、階段でふざけすぎだ」


 ミナの調整によって、今回のシャボン玉は高度を上げない。拘束のみを目的にしたもののようだ。オレはミナが解除して落下した千鳥の下に入り、千鳥を受け止める。


「ありがと、達也」


「お前階段で大怪我したことあんだろ。もうちょっと慎重にするとかないの?」


 千鳥はまだ元気そうなので、早々に降ろす。ミナはまだ余裕そうだし、新堂さんは自衛隊員ということもあってかバイタリティに溢れている。一番の問題はほたるだ。


「達也さん、もう無理ですー。足が棒です。ミナさんの杖にされちゃいますー」


 そう言って、ほたるは階段にへたり込んでしまう。因みにミナの杖のサンザルクは、魔力の源流の付近で何百年とそびえ立った木から出来ている。お前の足は使わない。


 まあ、ほたるの身の安全を考えると、ここに置いていくワケにはいかない。運動音痴なのは知っているし、目的地がこんな階段の先にあると知らずについてしまったので、今回は運んでやろうと思う。


「ほたる、文句言うなよ」


 オレはほたるの腹部に右腕を回し、腰当たりの高さまで持ち上げる。意外と重いな、けど口には出してはいけない。オレはデリカシーを割かし持ち合わせていた。


「あの…、これで上まで?」


「ああ、何か不満でも?」


「…何かロマンスもへったくれもないですね」


「仕方ないだろう、横抱きにすると両手が塞がるし、おんぶにするとオレのセンサーが反応しかねない」


「セクハラですか…?」


 文句は言うなと言ったが?注文の多いヤツだ。しかし、聞いてあげない。タダで運んでいるのだ。この待遇を受け入れろ。


 階段を九割程登り切った所で、踊り場のような段にありついた。もっと沢山設置してもらいたいものだ。上を見ればもう神社が見えているので、ほたるを降ろす。いい加減自分で歩け。


「神社まであと少しですね。自分はまだ体力に余裕があるので、斥候を務めましょうか?」


「いや、何があるのか解らないので、一緒に行動しましょう」


「ほたるちゃんと千鳥ちゃんも私たちの指示をよく聴いて動いてね」


「はい」


「どんなのがいるんだろうね」


 ミナが魔法で出した水で喉を潤しひと段落ついた所で、階段をまた登り始める。先頭はオレ、次は新堂さん、その次にはミナ、最後にほたると千鳥が並んでという隊列になっている。


 オレが最後の一段を登り終える。そこあるのは、石で舗装された通り道と、大きな石製の鳥居。その奥には手水舎や拝殿など、一般的な神社に見受けられるものしかない。報告の特異点がいるようには見えないが…。


「…普通の神社ですね」


「ええ、そうね。特異点どころか普通のアンデッドも居ないわね」


「もう既にここを立ち去ったという線は?」


「どーにしろ、ここを調査はするんでしょ」


「ああ、勿論だ」


 ここからいなくなったとなれば、探すのが非常に面倒だが、まだここに居ないと決まってはいない。もしかしたら、奥の方のここから見えないところに潜んでいるだけかもしれない。ので、ここの調査を刊行する。


 そう判断して、鳥居をくぐったその瞬間だった。上から何かが降ってきた。ドスンと地響きがする。動物の威嚇のような低い音が耳に刺さる。敵襲のようだ。


「グルルルルルルルルルル!!!」


 コイツを一目見た瞬間わかった。コイツが報告にあったゾンビだ。何故そう考えたかって?コイツには今迄のゾンビを決定的に異なる点があったからである。


「何、コイツ…?」


「これは…」


「ゾンビ事件、一体どういうこと何だろうなあ!」


 目の前のゾンビは、明らかに人の形をしていなかった。コイツは獰猛な獣そのものだった。

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