第262話 クズ……もといショタの事情

 メロン・ブレッドは生徒会役員の一人で庶務をしている。

 栗毛の髪を三つ編みのおさげにしており、眼鏡をかけていていかにも優等生そうな容姿をしていた。

 だが……今日の彼女はいつもとは趣が違う。

 水色の清楚なドレスを身に纏っており、おさげ髪を解いて眼鏡も外していた。

 今のメロンは深層の令嬢といった外見であり、慣れない格好が照れ臭いのか頬を朱に染めている。


「レイナお姉ちゃん、こんな場所で会えて嬉しいよ! 何だか運命を感じちゃうねっ!」


 問題があるとすれば……メロンが攻略キャラのリューイ・ビスケットと一緒に入ることだろう。

 リューイはいつものように馴れ馴れしくレイナに話しかけてくるが、レイナはそれを冷たい瞳で見返した。


「お二人はどうしてご一緒に?」


「あー……えっと、それは……」


 レイナが短く問うと、リューイはわかりやすく動揺した。

 どうやら、話しづらい事情があるようである。


「もしかして……二人は一緒に旅行しているんですか?」


 二人の距離感を見て、クラエルはふと思いついた言葉を口にした。

 その指摘にリューイが気まずそうな顔をする。


「いや、えーと……たまたま冬休みは用事が無かったからさ。家にいても家族と気まずいし、どこか遠くに行きたいなって思っただけで……」


「そういえば……ビスケットさんは冬休み前、私のことも旅行に誘っていましたよね。特別な場所に連れていきたいからって」


 レイナがポツリと言う。

 もしもレイナがリューイルートに進んでいたのであれば、二人で旅行に出かけることになっていたはず。


「メイリーさん達に旅行に誘われていましたし、さして親しくも無い相手と泊まりで出かけたくなかったので断りましたけど……もしかして、代わりにブレッドさんを誘ったんですか?」


「うっわ……最低かよ」


 クラエルが思わずつぶやいた。

 リューイの行動は普通にドン引きである。

 レイナに誘われて断られて、代わりとばかりにメロンを旅行に誘ってスキーにやってきた。

 そして……旅行先でたまたまレイナにあったら、いつものように「おねーちゃーん」などと声をかけてきたということである。


(男として……人として、どうかと思うな。コイツ、本当にゲームとキャラ違い過ぎるだろう)


 リューイの奇行に、クラエルやレイナを含めた周りの視線が冷たくなる。

 ゲームにおいても、リューイ・ビスケットというキャラクターは子供っぽくてワガママ、幼稚さと未熟さが目立つ少年だった。

 だからこそ……ヒロインはそんなリューイを放っておけない、見守ってあげたいと関係を深めることになるのだ。


(だけど……それが現実になったら普通に痛い奴だよな。いや、それはエリック殿下やヴィンセントだって似たようなものだけどさ……)


 ゲームのヒーローやヒロインが現実にいたら、わりと厄介で痛い人物として周りから見られるのかもしれない。

 仕事もせずに修行だ戦いだに明け暮れる人間は妻子にとっては重荷でしかないし、婚約者がいながら別の女性にアプローチをして婚約破棄する男とか普通にクズである。


(まともなのはレイナと、それにウィルが辛うじてというところか……まったく、もっとしっかりしろよなって話だよ)


「えっと……リューイ君はあんまり責めないであげてください……」


 しかし、リューイを擁護する人間がいた。

 それは都合の良い女性として扱われているメロン本人だった。


「私、リューイ君に旅行に誘ってもらえてすごく嬉しかったんです。リューイ君は私のことなんて好きじゃないし、たまたま予定が空いていたから誘ってくれただけだと知っていますけど……それでも、本当に嬉しかったんです。だから、彼のことを責めないであげてください。私は平気ですから……!」


 メロンが一生懸命といったふうに言い募る。

 クラエルは彼女のことをほとんど知らないが……良い子だった。この健気さはレイナと通じるものがある。


(だからこそ、リューイのクズさが際立つのは皮肉な話だな……まあ、本人が気にしていないのなら俺が口出しすることじゃないが)


「……別に責めていません。ただ、世間話をしているだけですよ」


 レイナもクラエルと同じような考え方らしく、リューイの方を見ずにメロンにだけ話す。


「私達はたまたま旅行先で会っただけです。お互い、必要以上にはかかわらずに旅行を楽しみましょう」


「はい……」


「そんなあ、レイナお姉ちゃあん……」


 メロンが神妙に頷いて、リューイが情けなくも縋るような声を出した。

 そんな情けなさ爆発の少年に……この場にいる女性陣はもちろん、友人であるはずのウィルまで軽蔑の眼差しを送っていたのである。

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