第251話 レイナは友達想いです
「あ、クラエル先生」
「ああ、ユリィ先生。ようやく合流できましたね」
三回ほど頂上から麓まで滑ったところで、同僚のユリィ・カネスタと遭遇した。
ユリィの後ろにはレイナの友人達もいる。ここに来て、全員集まることができたようだ。
「そっちはどうですか? 楽しんでいますか?」
「はい、空の旅はとても楽しかったですよ」
「空の旅……スキーをしていたんじゃなかったんですか?」
遠い目をしているクラエルに、ユリィが不思議そうに首を傾げる。
スキーはもちろん楽しかったのだが、クラエルにとっては空中飛行の方が印象に残っていた。
「いえ……何でもありません。それよりも、皆さんも楽しめていますか?」
「はい。シャロンさんもヴァネッサさんも覚えが良くて、もう基本的な部分はマスターしました」
「それは何より。ここからは一緒に滑れますね」
「もう少し慣れてきたら、競争しても良いかもしれませんね」
「良いですね。それじゃあ、皆さんで滑りましょうか」
クラエルはレイナ、ユリィ、女子生徒三人と一緒に山を滑り降りる。
クラエルとユリィ、レイナの友人であるメイリーは経験者だけあって、巧みな滑りっぷり。レイナも持ち前の運動神経で軽快に雪の上を滑っていた。
たどたどしいのは、未経験者である二人……シャロンとヴァネッサ。二人はたどたどしく、他のメンバーよりもやや遅れてついてくる。
「急がなくて良いですよ。ゆっくり滑ってきてください!」
クラエルは山の中腹辺りでブレーキをかけて止まって、少し高い場所にいる二人に向けて声をかける。
「大丈夫です。焦らず、転ばないように気をつけて!」
「は、はいっ!」
「わかりまし……キャアッ!」
「あっ……!」
ヴァネッサがバランスを崩して、転倒してしまいそうになる。
クラエルが思わず声を上げるが……彼女はすぐに体勢を立て直した。
「え……?」
不自然な体勢から転倒を免れた少女の姿に、クラエルは目を白黒とさせる。
何があったのかと注意深く見ると……ヴァネッサの身体をそっと支えている小さな影。
「ハシビロコウ……」
翼を広げて、ヴァネッサに寄り添っているのはハシビロコウのぬいぐるみ。
昔、クラエルがレイナに買い与えたぬいぐるみの一つ、今は聖霊の依り代になっているものである。
よくよく見れば、もうひとりのシャロンの身体にも白いウサギのぬいぐるみが引っ付いていた。
二人は初めてのスキーに必死なようで、自分達がぬいぐるみに支えられていることに気がついていないようである。
「なるほど……友人へのケアはバッチリということですね」
確認するまでもない。
アレはレイナが友達を助けるために付けたものだろう。
「クラエル様、どうかされましたか?」
「いえ……流石はレイナだなと思っただけです」
傍にレイナが滑ってきて、クラエルの顔を覗き込んでくる。
クラエルは友達想いのレイナを褒め称えるように、笑いかけた。
「これからも友達は大切にしてくださいね」
「はい、もちろんです……それじゃあ、行きましょうか」
レイナはくすぐったそうに笑って、雪の妖精のように斜面を滑り降りていく。
今日初めてスキーをしたとは思えないような鮮やかな滑りっぷりだ。もはや、クラエルが教えるべきことは何もないだろう。
「アッチも問題なさそうですし……心配事が減って何よりですね」
クラエルは遅れてくる生徒二人をもう一度振り返ってから、レイナの後を追っていった。
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