第42話・内乱の流れ
NPCはHPが無くなると消滅する。ロストしてしまうため、プレイヤーはできるだけ、従うしかなかったエルフを捕らえるようにしている。
囚われたエルフはみな、戦う以前にボロボロな姿に鎧など着込んだだけの兵士が多く、基本戦力はイタズラ妖精と、妖精に魅了されたモンスターだ。
モンスターや妖精を養うのに、エルフ達の中には家畜以下の扱いをされる者達がいた。彼らがそうだった。
「よし、とりあえず武装を解除して、ここで飯を食え」
「はっ?」
最初何を言われたか分からなかった。囚われたエルフ達はもうどうにでもなれと思考が停止していたが、そこに空きっ腹にこたえるいい匂いが流れ込んできた。
「これは」
スープがあれば良い方、そう思うような生活をしていた自分達の元に、体に優しいシチューや柔らかいパン。エルフに人気の味噌と醤油の味付けの日本定食。
焼き魚にお鍋といった料理が作られていた。
「さあ、まずは腹を満たせ。あんな奴らのとこいたから、腹が減ってるだろう」
「い、いいのか? こういうものは王家の物のはずだ」
「私が良いと言っている!」
「びゃ、白虎様!?」
囚われたエルフたちが膝をつくと、すぐに顔を上げろという白虎。その傍に弟王族派の王が現れた。
「バカな叔父上達のせいで苦しい思いをさせてすまない。君達の家族も受け入れることを約束する。できる限りエルフは殺さずに捕えるよう精霊人の方々にも通達している。だから安心してくれ」
「ほ、本当ですか」
「ああ。この食事の量も一時の物ではない。腕に覚えがある農家などが種や苗木を持ってやってきて、いま大規模に畑を作っている。もう野菜しか食べてはいけないという法律も無い!」
「そもそもそんな法を作った覚えはないぞ!」
白虎様はお怒り気味にそう宣言する。囚われたエルフ達はショックが大きい。あれも王族の暴論だったのかと。
鹿モンスターが増えたせいで、樹が育ちにくくなっているのに狩りをすることを禁止され、恵みが少なくなったところもある。
もう限界だった。だが、ここは転機だ。
ここでかじ取りを間違えれば、エルフに未来はない。
「ありがとうございます」
まずは腹を満たし、捕虜としてやることをやろう。彼らは新エルフ派に対する義理はもうほとんどなかった。
◇◆◇◆◇
「おうおう、やっぱり次にすることはこういうことか」
食料を作る畑、または倉庫に向かってモンスターの大群が攻め込んでくる。
新エルフ派の行動で、普通に食料は奪う気満々だった。
私は激怒している。私が会った兵士というエルフ達は、みなやせ細り、戦う気力もない状態だ。
これで新エルフ派にも食料はたくさんある。彼らが王国を支える大規模の畑などを領地にしているのだ。なのに、飢える民がいる。
ほとんどがモンスターや妖精と精霊、そして一部の者達しか食べられないという事態。
怒りだ。私はいま、猛烈に怒っている。
「久々だ、ここまで頭に来ているのは!」
向かって来るモンスターにメイスを担ぎ、ダイチ達を見る。もうプレイヤーの防衛体制は整っている。
「この食糧は腹空かせてる人のものだ。てめえらには米粒一個も食わせる義理はねえ!」
私はこの日、久々に暴れた。メイスで頭部をかち割り、妖精達を捕まえてげんこつをくらわす。
戦争ごっこだと? ふざけるな! それはもう遊びじゃねえんだよ!
遊び感覚でやるならな、俺は徹底的に邪魔してやる!
そう思う人は多く、こうしてこの時期、食料不足という問題が解決になった弟王派はすぐに行動に出て、数多くの集落を開放して、食料を用いて交渉。円満に自分らの派閥に加えていく。
その中で人一倍働くのは、俺だけではない。若葉さん、料理人プレイヤーの力もある。
「はいよ、さっぱり魚介塩ラーメン一丁!」
「ふわふわパンのお代わりはいかかですか~」
「トマトパスタ一丁あがり! たんとお食べ!」
「味噌ソースピザの出来上がり、熱いから気を付けてくれ!」
「はい、シチューはまだまだありますよ。ゆっくり食べてくださいね」
こうしてまずは地盤固めに、弟王派は動き、民の心をひとまとめにした。
対する新エルフ派はと言えば、モンスターを使って恐怖体制らしく、精霊と妖精が神の使いとして扱われている。
「憤慨!我はそんなこと一言も言っていない! 妖精達のでたらめだ!」
白虎様はひどくお怒りであり、神はどうも戦争とかに参加してはいけない決まりがあるが、味方になるなという決まりはない。
弟王の方が話を聞くし、民の為に頭を悩ませていた。だから彼に味方する。
白虎の声が届かない新エルフ派は、巫女は精霊達に言われたのか知らないが、特殊な力で捕まっているということを宣言。白虎様曰く、あんな巫女知らん!と激怒。
「そもそもここ近年声が聞こえるのは一部の王族と大臣だけだ! 巫女は全員修行不足で全然聞こえてないわ!」
これには白虎様はお怒りモード。若葉さんがまあまあとあやすようになった。
こうして戦いは前線は激化し出して、だけど大本の支え、エルフ達の扱いが軽いため、戦線は少しずつ、こちらに傾き始めた。
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