車中泊旅行

新車で買ってずっと愛用してきた車が20年経過し、破損してしまったことで買い換えを余儀なくされた。

新しい車はシエンタFUNBASEという車だ。

この車は荷室が広く、フラットにした時に身長が180cmある私でも足を伸ばして寝られる事が判った。

まだコロナ禍が始まる前のことで、車中泊と言う旅行のスタイルが少しずつ広まりを見せてきたタイミングだったのだが、いち早くその魅力に取り憑かれてしまい、週末には車中泊をしながら観光地巡りなどを楽しみ始めていた。

コロナ禍が来ても、密を避けられる車中泊旅行は比較的容易に続けることが出来た。

緊急事態宣言が発令された時期も、県内で車中泊を楽しみながら、車を降りずに景色を楽しむような過ごし方を続けていた。

そんな車中泊旅行を娘が中学生の頃から続けてきたこともあり、高校に入ってからも度々一緒に出掛けるようになっていた。

そしてつい先日も娘の部活がお休みになったタイミングで、二泊三日の車中泊旅行へ行くことにした。

たまたま『絶メシロード』という車中泊と旅先での絶品メシを描いたテレビドラマ作品を観ていたこともあり、舞台となったお店に実際に足を運んで楽しんだ。

その帰り道、車中泊旅行の締め括りとして、娘の食べたい物を聞き出し、お店を探してもらうことにした。

スマートフォンで検索してみると、現在地から5km戻ったところに美味しそうなお店があるという。

時間が19時を越えており、自宅までは100kmほど離れているので、来た道を戻るのは気が進まなかったのだが、確かに美味しそうなお店だ。

口コミの評判も悪くないので、そのお店で食べることに同意した。

料理が運ばれてきて、期待通りの美味しさにホッとしていると、若い女性がお茶のお代わりを持ってやってきた。

そして私は痺れたのだ。

ここ最近はリモートワークなどが中心となり、通勤の機会が減り、他人とすれ違うようなことも無くなっていたので、当然初恋の香りに出会うことも無かったのだが、お茶を持ってきた女性からほのかに求めてきた香りが漂ってくる。

久し振りに胸の鼓動が高まり、この機会を逃したらもう特定することは出来ないという覚悟が決まった。

そこですかさず娘に相談することに。

「優奈ちゃん! いまの店員さんが付けてる香水は、お父さんが40年も探し求めて来た香水の香りなんだ! お会計をするときに、店員さんに何の香水を付けているのか聞いてもらえないかな?」

「うん、いいよ!」

「お父さんが聞いてみても良いのだけど、もしかしたら気持ち悪いと思われて、教えてもらえないかもしれない。ひょっとするとこれが最後のチャンスかもしれないので、どうしても知りたいんだ。」

「うん、判った! それじゃあ、私から聞いてみるね!」

娘と入念に打ち合わせをし、残りの食事をドキドキと高まる緊張の中でなんとか平らげると、ようやく会計の時が来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る