第15話 大井神社へ参拝

大井川を越えて島田に入った。

パルプの香りが鼻腔を衝く。


「くちゃい」

「ああ、慣れてないとそうだよね。

島田は、日清紡や東海パルプ…えっと、特殊東海製紙だったかながあるからパルプの香りがするんだよ」


この匂いを嗅ぐと帰って来たって気になる。

故郷の匂いって奴かな。

まあ、僕にとっては半分くらい…もっというなら通算2年に満たないくらいしか暮らしたことはないけど。


「彩夏、少し神社に寄って行こうか」

「はーい。神社?」

「うん、大井神社って神社がすぐそこにあるから」


大井神社は、秋には七五三で賑わう神社である。

実は、此処は三柱の女神を祀っている為、安産や女性、子どもの守護神として幅広く信仰されている。

生命生産の神、お清めの神、お祓いの神、そして江戸時代参勤交代の大名や、飛脚が旅の安全を祈願したことから、旅行安全、交通安全の神として信仰を寄せられている。


「わぁ、綺麗な境内…ねえ、宗一朗。あれは?」


彩夏が指差したのは、着物を着た髷を結っている男性の像だった。


「あれは、『帯まつり』の主役で大名行列の大奴おおやっこと鹿島踊りの三番叟さんばそうだよ」

「帯まつり?」

「えっと、島田の祭りのひとつで寅・巳・申・亥年の10月中旬の3日間に開催される日本3大奇祭の一つだね。

確か、当初は島田宿に嫁いできた女性が安産祈願を大井神社にお参りしたあと、宿場内に帯を披露していたものだったらしいんだ…ああ、あったあった此処に書いてあるね」


看板には、詳細が書かれている。

いつしか、お嫁さんの代わりに大奴が金爛緞子きんらんどんすの丸帯を太刀に掛けて練り歩くようになったことに由来し、日本三奇祭に数えられている。


「へぇ、そう言うお祭りがあるんだね。

いつか見てみたいな」

「うん、次回には一緒に来ようか」

「うん、絶対来よ」


少しずつ彼女との約束が増えていく。

なんだか、凄く心が満ちていく。

嬉しい。


「あ、お参りしよ」

「ああ、そうだね」


僕らは、本殿前に向かう。


「ねえ?宗一朗…この双竜の手水ってなに?」


彩夏が、賽銭箱横に書かれた看板を指差していた。

僕は、彩夏の手を取り手水へと向かう。


「えっと、水神信仰があってね。

大井川から発生した土地生命を護る意味合いがあって、此処のお水は境内地下から汲み上げた綺麗な水らしんだ。

だから、まずは手を清めようか」

「そうなんだ、わぁ。龍の口からお水出てる」


二頭の龍の口からちょろちょろと水が出ている。

僕らは、手を清めてお参りをする。

そして、お賽銭をして二礼二拍手一礼をする。

願い事は…今日の旅の安全と彩夏の事かな。

此処の神様は、女性と旅の神様だし。


「宗一朗。素敵な場所を教えてくれてありがとう」

「そう?ならよかったよ…じゃあ、そろそろ行こうか」

「うん、このまま向かうの?」

「まあ、そんなに離れたとこじゃないからね」


バイクへと戻り、準備をした。

その後、僕らは大井神社を出て僕の母方の実家へと向かった。


--------------------------------

帯まつりもう長いこと行ってないな。

最後に見たのは20年以上前かも。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る