遂に判明!

会計の時にレジの前に立ったのは、その香りを身に付けた店員さんだった。

金額を聞き、お金を出してお釣りを受けとった後、タイミングを見計らって娘が店員さんに話し掛ける。

「あの…。とても良い香りですけど、なんという香水を付けられているのですか? 以前からとても好きで気になっていた香りなんです。」

娘は私の気持ちを汲み取ってくれて、とても自然に質問を投げ掛けてくれた。

「えっ? 何か香りがしましたか? だけど香水は何も付けていないんです。う~ん、ひょっとして体臭かなぁ? あはは…。」

私はその言葉を聞き、僅かながらに有り得ると考えていた可能性が現実の物となりそうなことで、絶望を感じていた。

もし本当に体臭だったとすると、それを再現することは不可能である。

娘が私の落胆した顔をチラチラと見て、少し焦りながら必死に考える。

「そうなんですか? でもとっても綺麗な香りですね。なんというか、香水ではなければ何か他の物ではないかと思うんですが…。」

「あっ、もしかしたら柔軟剤かもしれないです。」

「柔軟剤! そうなんですね。」

私は昔から柔軟剤があまり好きではなく、食べず嫌いのように初めから使うのを拒否していた。

だから妻がたまに柔軟剤を使ったときにも、自分の洗濯物には入れないで欲しいと頼んでいた程だ。

娘はちょっと考えてから、さらに話を引き出した。

「あの、もし良かったら柔軟剤の銘柄を教えてもらえますか?」

「え~と、何だったかな? 確かレ○アだったような? ぷっくりした…う~ん、そんな感じの物だったと思います。」

「レ○アですね? ありがとうございます。変なことを聞いてしまってすみません。」

娘がチラチラと私の顔を見るので、店員さんもなんとなく察したのか、私に向かって「ハッキリしなくてごめんなさい。多分レ○アだったと思います」と答えてくれた。

完全にバレていた。

車に乗り込んでから娘に「これで良いのかなぁと思って、お父さんの方をチラチラ見てたから、店員さんに、本当はお父さんが知りたかったって事がバレバレになっちゃったね!」と言うので、二人で爆笑してしまった。

「店員さんがぷっくりした…とか言ってたけど、凄く可愛い表現だよね!」と娘が言うので、「確かに!」と同意して、また笑った。

確かな手掛かりを掴んだ。

まさか柔軟剤だとは…。

その可能性は全く考えたことが無かった。

そして帰路につきながら、得られた手掛かりをゆっくり考える。

『レ○アって40年前から有ったかな? そんな昔から有ったようには思えない』

そして40年前には柔軟剤があまり一般的では無かったのではないかなど、娘と検討を続けてみた。

「本当はお父さんが知りたいと言うことがバレてたみたいだし、気持ち悪いなぁと思って本当のことは教えてくれなかったんじゃないかなぁ?」

「それは無いと思うよ。もしそう思っていたのなら、レ○アという商品名は言わずに、適当に濁すと思う。」

「なるほど、そうかもしれないね。」

「柔軟剤なら、24時間営業の薬屋さんとかに売ってるんじゃないかな? もし薬屋さんが見つかったら、ちょっと寄ってみようよ。」

娘の提案で早速大型の薬店に立ち寄ることにした。

教えてもらったレ○アは、専用のコーナーが設けられており、多数の商品が並べられている。

そして香りのサンプルが置かれており、それを娘と一緒に片っ端から嗅いでみた。

しかし、私の求める香りは見つからない…。

かなり大きな失望感があった。

しかし娘はレ○アに限らず、他の商品サンプルも片っ端から嗅いでみて、「これが近いよ?」などとアドバイスしてくれた。

私も気力を振り絞って沢山の商品サンプルを嗅いでいく。

そして遂に見つけることが出来たのだ!

その商品は「毛糸洗いに自信が持てる」ことで有名な商品で、確かに子供の頃からテレビCMで観たことがあった。

商品サンプルからは間違いなくその香りが漂っている。

娘とハイタッチしながら喜んで「これだ! これだ!」と声が出てしまった!

ボトルの商品が欲しかったのだが、キャップの付いた詰め替え用しか無かったので、取り敢えず購入し、車の中で開封して香りを嗅いでみたのだが、商品サンプルとは全然違う香りがする。

フローラルブーケと書かれていたので、間違いなくこれのハズだが、なんか明らかに違う。

でも娘によると、原液は違う香りがすることはよく有るのだそうだ。

実際に洗って乾かしたときに、その香りがするかもしれないので、試してみれば良いとの事だった。

まだ洗濯はしていないのだけど、商品サンプルは間違い無く求めてきた香りだった。

40年もの歳月を掛けて探してきた香りが、まさかこんな形で見つかるとは思わなかった。

まだ怖くて洗濯するときに使っていないので、確認は出来ていないけど、一旦は見つかった物として喜びを噛み締めたい。

初恋の香りは、毛糸洗いに自信が持てるアク○ンのフローラルブーケだったのだ!

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