第254話 招待状です
翌日、旅行三日目。
朝食を摂り、今日もスキーに出かけようとしたところで、ホテルのボーイがクラエルのところに手紙を持ってきた。
「この手紙は……エリック殿下から?」
ホテルに届けられた手紙の宛先はクラエルというか、レイナに対してである。
一応、連名でクラエルとユリィ、レイナの友人達の名前も書いてはあるものの、その手紙の目的はレイナを招くことだろう。
そもそも、どうしてレイナがこのホテルにいることを知っているのかと疑問に思うが……腐っても王族である。
国の重要人物である聖女の居場所くらい、把握していて当然だろう。
「えっと……僕が読んで構わないんですか?」
「はい、お願いします」
レイナの許可を得て、クラエルはその手紙を読んで聞かせた。
どうやら、手紙は招待状のようだ。
王太子にして攻略キャラであるエリック・セインクルが近くのホテルに滞在しており、そこで婚約者のキャロットと一緒に過ごしている。
今夜、ホテルでちょっとしたパーティーが開かれる予定なので、レイナもぜひ参加してもらいたい……要約すると、そんな内容である。
「エリック殿下もここに来ていたんですね……」
クラエルが眉をひそめる。
ゲームのシナリオであれば、エリックは外交によって隣国に行っているはずである。
エリックルートを攻略している場合、レイナも同行して、他国で事件に巻き込まれることになっているのだ。
(まさかとは思うけど……レイナを追いかけてきたんじゃないよな? 流石に気持ちが悪いぞ……)
可能性はゼロではないが……いくらなんでも、それはないだろう。
もしもレイナを追いかけてきたというのなら、同じホテルを取るはず。婚約者であるキャロット・ローレル公爵令嬢を連れてきているのも不自然だ。
(長期休暇を利用して、婚約者のご機嫌取りというところかな……)
ゲームでも、エリックはレイナに惹かれながら、婚約者のキャロットとも交流を持っていた。二人の女性の間で板挟みになって葛藤しながら……最終的にはレイナのことを選んで、彼女を虐げていたキャロットを断罪するのである。
(レイナがエリックルートに入っていない以上、キャロット嬢との仲はそれほど悪くなっていないはず。ということは、婚約者としての関係も崩れていないのか……?)
エリックはたびたびレイナのことを口説いているから怪しいところだが、レイナがキャロット嬢から虐められているという話も聞いていない。
キャロットはレイナにとって血のつながらない姉だが、交流は少ないはずだ。
「昼にはドレスを届けるとまで書いてあるな……もちろん、人数分」
レイナだけではなく、友人達の分までパーティー用の服を届けると手紙に記載してある。
「パーティーですか……私は正直、興味がありませんね」
手紙の内容を聞いて、レイナはどうでも良さそうに言う。
「このホテルの食事に不満はありませんし、貴族らしい場は苦手です」
「でも……王太子殿下が直々に招いてくれたんですよ? 断るのも失礼になるんじゃありませんか?」
おずおずと挙手をしたのは、レイナの友人であるシャロンだった。
「殿下からの招待を断ったとなれば、親から叱られてしまいます……」
レイナはともかくとして……一般的な貴族令嬢にとって、王族からの招待は事実上の命令である。よほどのことがない限り、拒否することはない。
「所詮は私的なパーティーですし、問題はないと思いますよ?」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「ドレスまで用意してもらって、断るのは失礼よね……」
シャロンだけではなく、メイリーやヴァネッサもまた表情を曇らせている。
『将を射んとする者はまず馬を射よ』という言葉があるが、この展開を狙って友人を招待したのであれば、エリックもなかなかの策士である。
「……仕方がないですね」
そんな友人達の反応を見て、レイナが深く溜息を吐いた。
「それでは、エリック殿下のお招きに応じて、今夜はパーティーに参加させていただきましょう……クラエル様とユリィ先生もそれでよろしいでしょうか?」
「僕は問題ありませんよ」
「私も大丈夫です」
一応は保護者である。エリックを疑うわけではないが、生徒達だけを行かせるわけにはいかない。
「夜間のお出かけになりますし……教師として、引率させてもらいましょう」
そして……六人はエリックの招待に応じて、パーティーに参加することが決まった。
スキー旅行のはずが思わぬ展開。予想外の場所での、攻略キャラとの遭遇である。
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