第1章 紅葉とカップルツーリング
第10話 スーパー林道
僕らは翌朝帰り支度をして小川の里オートキャンプ場を後にした。
彩夏は、そのまま僕とツーリングをすることになった。
「彩夏は、スーパー林道よく来るの?」
「あんまり行かないかなぁ」
「じゃあ、僕が前を走るよ。
あと、これも渡しとくね」
僕は、彩夏にインカムを渡す。
僕の使っているインカムの予備だ。
これがあれは、通話しながら走ることが出来る。
危ない箇所を伝えれるから。
「え?いいの?」
「いいよ。それに、これからは必要でしょ」
「うん、ありがとう。
えへへ、これで走行中も宗一朗の声が聞ける」
「お話に夢中で運転を厳かにしちゃダメだからね」
「はーい」
それが、小川の里オートキャンプ場を出た時の事だ。
現在は、スーパー林道の入口である朱色の橋 雲名橋を渡り、林道を登っている。
『林道に入ってからはまた一段と涼しいね』
「日陰になっているからね。秋葉神社までは一先ず道なりだから。ただ、道幅があまり広くは無いから対向車には気をつけてね」
『はーい、気をつけるね』
僕らは、会話をしながら登っていく。
たまに、景色が開けたところが出てくる。
VツインマグナよりもCBFの方がここは走りやすいかもしれない。
アメリカンの為、無茶なコーナリングはもちろん出来ないし落石も未然に意識していないといけないから。
20分も走ると秋葉神社上社の駐車場へと辿り着いた。
「少し身体をほぐそうか」
『うん、上社ってこんなとこにあったんだね。下社には、よく行くんだけど』
下社の傍には、キャンプ場がある。
たぶん、そこに行くのだろう。
僕は、停車したバイクから降りヘルメットを外してヘルメットロックに取り付けた。
彩夏もまたヘルメットを外して、ヘルメットロックに取り付けている。
メッシュジャケットでも少し暑い。
前のチャックを開けると涼しい風を感じる。
「じゃあ、階段を登っていこうか」
「凄い階段…」
「ゆっくり休憩しながら行こうよ」
上社は、長い階段を上がっていくと山門がある。
山門には、四神をモチーフにした彫像と阿吽が飾られている。
山門を潜ると空気が凛と張り詰める気がする。
「彩夏、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
僕は、彼女の歩幅に合わせながら隣を歩く。
クスっと彩夏が笑った。
「やっぱり変わらないね…優しいまま。
林間学校の時もそうしてくれたよね」
「林間学校…ああ、山歩きの時だね」
川名のかわな野外活動センターで行われた中学時代の林間学校…あれ?中学は春野山の村だっただろうか。
うーん、どっちだったか思い出せない。
でもこれだけは確かだ。
あの時も、僕は彼女の隣を歩いていたということだけは。
「まあ、ゆっくりでいいんだからね。
もう少しで階段も終わるからさ」
その横には、天狗の皿投げと言う看板が立っている。
「宗一朗…あれなに?」
「ああ、天狗の皿投げ?」
「うん」
「えっとねぇ、願い事を書いたお皿を投射所から投げて、あの的に入ったら願いが叶うんだよ。やってみる?」
「やる!」
僕は、2人分の代金を支払いそれぞれ願い事を書く。
願い事は…内緒だ。
流石に恥ずかしい。
「書けた?」
「うん、宗一朗も書けた?」
「書けたよ。じゃあ、順番で投げて行こうか」
3枚ずつあるから交互に投げていく。
一投目は、的の右側に。
二投目は、的の右側にぶつかった。
本命の三投目は、見事に的の真ん中へ入っていった。
「よし!」
「わぁ、私も入ったよ。いえーい」
僕たちは、パチンと音を立ててハイタッチをした。
お互いに何と書いたのかは知らない。
でも、これから彩夏と過ごす毎日が素敵なものになっていくんだと思った。
彼女の頬が赤かった。
それは、暑いからではない。
きっと僕の顔も赤いと思う。
「あ、ほらもうちょっと上があるから行こうか」
手水舎で、手を清めてから僕たちは階段を上る。
階段の上には、金色の鳥居が見えてきた。
幸福の鳥居と呼ばれる物だ。
そこまで上がって景色を眺めると遠州灘が一望できる。
今日は、ぼんやりだけど何とか見れるな。
「綺麗な景色」
「だよね、僕はこの景色が見たくてよく来るんだよ」
「えへへ、宗一朗と共有できた」
彩夏は、笑みを浮かべていた。
両手の指を合わせるように胸元に構えていた。
「これからももっとお互いの事を知っていこうね」
「うん、いっぱい知りたいし知ってもらいたいな」
僕らは、鳥居を潜り本殿へと階段を上る。
そして、参拝を済ませると階段を下りていく。
どちらかと言うと降りる方が幾分か楽かもしれない。
山門を潜ると車の祈祷の為の坂道がある。
そちら側から降りていく。
僕は、咄嗟に彩夏の手を取った。
そして、そのまま歩き始める。
「えっと、宗一朗…」
「ごめん、彩夏」
「ううん、嫌じゃないから。ちょっと…ううん、凄く嬉しいだけ。
もう、心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしてる…」
「うーん、それは危ないから離しておこうかな」
「やだ」
彩夏は、僕の手をギュッと握る。
彼女の手は、とても小さくて可愛らしい。
「宗一朗の手は、大きいね」
「彩夏の手は小さくて可愛いよ」
そんなやり取りをしながら駐車場へと戻る。
バイクに乗る時、彩夏は名残惜しそうに手を見ていた。
「さてと、次は天竜の森かな」
「天竜の森?」
「秋葉山も含めてこの辺りは紅葉の名所でね。
山住神社までの間にある休憩スポットなんだけど、そこも紅葉の名所なんだ。
まあ、まだ3ヶ月近く先の話だけどね」
僕らは、それぞれのバイクに跨り走らせる。
秋葉神社から北へ向かう。
スーパー林道天竜線はまだ中腹…いやまだまだこれからか。
秋葉神社を出て、竜頭山へと向かう。
標高は、1300mくらいだったはず。
秋葉神社の幸福の鳥居が890mくらいのとこにあったはずだ。
1時間ほど走ると左手に天竜の森の看板が見えた。
「彩夏、このまま山住まで行くよ」
『天竜の森は寄らなくていいの?』
「一応目的地って意味だったからね…ここなんにもないんだよ。
前にトイレに寄ったことがあるんだけどとても酷かった記憶があるから」
『う、それは辛いね』
「この後は、山住神社から明神峡に降りるルートへ向かうよ」
『はぁい、気を付けることはある?』
「落石に特に気を付けて。あとは、速度もかな。
ゆっくりでもいいからね。かなり急勾配の下りになるから。
ああ、後は路肩の泥濘とかも注意」
『うん、気を付けるよ。宗一朗も気を付けてね』
「ああ、もちろん」
明神峡は、道幅が狭い。
僕なら絶対に車では行きたくない場所だ。
落石が多くて、よく道が閉鎖されたりもする。
山住神社周辺もそうだ。
今日は、通れるらしいからよかった。
◇
その後、約3時間の走行を経て僕らは春野町の大天狗面の前で休憩をしていた。
真っ赤な顔に突き出た長鼻。
真っ白な髭とThe天狗と言った印象だ。
いや、僕らがこの天狗の面を子供の頃から見ている所為か、天狗のイメージがこれで刷り込まれているとも言える。
林間学校の時に、休憩で寄る場所ってここなんだよな。
「いつ見ても、大きいね」
「だな…ねぇ、彩夏」
「なに?宗一朗」
「記念に写真撮らない?」
「撮る!撮りたい。えっとえっと、あ!すいません、シャッターお願いできますか?」
彩夏は、すぐに近くを通りかかった春野文化センターの職員さんにお願いしていた。
そして、そのまま彼女のスマホで撮影をしてもらった。
もちろん、大天狗面をバックにして。
後で送ってもらって待ち受けにしよう。
僕らは、その後少しずつ南下していく。
秋葉神社下社の傍を通り、道の駅 いっぷく処横川で少し遅めのお昼ご飯にする。
めん処横川でそれぞれうどんを頼んで食べた。
少し身体をほぐしてからは、山東を通って二俣へと戻ってきた。
そこからは、また堤防を走って地元へと戻った。
「彩夏は、今はどこに住んでいるの?」
『天竜川駅の傍だよ。宗一朗は?』
「僕も駅の傍だね。実家からは出ているし、今は一人暮らしなんだ」
『そうなんだ…また今度遊びに行ってもいい?』
「もちろん、歓迎するよ」
もうすぐ、今日のお別れの時間が近づいている。
なんか、名残惜しい。
もうちょっと一緒に居たい。
「彩夏…この後時間ある?」
『あるよ』
ちょっと弾んだ声が返って来た。
彼女も同じ気持ちだったのかもしれない。
「お互い荷物下ろして着替えをしたらもう一度会わない?疲れていなければだけど」
僕は、自分で言っていて不思議だけど疲れはある。
でも、それ以上に彩夏と離れてたくない。
一日以上一緒にいたから余計にそう思えてしまう。
『私も宗一朗と一緒に居たいなぁ』
「じゃあ、後で駅集合かな…彩夏、徒歩圏内?」
『うん、徒歩圏内…むしろ駅まで1分かかるかかからないかくらい』
「え?僕も…」
お互いに首を傾げながら赤信号で止まった。
天竜川駅の辺りまで来て、お互いに家路に着こうとしているのに一向に分かれることもなく同じ集合住宅の前へ来た。
「もしかして、彩夏…ここ?」
『宗一朗も…もしかして、ここ?』
僕らは、今まで
まあ、流石に駐輪場の位置も住んでいる棟も違ってはいたが数十メートルの距離のすれ違いをしていたようだった。
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第1章スタート
実は、同じ集合住宅に住んでいた2人。
2人の距離はドンドン縮まっていきます。
さて、今回のルートは小川の里オートキャンプ場を出て
スーパー林道天竜線を走るルートです。
秋葉神社上社、竜頭山 天竜の森、山住神社、明神峡、春野文化センター、秋葉神社下社、道の駅 いっぷく処横川と言うルートです。
昔、よく行ったツーリングの経路そのままにしてみました。
浜松だと小学校と中学校で昔は林間学校をかわな野外活動センターか春野山の村のどちらかで行っていました。
春野山の村は、県が運営を退いて2020年に春野山の楽校を休業。
2021年に再開されています。
2022年1月にははるの山の村再生プロジェクトとしてクラウドファンディングがされ、目標金額に到達したそうです。
現在は、キャンプ場としても利用が出来るようです。
ちなみに、かわな野外活動センターもキャンプ場として利用が出来るようです。
知らなかった…。
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