第261話 また攻略キャラが出ました

 他の招待客と歓談しながら食事を取っているクラエルとレイナであったが、彼らのところに見覚えのある人間達がやってきた。


「今晩は。バーン先生、レイナ嬢」


「おや……ウィル君、君も来ていたんですね」


 そこにいたのはゲームの攻略キャラの一人。インテリ系眼鏡イケメンのウィル・リレイスだった。

 タキシードに身を包んだウィルは穏やかな笑顔で現れて、キラリと眼鏡を光らせた。


「こっちにはクラスの男友達と旅行に来ていたんですよ。たまたま、エリック殿下と顔を合わせて招かれたんです。友人も向こうで酒を飲んでいますよ」


「それはそれは……あまり羽目を外し過ぎないようにしてくださいね。皆さんは学生なんですから」


 窘めながら、クラエルはどこか安堵したような気持ちになる。

 ウィルは持ち前の天才性ゆえに周りと孤立してしまい、そこをレイナと出会って救われるポジションである。

 しかし、レイナとの関係は進んでいなくともウィルは孤独から救われているようだ。友人と旅行に行くくらい親しい交友関係が気づけているらしい。


「レイナ嬢。そちらのドレスはとてもお似合いですね」


「ありがとうございます」


「それと……君達はメイリー嬢とシャロン嬢、ヴァネッサ嬢でしたね。皆さんもとても艶やかで美しいですよ」


「ええ、ありがとう。ウィルさんも素敵ですよ」


 ウィルがレイナだけではなく、友人達まで褒めている。

 やはり、ウィルは変わったようだ。

 かつての彼であれば自分と対等と認めた人間以外、話しかけることはおろか名前を覚えることすらしなかったはず。


「それと……えっと、そちらの女性は初めましてですよね?」


「ええ? なーにをいっているんでしゅかあ、ウィルくーん」


 ウィルに話しかけられて、ユリィが酔っ払ってへべれけになって答える。


「わたひですよ、わーたーひー。みんなのユリィ先生じゃないですかあ」


「は……カネスタ先生っ!? どうして、ドレスを着ているんですか!?」


「メイドさんに着せられたんですよお、放っておいてくださいっ」


 言いながら、ユリィがウィルの肩をバンバンと叩いた。

 完全に出来上がっている。彼女が……じゃなくて彼がこんなにも酒癖が悪いとは知らなかった。


「寮ではそんなに飲まないんですけどね……もしかして、女装させられてヤケクソになってません?」


「お嬢さん、良ければあちらで休憩しませんか?」


「それよりも、向こうで一緒に話をしましょう」


「いえいえ、部屋を取っているので案内しますよ」


「あ、すみません。この人は大丈夫なのでお構いなく……」


 ほど良く酔っ払ったユリィはそうやって男に言い寄られていた。

 性別も含めていろいろと問題がありそうなので、雑に追い払っておく。


「そういえば……山でヴィンセント君のことを見つけたけど、彼が来ているのも偶然ですか?」


「あー……そうみたいですね。山籠もりして修行をするとか話していましたよ」


「なるほど……これでリューイ君がいたら勢ぞろいですね」


「それなんですけど……」


 ウィルが何故か急に口籠る。

 言いづらそうに微妙な顔をするウィルであったが、クラエルはすぐにその理由を知ることになった。


「あ、レイナお姉ちゃんも来ていたんだねっ!」


 そこで……やはりというか、最後の一人が声を弾ませながら現れた。

 小動物系ショタイケメンのリューイ・ビスケットが人懐っこい笑顔で話しかけてきたのだ。

 リューイもタキシード姿だが、背丈が低くて童顔なのでまるで七五三の衣装を着せられているようである。


「あ……?」


 だが……普段のリューイとは異なるところがあった。リューイの横には見慣れない少女の姿があったのだ。

 栗毛の髪を柔らかく波打たせた少女であり、水色がかったドレスを身に纏っている。

 顔立ちは地味目ではあるものの、よくよく見れば整った容姿をしていた。


「貴女は……もしかして、メロン・ブレッドさんですか?」


 レイナが首を傾げながら訊ねた。

 どこかで聞いたような名前だと怪訝に思うクラエルであったが、すぐにその名前の持ち主を思い出す。


「もしかして……七不思議事件の……?」


 それは生徒会役員の最後の一人。レイナの代わりに庶務というポジションに座ることになった少女。

 かつて、七不思議事件を引き起こしてしまった張本人のメロン・ブレッドだった。

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