恋というもの

「・・・ハァ~」

 思い溜息が研究室を満たした。

 本日、何度目になるか分からない、つかさの溜息。

 それに苛立ちを覚えた、同室の椋田は舌打ちをした。

「なぁ、椋田ぁ。アレって、OKって事なのかぁ?」

 翌日、研究室に出勤してきたつかさは、椋田を捕まえると昨晩の出来事について、洗い浚い話した。そして、そこからずっと、溜息を零している。


 〈白い教会〉について、しとかが契約を交わした後、飲み直そうとつかさが提案し、今度は繁華街の方向に歩いて行った。

「それで、しとかさん・・・」

 繁華街の居酒屋で飲み直した後、つかさは言葉を振り絞った。

「この後、その」

「お、今治ぃ」

 数軒先の店舗kら出て来た椋田が、2人に気が付き声を掛けて来た。

「今晩は、津雲さん」

「今晩は、椋田さん」

 しとかの挨拶が終ると、椋田が酒臭い息をしながらつかさに絡んできた。

「なぁ、付き合えよぉ。一杯だけ、な」

「・・・椋田」

「津雲さんも、如何?ネェ」

「あ・・・・ごめんなさい、私、お酒に強くなくて」

「・・・マジ?へぇ、今治。聞いたかぁ?」

「あぁ、聞いたよ。それじゃあ、ボクはしとかさん、送っていくから・・・1人で飲め」

 1人で愚痴を言う椋田を残して、つかさはしとかの腕を取った。

「あ、あの、大丈夫なのですか?」

「・・・何が?」

「えっと、その、椋田さんを置いてきてしまって」

「大丈夫ですよ、アレは呑むと絡んでくるので、放っておいても、問題はありません。それよりも」

 つかさは立ち止まると、しとかに謝った。

「すみせんでした。お酒が苦手を分からずに、誘ってしまって」

「あぁ。大丈夫です、少しならいけますから」

 ニコッ、と微笑む。

「気を遣わせてしまいましたね。でも、料理はとても、美味しかったです」

「・・・あの、しとかさん」

 立ち止まったまま、つかさはしとかをしっかりと見た。

「・・・何ですか?」

「ボクと、その・・・お、お付き合い、お付き合いして、くれませんか?」

「・・・えっ!」

 しとかもつかさをしっかりと見た。

「・・・しとかさん?」

「あ・・・。えっ、えっと?」

 顔を赤らめたまま、しとかは黙り込んでしまった。

「わ、私と、ですか・・・?」

 しとかが顔を上げると、目の前につかさの顔があった。

「・・・しとかさん」

「え、えっと、その・・・。アゥア」

 いつも以上にお酒の巡りが早いのか、のぼせ始めたしとか。

「しとかさん?」

「・・・あ、あ」

「あ?」

「アゥア、フシュウゥ・・・」

 しとかはその場に崩れてしまった。

「し、しとかさん!?」

 完全にのぼせきったしとかは、つかさに背負われる様にして仮住まいに戻った。

「・・・しとかさん、しとかさん。部屋に着きましたよ」

「う、うぅ・・・」

 夜風に当たって落ち着いたのか、つかさの呼び掛けに応えた。

「あぁ・・・。すみません、重く無かったですか?」

「大丈夫ですよ、全然」

「すみません、私、誰かに、そう、言われたこと、なくて・・・。どう、答えたら、良いのか、グルグル、考えていたら、お酒も、呑んでいて、頭がボーッとして、つかささんに、家まで、負ぶわせて、私、本当に、何て、言ったら良いのか、でも、とても、嬉しかったです、こんな、研究ぐらいにしか、興味の無い、私を、ちゃんと、見ていて、くれる人が、いて」

 しとかにしてみれば、長々しく喋った。

 しとかはそのまま、つかさに散々、お礼を述べるとそのまま部屋に戻ってしまった。

「・・・あ、そうでした」

 扉を閉める直前に、しとかは思い立ったように振りかえると、つかさに言った。

「・・・お休みなさい、つかささん」

「あ、はい。お休みなさい、しとかさん」

 パタン、と扉が閉まり、重い錠が落とされた。


「・・・ハァ~」

 本日、何度目になるか分からない、つかさの溜息。

「たくよぉ、そんなンでグダグダするなよ、気になるンなら、自分で聞いて来いよ」

「何て?」

「ボクとお付き合いしてくれませんか、って」

「それが出来たら、ここで、グダグダしてないよ」

「だったら、早く仕事をしろ!」

 つかさの頭にバインダーを叩き付ける。

「只でさえ、仕事が溜まってんだからヨ」

「仕事って言ったって、アソコの研究指針を決めるぐらいだろう?それに、人数だってまだ」

「人数は確かに、定員にみたってねぇヨ。だからって、方針を固めておかねぇと、後で苦労をするのは、お前と津雲さんだろ?」

「しとかさんを出すのは、ズルいよぉ」

「狡かねぇよ。おら、さっさと始めろ」

 つかさが椋田に発破を掛けられているとき、しとかは〈白い教会〉にいた。





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