第265話 パーティーの終わり
エリック達の奮闘、ヴィンセントの加勢によって黒獅子が撃退された。
ガラスで手足を切ったり、逃げる際に転んで怪我をしたりした人間はいるものの……残らずレイナによって治療されている。
大きな問題はなく、突発的な襲撃イベントを攻略することができた。
「大丈夫ですか、レイナ?」
「はい、皆さんパーティー会場の外に避難しました。重症の人がいなくて良かったです」
レイナに声をかけると、ニッコリと笑顔が返ってきた。
何人もの怪我人を治療していたレイナであったが……特に疲労している様子もなさそうである。
「それにしても……何だったんでしょう、あの大きなライオンは。何となく不思議な気配がしました。魔物とはちょっと違ったような……?」
レイナも黒獅子について違和感を覚えているようである。
その疑問は正しい……あの黒獅子は単純な魔物というわけではなく、このイベントにおいて重要な意味を持った存在なのだ。
「あー……レイナ。君はシュラ・ハイゼン君という生徒と面識がありますか?」
「シュラ……いえ、知りませんけど? どなたですか?」
「いえ、知らないのなら結構です」
「…………?」
疑問符を浮かべているレイナにクラエルは「気にしないでください」と言い置いておく。
シュラ・ハイゼンは王立学園の生徒にして、ゲームの攻略キャラクターの一人。
このイベントに深く関わっているキャラクターなのだが……レイナとの交流はなさそうである。
(たぶん、好感度も上げていないんだろうな……だったら、ここは放置で良いかな?)
「シデルイーリャ様、ご無事ですか? お怪我は有りませんか?」
「……はい、ありがとうございます」
会場の奥では、エリックが歌姫シデルイーリャを助け起こしている。
黒獅子に襲われて座り込んでいる歌姫……彼女の顔は蒼白に染まっており、恐怖の表情が浮かんでいた。
怪物に襲われたのだから当然といえば当然なのだが……実際はそれだけではない。シデルイーリャはあの黒獅子を知っているのだ。
「それにしても……どうして、ヴィンセント先輩がいるんですか?」
「そうだよー、急に出てくるとかビックリするじゃん!」
一方、戦闘の途中で現れたヴィンセントにウィルとリューイが詰め寄っていた。
「別に。山で修行をしていたんだが、食料を熊に荒らされちまってな。しょうがないから補充に町に降りてきたところで、騒ぎに出くわしたんだよ。俺としては……お前らの方こそどうして襲われてるんだと問い詰めてえよ」
「わかりませんよ。パーティーに参加していたら、急にあの黒獅子が飛び込んできたんです」
「フーン……それで、どうしてメロンがいやがるんだ?」
「えっと……私はリューイ君の付き添いで……」
生徒会役員達がそんな会話を交わしている。
この場は彼らに任せてしまって良さそうだ。少なくとも、クラエルがやるべきことは何もない。
(このイベントについて、俺達にできることはない……攻略キャラに頑張ってもらおうかな)
「レイナ、僕達も引き上げましょうか」
「はい、そうですね」
会場にいた参加者は全員避難してしまっている。
ユリィやレイナの友人達も同じだった。クラエル達がここに残っていてもできることはなかった。
「帰りましょう、僕達のホテルに」
「せっかくのパーティーが台無しですね……腹八分目ですけど、ごちそうを食べられたから良しとしましょうか」
レイナはどこか不満そうに、倒れたテーブルと散乱した料理の皿を見やる。
かなり食べていたように見えたが、まだ満腹はしていないらしい。
「……ホテルに戻ったらルームサービスでも頼みましょうか」
「はいっ! クラエル様も一緒に食べましょうねっ!」
「……僕は大丈夫です。満腹ですから」
「クラエル様は少食ですね? 私も自重した方が良いでしょうか……?」
「いえ、レイナはいっぱい食べてください。それがみんなのためにもなりますからね」
そんな会話をしながら、クラエルとレイナはパーティー会場を後にした。
外でユリィ達と合流して、自分達の宿泊先のホテルに帰還したのであった。
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