第36話 未来人のギャルからのメッセージ
家に帰ってスマホをいじっていると、メールが届いた。
SNS――ソイッターにダイレクトメールがきているという通知。
差出人は、未来人のギャル。
麗のアカウントだよな。
でも、このアカウントとは絡んだことはない。
わざわざここからダイレクトメールをしてくることに疑問を抱き、SNSを開く。
ダイレクトメールには、こう書かれてあった。
はじめまして。
うーん、久しぶり、かな。
どっちでもいいや。
わたしは、麗です。
正確には翔の知っている麗ではありません。
そう、未来人の麗です。
詳細は言えないのですが、麗は明日、あなたの前から姿を消します。
でも大丈夫。
麗は無事です。
現にこうして、わたしは生きているのですから。
ただ、このままだと未来はわたしの知っている未来のままになってしまいます。
それだけはどうしても避けてほしい。
本当は詳細を洗いざらい話したいところですが、それを先に話してしまうのは、翔にとって良くないと思うのでやめます。
だから重要な部分だけいいます。
翔が今日、ポケットに入れたキャンディ。
あれは使えるものですが、敵を油断させるだけです。
過去の麗は、「最悪死ぬ」なんていっているけど、最悪のパターンです。
死なないことのほうが多いのです。
それよりも、あなたが部屋の机の引き出しの一番下の奥にしまったモテモテになる香水。
あれは忘れないで。
そしてできれば、今まで麗の発明を持っているなら、それをかき集めてきてください。
化学準備室Ⅱにある使えそうなものはすべて武器になります。
どうか、過去の麗を救ってください。
そうすれば今のわたしも救われます。
未来のギャルこと、松戸麗より。
とんでもないイタズラしやがる。
それが、おれが抱いた最初の感想だった。
だけど胸がざわざわする。
おれは念のため、そのダイレクトメールの文章をスマホにスクショしておいた。
明日、麗がおれの前から姿を消す。
いやそんな馬鹿な。
でも、なぜだか嫌な予感がする。
麗は、うっかりしたところもあるし、発明を失敗することもある。
だけどやっぱり天才発明家だ。
だからこそ、いずれタイムマシンを発明するというのは納得できてしまう。
麗の天才ぶりはおれしか知らない。
だけど、今までにも麗のいわゆるマッドサイエンティストぶりが公になる部分は多かった。
特に、過去の市民全員ぬいぐみ事件。
あれで麗のことを知った奴もいるだろう。
そいつが悪い奴だったら?
麗の天才ぶりを悪だくみに利用しようとしたら?
よくあるじゃないか。
天才発明家を拉致して、何かでかい発明をさせるというパターンが。
映画とか漫画とか小説の話だけど。
だけど、麗はそうなりそうなぐらいの才能を持っている。
ダイレクトメールには、拉致されたなんて書いてなかった。
今も生きている、と。
今というのがどれぐらい先の未来なのかわからない。
だけど、未来の麗は助けてほしいという。
それならおれが行くしかない。
でも、どこへ行けば?
未来の麗に聞こう。
そう思って、ソイッターの未来人のギャルのアカウントに飛ぶ。
アカウントは削除されていた。
いよいよマズイ気がしてきたぞ。
それともやっぱりイタズラだったのか?
……ってゆーか本人に聞いてみればいいか。
そう思ってスマホで麗にメッセージを送る。
返事はいつまで経っても来なかった。
既読すらつかない。
ピーンポーンピーンポーン。
遠くでインターフォンの音が聞こえた。
そう思って目を開ける。
カーテンが開けっ放しの窓の外はまだ暗い。
時計は午前六時をさしている。
スマホを見れば、麗からの返事はないし既読もまだつかない。
もう直接、隣に行くか。
そう思って立ち上がった時。
ピーンポーン。
ピンポンピンポンピンポン。
うるせえ。
朝からインターフォンを連打するのは誰だよ。
玄関を開けると目の前に立っていたのは、麗の姉だった。
「ねえ、麗いっしょじゃない?」
「いっしょじゃないです」
「そうよねえ」
「あの、麗、なにかあったんですか?」
「それが……家に帰ってないのよ」
「えっ?! 家に帰ってない? いつから?!」
「昨日、学校が終わって出ていったきり」
「それ警察に届けましょうよ」
「うーん。そういうことではないのよねえ」
麗の姉は困ったような顔をして、それから「ちょっと話しましょう」といってお隣の家へ。
「学校、ですか」
おれは薄いパンフレットに視線を落としながらいう。
麗の家のリビングで、姉はおおまかに事情を話してくれた。
ここ一カ月ばかり前から、「発明家養成学校」という名の人物が家に訪れていたこと。
その学校に通えば、一日中発明だけできるし、高校の授業もあるし、希望すれば大学の授業もある。もちろん発明のお金は出す。
就職は学校と提携している研究所になる。
発明をしてくれれば、かなり裕福な暮らしができる。
全寮制だからこちらに住んでもらうことになるが、豊かな自然と最新の設備の学校だからきっと気に入る。
そんなふうに麗は説得されたらしい。
最初は麗も、「そんなとこ行きたくなーい」といったそうだが。
「昨日、突然、その学校に行くっていいだして……」
「あの、麗のおじさんとおばさんはなんて?」
「うちは結構、放任主義だから『麗の好きにしなさい』っていうだけなのよ」
「でもその、なんてゆーか……。その学校かなりうさん臭くないですか?」
おれの言葉に、姉はにっこり笑ってうなずく。
「やっぱりそう思うわよねえ」
「麗から連絡とか来てないんですか?」
「来たわよ~。昨夜ねえ。『超快適。わたしここが合ってるかも』って」
「そうですか」
おれには既読スルーなだけで、一応、連絡はとれているのか。
ちょっとだけホッとした。
「ただねえ、やっぱり胡散臭いというか、うそはよくないと思うのよぉ」
「えっ、うそってなんですか?」
「麗がいる場所、『発明家養成学校』って名前じゃないもの」
姉はスマホを見ながら続ける。
「『未来研究所』それが麗の今いる場所みたいねえ」
「学校じゃなく、研究所?」
「ええ。学校なんてないの」
「それって……」
「うそをつくってことは、隠したいことがあるってことじゃないかしら」
「助けに行きましょう!」
おれはそいうと、パンフレットに書かれた住所を見る。
すると姉がいう。
「あっ、住所はそこじゃないわ。そこはたぶんダミー」
「なんでそんなことがわかるんですか?」
「だって、わたしが麗につけてる発信器は全然別のところにあるんだもの」
「発信器? 昨日、念のため麗にこっそりつけたんですか?」
「ひとつは壊されたみたいだけど、もうひとつのほうは壊れてなかったみたいね」
「昨日、念のためにつけてたんですよね?」
「実は昨日の夜中に助けに行こうとしたのよぉ。でも、女ひとりじゃ怖いからねえ」
「発信器のことは完全スルーですね……」
「深夜二時から本野くんの家をピンポンし続けただけど、だれも出ないから~」
姉はそういって、うふふと笑う。
怖いんだよ。
そして、妹はどんな大音量でも起きない。
おれも眠りが深い時はインターフォンの音では起きない。
両親はまた出張中。
おれ以外の家族に見つかってたら、この姉、警察に突き出されいた可能性がある。
そこでふと思う。
「ちなみに警察には……」
「話してないわ。警察はこういう時は、あてにならないからぁ」
そういった姉の顔に、一瞬だけ怒りのようなものが見えた。
ストーカーを自分でこらしめているんだっけ。
警察はこういう時はあてにならない、か。
説得力しかねえな。
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