第152話 問題は解決しましたが……?

「やれやれ……ようやく、終わりましたね」


 ギャングを倒したクラエルは攻略キャラの四人を引き連れて、『白の奉竜殿』の外に出た。

 中に入るときには合言葉が必要になったが、外に出ることはアイテムを使用すれば簡単である。

 盗賊と同じようにアイテムを使用して、クラエルとエリック、ヴィンセント、ウィル、リューイの五人は外に出た。


「エリック王太子殿下! ご無事ですか!?」


 遺跡の外に出てきたエリックに、騎士の一人が駆けよってきた。


「お怪我はありませんか?」


「ああ、問題ないよ」


 心配そうな騎士の言葉にエリックが笑顔で頷いた。

 実際、クラエルも攻略キャラ達も目立った怪我はしていない。


「十分に対策はしていたからね。見ての通り、大勝利だったよ」


「そうですか……それは良かった」


 騎士が安堵に息を吐いた。

 遺跡を囲むようにしてこの場にいるのは、王宮の騎士とテンプルナイトである。

 ギャングを包囲して逃げ場を塞ぎ、捕縛するために用意しておいた兵士達だ。

 人数はたった五十人しかいない。

 少しでも盗賊や悪徳貴族と繋がっている可能性がある人間、金に困っていて買収されそうな人間、実績の浅い人間、口の軽い人間……わずかでも不安のある騎士を除外して、最大限に情報漏洩を警戒したらこれだけの少人数になってしまったのだ。


「こちらは全員、捕縛しました。逃げている者はいないはずです」


「そうか、ご苦労だったね」


「それでは……王宮まで連行いたします。エリック王太子殿下もどうぞ御一緒に」


「ああ……バーン先生、今日は助かりました」


 兵士に頷いて、エリックがクラエルに向き直る。


「おかげさまで、レイナを狙っていたギャングを一掃することができました。バーン先生がおとり作戦を了承してくれたおかげです」


「レイナは僕にとっても庇護対象です。どうか、気になさらずに」


 クラエルにとって、レイナは妹であり娘のような存在だ。

 レイナを守るために命を賭けるのは当然のことであり、礼を言われるようなことではなかった。


「むしろ、感謝するべきなのは僕の方ですよ……これは我が兄の不始末でもありますからね」


 クラエルが捕縛されているギャング達を見回した。

 そこに兄であるギラエルの姿はなかった。


「……どうやら、ギラエルを捕まえることはできなかったようです。それが悔やまれますが」


「引き続き、調査をさせよう。今回のことでギャング達の大部分は捕縛できた。背後にいる悪徳貴族も一掃できただろうし、ギラエルという男にできることはないだろう」


 仮に逃げおおせたとしても、ギラエルがクラエル達を狙うことはできないだろう。

 あの兄のことだ……すたこらさっさと撤退して、隣国にでも逃げ込んでいるに違いない。


「そうですね……今日のところは、この戦果で満足しておくことにしましょうか」


「はい、それでは私はこれで失礼します」


「ええ、また学園で」


 クラエルはエリックと別れた。

 他の攻略キャラもクラエルに会釈をしてから、一緒に去っていく。

 捕らわれたギャングもまた一人残らず引きずられていった。


「それでは、私達も帰還しましょう。聖クラエル」


「ええ、行きましょう」


 テンプルナイトが言ってくる。

 クラエルは頷いて、彼らと一緒に神殿まで帰還することにした。


(これでギャングは片付いたか……もっとも、根を断つことができたわけではないのだが)


 クラエルは知っている。

 ギャングはあくまでも雇われただけであり、彼らの背後にはシャインクロス神聖国が……野心ある司祭であるカーマイン・イマリーがいることを。


(奴を倒さない限り、終わりではない。とはいえ……ここから先は俺が手出しできる問題ではないな)


 カーマインは一応、他国の要人だ。

 クラエルはもちろん、エリックだって容易には手を出せない。

 シャインクロス神聖国の問題は攻略ルート次第ではあるが、レイナによって解決されることだろう。


(モブキャラにできるのはここまで……後は未来のレイナ達に託すとしようか……)


 神殿の馬車に乗り込んで、クラエルは目を閉じる。

 モブキャラらしからぬガチの戦闘をしてしまった……おかげで、肉体的にも精神的にもすっかり疲労してしまった。


(また週明けには学園か。授業の準備もしておかなくちゃいけないよな……)


 目を閉じると、途端に眠気が襲ってくる。

 馬車の背もたれに体重をかけて、逆らうことなく意識を覚醒の世界から遠ざける。


(参ったなあ、社畜時代に戻ったみたいだよ……)


 心の中でぼんやりとボヤキながら、クラエルはしばしの睡眠へと心身をゆだねたのであった。

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