食事会
のどかを食事に誘ったつかさは、電話越しにガッツポーズ、受話器を戻した後は小躍りさえしていた。
「と、言う訳だ。お前はこなくていい」
電話を終えて、小躍りをした後、椋田の研究室に向かった。
もし、しとかに断られたら、椋田と食事をする事になっていたからだ。
「なぁンだ、良かったじゃあねぇか。で、いつ、言うンだ?」
「え、な、何の事かなぁ?」
「ハァ?だって、お前、誘ったら言うって決めていたンじゃあ」
「そ、そうだけ・・・。下心丸出しって思われないかい」
「・・・ハァ。お前って、奥手だな」
それだけ言うと、椋田は椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。
「・・・悪かったな、奥手で」
つかさはむすっと膨れた。
そして、しとかにレストランのリストを送り、日取りと段取りを軽く整えて約束の日時になった。
つかさはしとかの部屋の前に立っていた。チャイムを鳴らす。暫くしてチェーンロックが外される音と、扉が開かれる音がした。
「・・・ホントに、迎えに来てくれたのですね」
「はい、約束は守る方なので」
しとかは、そのまま外に出ると、鍵を閉めた。
「それじゃあ、行きましょうか」
つかさに先導され、しとかは宿舎を出た。
「ところで、目的地までどのように向かうのですか?」
「試験運用している都市循環バスに乗ります。しとかさんが選んだ、レストランが入っているモールにもバス停があります」
「試験運用なのですか?」
「はい。バスの路線図拡大、運賃の変動といった課題がありますから。あ、今日は僕がお誘いしたので、諸々の費用は僕が負担しますから。のどかさんは、楽しんで下さい」
「そんな・・・。バス代や雑費は自分で払いますから」
「大丈夫ですよ、しとかさん。何事も使ってみなくてはいけませんから」
「・・・すみません」
「いいえ、お気になさらないで下さい」
つかさは宣言した通りに、バス代からモールでのショッピング代、のどかが使う日常雑貨の費用まで請け負った。
「そろそろ、予約したレストランに向かいましょうか」
喫茶店で小休憩をした2人は、モールの最上階にあるレストラン街に向かった。
「しとかさんが選んだのは・・・このお店ですね」
落ち着いた色合いの入り口に、受付係のボーイが立っている。
「いらっしゃいませ」
「予約した今治です」
「・・・2名様でご予約の今治様ですね。ご案内致します」
堂々とボーイの後に続くつかさと違い、あまりにも豪奢な内装にしとかは緊張し始めた。
「こちらのお席をご用意させていただきました」
案内された席は、学園都市が一望出来る窓際の静かそうな席だった。
「お料理が運ばれるまでの、食前酒など如何でしょうか?」
「そうだね・・・度数が低めなものを。しとかさんは、どうしますか?」
「あ、えっと・・・。私も同じモノで」
「では、食前酒をお持ちしますので、お待ち下さい」
案内係のボーイが下がった後、しとかは小声でつかさに言った。
「つ、つかささん。お料理って」
「勝手だとは思いますが、コース料理を予約させていただきました。あ、支払は僕がしますから。それよりも、この夜景を楽しんで下さい」
つかさに促され、しとかは眼下に広がる夜景を見つめた。
しとかが以前に暮らしていた大都会と比べて、ネオンの煌めきは劣るが、これから発展していくのだろうと考えると、胸がときめいた。
「開発途中ですが、あそこの小高い丘は、いずれ住宅地になる予定です。1軒の規模を大きくするため高級住宅になりますので、〈教会〉や学園都市の中枢を担う人達の家族向けにと思っています。それから」
つかさは料理が運ばれてくるまでの間、レストランの窓から見える都市の一つ一つを説明していった。
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