第4話 宝の在り方こそ危険がいっぱい

「もう!いっつもついて来ないでって言ってんじゃん!」


「で、でも、お嬢…」


「それにこんな怪我ばっかりして…!こっち来る前に布団で寝ろ!」


「お、お嬢…」


 ぶっ壊れそうな勢いで扉を閉めて出ていくお嬢。こうなったお嬢は頑固だ。暫く口利いてくんねえかもな。その様子を見ていたタツが、ニマニマムカつく笑い方しながら近づいてくる。


「おめえ、また怒られてんのか」


「うるせえ、ほっとけやい」


「昔っからいつも言われてるだろ~。学ばねえ奴だな」


「バカは根っからなんだよ」


「…昔から変わんねえな。お前もお嬢も。けどよ、んなもんもいつか見れなくなっちまう。そうだよな」


「…急にセンチか?お嬢の未来は俺らが縛ちゃあダメなんだ。オヤジだってそう言ってたろ」


「だよな。わりい。その為のアレだもんな」


「ああ、そうだ。でも、もうちょっとだけ待ってくんねえかなぁ!」


「んだよ、最後までカッコつけとけって…」


 俺はおもむろに腕時計を見る。コイツは俺がこの業界来てすぐの時に大金払って買った大事なもんだ。


「お!やべえ!時間だ!」


「何だよ、なんかあんのかよ!」


「説明してる時間ねえよ!じゃあな!」



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「トラ?大丈夫?ぼーっとしちゃって」


「大丈夫っす、お嬢。ちょっとあんなことあったなーってカンジで」


「なんかオッサンみたいなこと言っちゃって。老けたね、トラも」


 閑散としている都会に、ポツリと声が響く。トラの案内に導かれるまま進んで行けば、随分と人気のない場所へやってきてしまった。


「なんか出そうですね…。緋山さんは幽霊って倒せたりしますか?」


「弱いのなら」


 オレの習得している魔法には、神聖魔法というものがある。死霊系、アンデッド系に特攻を持っている、この状況にうってつけの魔法なのだが、オレはこの魔法の扱いが得意じゃない。


「おい、緋山あ!おめえ、名前はなんつーうんだ?」


「緋山達也だ。そういうお前は?」


「たつや…、タツか…」


 オレの質問に答えようとしない。というか、心ここに非ずのようだ。


「…コイツは町島虎徹。虎徹の”こ”が虎だから、トラって呼ばれてんの」


「ああ…、ありがとう」


 悪いことを訊いてしまったのだろうか。空気が重くなる。けど、名前を訊いて起こる不都合とはなんだ?実は湯〇婆に名前を取られた経験があるとか?


「…おい、着いたぞ」


「あれ、いつの間に」


「東京にあるにしては、こじんまりとしたビルですね…」


 トラに連れられた目的地は、先に白峰に言われてしまったように、かなり小さな建物だった。横幅は狭く、縦は外見から四階建てといったところだろうか。


「ここはオレたちの事務所。ここの三階に目的のブツがある」


「三階?物置じゃん。そんなとこに何を?」


 オレと向き合うようになっていたトラは、徐にビルの方を向く。その視線は件の三階に注がれているように見える。


「オヤジの…想いです」


「父さんの?どゆこと?」


「…オヤジは、いつもお嬢を気にかけてました。極道の家に生まれちまって可哀想だとも」


「なに言ってんだよ…!」


 やはり、彼らはそっちの道の方々だったか。暫く黙っておこう。


「お嬢は何れ俺らの行けないような世界に行っちまう。そんな時に俺らは見守っている。そんな想いを込めたもんだって」


「…そんなこと言われたって」


「あそこにもんを俺はほっぽいていけねえ。だから、頼む」


「…ああ」


 話が終わったようだ。では、計画を練り始めよう。


「で、具体的にはどうなってんだ?」


「このビルは四階建てで、一階あたりの敷地は狭い。目的のブツがある部屋は、指紋認証の扉が付いている。その扉を開けられんのは、この場では俺だけだ」


「了解。んじゃ、ちょっと失礼」


 オレは飛行魔法を使い、窓から中の様子を窺う。が、魔法を使った甲斐もなく、ほぼ全ての窓にブラインドが掛かっていた。透視の魔法はオレには使えない。


「ダメだ。中見えんかった」


「そりゃ、見られちゃいけないもんだらけだし」


「これ、私たち後で消されたりとかないですよね…」


「あん!?んな恩知らずに見えるってか!?」


 トラの鋭い眼光が、白峰に向けられる。「ひぃ」と小さな悲鳴を上げて、白峰はオレをまた盾にする。コイツ、意外とずけずけ言うよな。


「おいおい…、ここに長居するわけにもいかないし、さっさと済ませようぜ」


「はい、二人とも落ち着いて。緋山の話聴く」


 黒川がそう言うと、割とすんなりその場は収まった。これが姉御肌というものだろうか。オレの周りにはあまり居なかったタイプだ。


「今からこのビルに全員で乗り込む。各階を制圧して、目的地の三階の部屋に着いたら、トラが取ってくる。単純だけど、これでいいだろ」


「全員で乗り込むの?アタシとあった時の白峰みたいに、土台に乗せときゃいいなじゃない?」


「ここは高さのある建物が密集している。完全に安全を保証するには、周辺の建物よりも高い土台を造んなきゃなんない。けど、そうすると今度は強度が保証できない。よって全員で、だ」


 土魔法で大きく作ると、魔力の消費が激しい。で、節約しようと思えば、風が吹けば倒れるような脆弱な塔が完成してしまう。あちらを立てればこちらが立たずだな。


「何か意見は?」


「…ないです」


「じゃあ、さっさと行こ」


「お嬢、こういう時せっかちっスよね」


 せっかちと言うが、さっさとと言うのにはオレも賛成だ。もう随分と暗い。トラが腕時計を見ている。時刻は如何やら午後六時らしい。


「よし!作戦開始だ!」


 景気づけに派手に扉を破壊し、事務所に侵入する。黒川とトラに怒鳴られたが、安心してほしい。破片がオレたちを傷つけないように配慮した。


 中は白を基調とした内装だ。しかし、その白を汚すように、あちらこちらに血痕と弾痕がある。


 扉をぶっ壊した一階にいるゾンビは二体。正直居ないんじゃないかと入る前は思ってもいたが、何処にでもいるもんだな。しかも、どいつもこいつも屈強な身体している。


「おめえら…」


「…トラ、しっかり」


 黒川たちは悲しそうに顔をしかめる。そうか、ここにいるゾンビは、黒川たちの仲間か。ちょっと、やりづらい。


「やるぞ、あっち見てろ」


「…いや、俺はこいつらの最期を見届けなきゃいけねえ」


 なら、申し訳ないが容赦なく。オレの手に握られた剣が片方のゾンビの首を捉える。問題なく、首は宙に舞う。その首が地に着く前に、もう一方の首もとばしてしまう。二体のゾンビは瞬時に命を消した。


「…次、行くぞ」


「うん、気なんて使わないで」


 二階への階段を駆け上がる。どうやらこの建物は一階一階の階段が離れて配置されているようだ。襲撃対策だろうか。TV局なんかもこんな構造になっていると聞いたことがある。


「二階にもゾンビがチラホラだな」


「見て下さい。あのゾンビ」


「へえ、武器持ちか」


 二階にも三体のゾンビが居た。一階と同様にゾンビは黒川たちの仲間らしく、全員が屈強だ。更に中にはドスを持ったやつまで居る。


 しかし、武器を持っていようが、ゾンビにそれを上手く扱う器量はない。猫に小判というやつだろう。降り注ぐドスを腕ごと弾き、ゾンビを始末する。これにて、二階の制圧も完了した。


「さて、いよいよ三階だな」


「はい、そうですね」


 いよいよ目的地である三階への階段を駆け上る。誰も何も喋りやしない。カツカツという音がよく響く。


 三階にはゾンビは居なかった。嵐の前の静けさでなければいいが…。あっけなく、トラの言う部屋の扉の前に辿り着く。随分と頑丈そうな扉だ。余程大事なものが仕舞ってあるらしい。


「着いたぜ」


「ああ、ここまであんがとな」


「お、トラがそんなに素直に礼なんて、明日は槍でも降るのかな」


「言うときゃ言いますよ。…んじゃ、また後で」


 扉の指定箇所に手をかざすトラ。ピコンと高い音がなった後、鍵のかかった部屋開いたような音がした。


 彼は扉をゆっくりと引き、碌に中も見えない程度にしか開けないで入っていった。鍵がもう一度閉まった音がした。オートロックか。そのせっかち具合、黒川のこと言えないだろ。さて、後はここでアイツの帰りを待つのみだ。



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 久しぶりに入ったこの部屋。アレ入れた時以来か?しっかし、こうも暗いまんまじゃ、探し物もできやしねえ。電気はどこだ?誰か点けろとは思ったが、そういやこの扉、オートロックだったな。もう誰も入れねえ。

 

 扉のすぐ近くにあった電源を入れて、部屋が明るくなる。待っててくれよ、お嬢、オヤジ。これ見たらお嬢なんて言うかな。あんまサプライズ?ってのをしたことねえし、どんな反応するかも想像つかない。ちょっと楽しくなってきたな!


 …けど、やっぱ見えすぎるつーのも問題だな。どうにも見たくねえもんまで見えちまう。ひた隠しにした方がいいものもある。俺が業界にきてすぐに学んだこと、丁度オヤジたちみてえに。


 俺の目の前には一体のゾンビがいた。よく見覚えのある背格好をしたゾンビが…


「…タツ。おめえもここに来たんだな」

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