第149話 ギャングは逃げる
『白の奉竜殿』の上層部。石板と祈りの部屋。
魔方陣がうっすらと輝いている床の上、緑色の煙が上がって数人の男達が現れた。
「ハア……ハア……ハア……!」
「チクショウ……舐めやがって……!」
「みんな、やられちまった……何でこんなことに……!」
脱出用のアイテムを使用したことにより、ギャング達は最初の石板の部屋へと飛ばされていた。
たっぷり五十人はいたはずのギャング達であったが……今は残すところ数人。
クラエルと護衛のテンプルナイト……たった四人を倒して、一人を連れ去るだけの簡単な仕事のはずだったのに。
「やられた……チクショウ! これじゃあ、組織が総崩れだ!」
「この借りは必ず返してやるぞお……覚えていやがれ!」
ギャング達が口々に悪態をつきながら、『白の奉竜殿』から出るべく地上に繋がった階段に走っていく。
早く逃げなくては、彼らが追いかけてくるかもしれない。
もはや、人数による有利はない。クラエルを捕まえることは不可能である。
それどころか……今回の敗戦によって、ギャング達は主戦力の大多数を失ってしまった。
こうなってしまえば、組織の立て直しすらも危うい状況となっている。
「ガキどもが……よくも嵌めてくれやがったな!」
「このままじゃ終わらねえ……終わらねえぞ! 絶対に一人残らずぶち殺してやる!」
口汚く叫びながら、ギャング達が『白の奉竜殿』の外に飛び出した。
そして、すぐに足を止めることになった。
「へ……?」
そこには大勢の人間がいたのだ。
兵士や騎士、神官らしき人間がダンジョンの入口を取り囲んでおり、子猫が抜ける隙間もないほどである。
彼らの足元には見知った人間が転がっていた。
「ウウッ……」
「や、野郎……」
騎士達の足元に転がっているのは、外に見張りのために残していたギャング達である。
彼らはそろって拘束されており、イモムシのようになって地面に倒れている。
「出てきたぞ! 無法者共だ!」
「捕まえろ!」
外に出てきたギャング達を見て、騎士達がすぐに動き出した。
「なっ……何だ、テメエらは!」
「王宮騎士団だ! 大人しくしろ!」
外に出たギャング達が地面に組み伏され、縄を打たれて拘束される。
突然の出来事に咄嗟に抵抗することができなかった。
「ま、まさか……待ち伏せしていやがったのか!?」
ギャング達は知らないが……これは計画通りのことである。
クラエルは……王太子エリックは今回のおとり作戦を行うにあたって、信用できる人間達を集めていたのだ。
どこにギャングや不正貴族と繋がっている人間がいるかわからない。
そのため……確実に信用することができる者だけを厳選して、作戦に参加させたのだ。
騎士団とテンプルナイト……それぞれから募った参加者が五十人にも満たないのだから、どれほど人数を絞ったのかわかることだろう。
「作戦完了だ。無法者共を拘束したぞ!」
「王太子殿下が戻ってくるのを待つぞ。計画通りであれば、すぐに出てくるはずだ!」
「コイツらは城に連れ帰って尋問を始める! ここにはいない仲間も全員捕まえるから、覚悟しておくんだな!」
「クソ……クソがああああああああああっ!」
騎士達の言葉に、縛られたギャングが悔しそうにわめいた。
虚しい叫びは周囲の林に吸い込まれていき、虚しく響きわたっていくのであった。
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