第255話 ドレスを選びます
エリックが宣言していたように、その日の昼頃にドレスが届けられた。一緒に王家の使用人と思われる執事とメイドもやってくる。
『届けられた』とはいったものの、エリックがレイナら女子四人の服のサイズを知っているわけがない。
地元の人間と思われる商人がたくさんのドレスをホテルに運び込んできて、ここから好きな物を選ぶように促された。
「何というか……流石は王子ですね。随分と大それたことをしてくれます……」
ホテルのラウンジに運び込まれたドレスの山を目にして、クラエルが呆れから溜息を吐く。
並んでいるドレスは数百着。これを即席で用意したとなれば、かなりの資金を使ったに違いない。
初めて、エリックがこの国の王太子であると実感した気持ちである。
「わあ、すごいドレス! 綺麗!」
「流石は殿下ね……ちょっとしたパーティーだと聞いていたけど、こんなにドレスを用意するだなんて」
「これ、本当に私達が着ても良いのかしら?」
レイナの友人達が目を輝かせている。
貴族令嬢である彼女達も綺麗なドレスなど見慣れているだろうに……それでも、目の前に並んだ数百のドレスは圧巻のようだった。
「料金は殿下よりいただいております。どうぞ、好きなように袖を通してください」
「お嬢様、こちらに試着室を用意いたしました。どうぞ、どうぞ……」
身なりの良い執事とメイドが、女子達にドレスを試着するように促した。
ホテルにいる他の宿泊客が何事かとラウンジに目を向けてくるが、当然のようにホテル側には話を通しているらしい。スタッフがやんわりと追い払っていた。
「聖女様も、どうぞ試着をなさってください」
「はい……行ってきます。クラエル様」
「ああ、はい。どうぞごゆっくり」
クラエルはレイナを送り出した。
レイナ達にドレスが用意されていたように、クラエルにもタキシードが用意されている。
女性陣と違ってそこまで熱心に選ぶ必要はない。適当にサイズの合った物を受け取ることにした。
「さあ、お嬢様。ドレスを試着しましょうねー」
「ちょ……違いますって! 私は男ですよ!?」
「そんなご冗談を……心配なさらずとも、スレンダーな体型に合うドレスもありますよ」
「ちょ……クラエル先生ええええええええええええええっ!」
悲鳴を上げながら、ユリィがメイドに連れられていった。
クラエルの脳裏にドナドナの音声が流れる。
しばらく待っていると、艶やかなドレス姿となったレイナ達が現れた。
「へえ……これはこれは」
クラエルが感嘆から語彙を失う。
そこにいたのは人魚と見まごうような美少女の姿。真珠色のマーメイドドレスを身に纏ったレイナである。
レイナが着ているのは上等なシルクのマーメイドドレスで、あちこちに小さな宝石が散りばめられていてキラキラと輝いている。
薄くではあるが化粧までしており、その美貌はまさに傾国。
レイナが微笑み、言葉を投げかけただけで大勢の男達が争い、国を滅ぼしてしまいかねなかった。
「どうでしょうか、クラエル様?」
「とても似合っていますよ……正直、見惚れてしまいました」
「嬉しいですっ! クラエル様が好きそうなドレスを選んだんですよ?」
レイナが頬を薔薇色に染めて、悪戯っぽく微笑んで顔を覗き込んでくる。
クラエルは無性に照れ臭い気持ちになって、「コホン……」と咳払いをした。
「皆さんも似合っていますよ」
「ありがとうございます、バーン先生」
レイナの友人達も艶やかに自分を飾りつけている。
赤、青、黄色のドレスを身に纏って、アクセサリーも付けていた。
「ウウッ……どうして、私まで……」
「……ユリィ先生も色っぽいですね……何といいますか、怖いほどに」
ユリィもまた、紫色のフィッシュテールドレスを着ている。
前後のスカート丈が異なるそのドレスにより、ユリィの足は前側が大胆に開いていた。
童顔のユリィであったが、そのドレスのデザインは大人びていて煽情的である。
「な、何でこんなことに……」
「いや、僕に聞かれましても……」
「別のドレスも試着してきますね? 是非とも、クラエル様に見て欲しいですっ!」
よよっと泣き崩れるユリィに対して、女子四人は楽しげである。
最初はパーティーへの参加を渋っていたレイナでさえ、ウキウキとした様子でドレスの試着をしていた。
最終的に、彼女達は最初のドレスでパーティーに出ることになった。
クラエルはタキシード姿。ユリィはやたらと強い王宮メイドの圧に押しきられる形で、そのままのドレスで参加することになったのである。
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