第6話 携帯料金はこまめに見直した方がいい

「うーん…、どうにもだな…」


 黒川と出会ってから二日後の朝。一日の休みを挟み、今日から活動を再開しようと思う。しかし、ここに来てとある問題が発生した。


 二日前には、あんなことがあったが、今日の黒川は結構明るく見えた。何処か空元気であるような気がしないでもないが、そこは触れるべからずだろう。よって、問題とは黒川のことではない。


「緋山、出たよ」


 女二人は、朝っぱらからまとめて仲良く風呂に入ったらしい。裸の付き合いというものだろうか。オレは懐疑的に捉えているが、裸の付き合いには秘め事をさらけ出させる効果があるらしい。それを理解しての行動だろうか。


「ちょ、ちょっと!千鳥さん!」


「あ、やべ。いつもの癖で…。ほたる、バスローブ取って」


「早く着てください!」


 ドアから半身乗り出した白峰の格好も、タオル一枚のあられないもないものだった。しかし、今日のオレはそれに動じないのである。さっさと服着ろよ、寒いぞ、今日も。


 黒川は器用に身体が見えないようにタオルを取りつつバスローブを着て、オレが使っていない方のベッドに座りひと段落を決める。それに続き、一先ず出てこれる格好になった白峰が、洗面所から出て黒川の隣に座る。


「んでさあ、凄いんだよね!ほたるのおっぱい!」


「ちょっ!何言ってるんですか!?」


「いやいや、あれは知らないと勿体ないよ。だって脱いだら、もうどエロエロで!アタシの見立てによると、あれはEよりのDってとこかな!」


 ほう、それはそれは。ラスアリアでは、行動を共にしていた仲間に三人の女性がいた。その三人をバストサイズで、大中小に類別することが出来た。オレの魔眼によると、白峰のそれは中の有するものを優に上回り、しかし、大には届かすと言ったところだろうか。因みに黒川は中と丁度同じ位だ。


「これ以上はひっぱたきますよ!」


「あはは、ごめん、ごめん。でも、緋山も興味あるっしょ」


 興味ないと言えば、全くの噓である。正直に言えば、白峰その巨峰とやらを真っ正面から収穫してやりたい。しかし、こいつらはこれからも行動を共にするだろう。今ここで手を出せば、面倒になることに違いない。


「いいから、似たような下りを二日前にやったんだよ」


「え~、枯れてんの?」


「いいえ、違いますよ。千鳥さん。緋山さんは心の奥底にいる野獣を抑えているに過ぎません。いつ解き放たれることやら…」


 んな、失礼な。二日前の出来事をきっかけに今回は対策を講じた。ただそれだけだ。


「オレは今身体中の魔力をコントロールして、メンズレーダーが反応しないようにしている。それだけだ」


「うわ、必死」


「うるせえ、つーか、話さなきゃいけないことがあんの。話聞く」


 そう言うと、二人は話を聴くため姿勢を改める。最初からそうして欲しいものだ。


「突然だが、一つ問題が発生した。オレは魔法を使う度に魔力というものを消費するんだが」


「へえ、無尽蔵に使えるワケではないんですね」


「まあ、何もしてなければ、時間経過で回復する。だが、その魔力の回復速度がこの世界では非常に遅い」


 その回復速度は、ラスアリアと比べてだいたい三分の一。もっと計画的に魔法は使いましょうということらしい。


「そのマリョク?がなくなるとどうなんの?」


「当然だが、魔法が使えなくなる。それがどういうことか、実はオレはゾンビと戦う際に今まで自身に防御魔法をかけていたのだが、それがなくなる」


「すると?」


「防御魔法を効果時間中はゾンビの歯が皮膚を通さなかったが、それがそうじゃなくなる。つまり、命がけでゾンビと戦うことになるということだ」


 先日よく思い知ったが、ゾンビに嚙まれたら最後、オレでもどうしようもない。まだ死ぬ訳にはいかない。まだしなくちゃいけないことが残りすぎてるんでな。


「ということで、今後の計画を発表する」


「おっ、何何?」


「オレたちの最優先事項、それはコミュニティに参加することだ」


「コミュニティ?他に逃げている人たちのですか?」


「そうだ」


 白峰の言う通り、他の逃亡者コミュニティに合流する。こうすることで、オレが戦えずとも他の協力者が二人を守ってくれるかもしれない。黒川からしてみれば、コミュニティに苦い思い出があるだろうが。


「そうは言うけど、どうやって合流するつもり?」


「その為に今から出かけるぞ」


「え?何処にですか?」


「携帯ショップ」




 あれから急いで準備を済ませて、近くの携帯ショップが入っているモールの近くまでやって来た。が、どうにもゾンビの数が多く、小さな建物に避難することにした。


「いや、しかし、スマホ見れてなかったとは」


「オレは異世界帰りで持ってる訳ないし、白峰は逃げる時に壊しちまったらしいからな」


「良かった~。ほたる結構スマホ依存症っぽくて。昨日の夜とかまな板ペタペタしながらニマニマしてて、ちょー怖かったんだよね。アタシの貸そうにも充電なかったし」


 確かにそれは怖い。暗闇の最中でそんな光景を目撃したのならば、ゾンビよりも恐怖体験間違い無しだろう。違う部屋に寝るようにしてよかった…


 いや、しかし、スマホか。オレが転移する前の時代には、未来のテクノロジーみたいな感覚で、持っていれば羨望の的だった。無論オレは持っていなかった。医者の息子のよっちが自慢してたっけなあ。それが今では老若男女問わずの生活必需品らしい。時代は進んだものだ。


「で、スマホはどんなのがあるんだ?確か、オレの時は3Gがどうたらとか言ってたし、今は7とか8とかまで行ってんのか?」


「緋山さん、今の最新は11です」


「11!?」


 まさかの二桁!一年にワンカウントレベルの進み具合だ。ス〇ィーブ・ジョ〇ズの過労死ライン超えてるだろ!? 


「さあ、緋山さん。さっさと行きましょう!スマホはすぐそこです!」


「よく見てくれ、目的のビルにはゾンビがうじゃうじゃ。目測よりもスマホは遠いと言えるだろう」


「緋山さんなら行けますよ!ほら、異世界転移したんなら、チートスキルの一つや二つあるでしょう!」


「ねーよ!」


 昨日、白峰から教えて貰ったのだが、異世界ものの主人公は神の所業を可能とするような異能を備えていることが多いという。が、オレにはない。悪かったな、期待に応えられなくて。


「じゃあ、魔法でバーッとブチノメシちゃってくださいよ!」


「思い出せ、スマホを取りに来たのはオレの魔力の問題が浮上したからだ」


「なのに、さっき勃たない為に魔力使ってたんだ…。てか、なんでスマホ取りに来たの?」


 そう言えば、二人にはそこを説明していなかった。まあ、それもスマホって聞いた瞬間に聞く耳持たずになった白峰のせいなのだが。


「恐らくだが、余程の余裕があるコミュニティなら、インターネット上で何らかの動きをみせているはずだ。それを探す為にスマホを手に入れる。まあ、賭けではあるが、スマホは持ってて困ることもないだろうし」


「あー、そういう」


「藁にも縋る想いという奴だな。フェイ〇ブックとか2〇hとかも時には役に立つだろう」


「フェ〇スブック?今時やってんのとか、オッサンだけだよ。今の時代はイン〇タだよ、イン〇タ」


「あと、もう2〇hじゃないです。5〇hに変わりました」


「は?どゆこと?あと、黒川はぶっ飛ばす」


 誰がオッサンじゃ。まだ26だぞ。舐めた口利いてんじゃねぞ、ガキが。…そういや、黒川っていくつだ?


「まあ、兎に角、今回はなるべく魔法を使いたくない。そうゆうことでしょ」


「そうだ。少なくとも敵陣一人で突っ込んで大立ち回りは勘弁だな」


「ほたる、わかった?」


「はい…。如何にかするように考えます…」


 今いる建物の屋上に登り、改めて今回の目的地、携帯ショップの入っているモールを観察する。


 観測可能な出入口はおおっぴろげて、誰でも出入り可能。それ程広くはないが、どうやら大安売り中だったらしい。外装から、携帯ショップの他に少なくとも食料品店やインテリアショップもあるようだ。立体駐車場もある、便利そうなモールだ


「さて、どうしますか」


「まあ、行き当たりばったりでもいいんじゃん?」


「もうちょっと考えましょうよ…」


 確かにもう少し考えて欲しいものだが、中に入って初めてわかることだってある。構造や陳列されている商品など。


 一歩目的のモールの方へ出る。考えんのも面倒になってきた。そういや、作戦立案はレーナに任せっきりだったな。


「もう行くんですか?」


「ああ、いっちょかましてやろうぜ!」


「いいね、のってきた!」


「必ずスマホ取って帰るぞ!」


「「おー!!!」」

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