第147話 ギャングを倒します

「ハアッ!」


 クラエルが錫杖を振るう。

 強烈な一撃がギャングの顔面にぶちかまされた。

 遠心力を込めた重い打撃を喰らったギャングが錐揉み回転しながら吹き飛んでいき、床を転がって気絶する。


「こ、この野郎!」


「やりやがったな!?」


 クラエルが攻撃してきたことに気がついて、ギャングの数人が怒声を上げる。


「良いんですか? 僕にばかり目を向けて?」


「なっ……ギャアアアアアアアアアアアッ!」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 リザードマンが炎の息吹を吹きつける。

 真っ赤な炎に呑み込まれて、ギャングが黒焦げになった。

 炎を浴びてしまったのはクラエルも同じだったが……こちらは火傷一つ見当たらない。

 それもそのはず。クラエルは神官服の下に炎耐性のあるインナーを着込んでおり、さらに一時的に火属性ダメージを軽減する消費アイテムを使用していた。


「いくぞ、みんな!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「ウィンドカッター!」


 もちろん、火耐性の用意をしているのは攻略キャラ四人も同じである。

 四人はリザードマンが吐く炎をやり過ごしながら、ギャングを攻撃して次々と撃破していた。

 このダンジョンに出る魔物が火属性攻撃をしてくるという情報は共有しており、事前に十分な備えはしてあったのだ。


「チクショウ……ギャアアアアアアアアッ!」


「や、やめ……うわあっ!」


 一方で、備えも覚悟もしていなかったギャング達はやられる一方。

 クラエルと護衛のテンプルナイト……合計五人を相手にするつもりだったというのに、突如として魔物との戦いを強いられて混乱しっぱなしである。

 クラエル達が物理攻撃にのみ注意すれば良いのに対して、彼らはブレスの範囲攻撃を防ぐ手段はなかった。


「クソがああああああああああっ! 嵌めやがったなあああああああああああっ!」


「ッ……!」


 ギャングが次々と数を減らしていく中、一人がクラエルに向けて大剣を振り下ろしてきた。

 クラエルが両手で錫杖を持って、上段からの斬撃を防御する。


「テメエだけはぶっ殺す! もう生かしておかねえ!」


 スキンヘッドの大男が顔を真っ赤にして怒声を放ち、クラエルを大剣で追い詰める。


「良いんですか? 僕を生け捕りにするように依頼されているはずですよ!?」


「もう依頼なんて知ったことかよ! ここまで虚仮にされて生かしておけるか!」


 どうやら、男はクラエルに対する私怨のみで剣を振っているらしい。

 もはやクラエルを捕らえることは不可能であると判断して、せめて道連れにしようとしているのか。


「テメエがどんだけ神聖術で強化しようが、貧弱な神官であることは変わらねえだろ!? すぐに三枚におろしてやらあ!」


「やれやれ……参るな」


 男の連続攻撃を受けながら、クラエルが苦笑いをした。

 男の言い分は正しい。クラエルは『殴りヒーラー』として前衛もこなせるが、純粋な戦士職と接近戦をすれば不利である。

 生半可な相手に負けるつもりはないが……目の前の男はかなりデキるようだ。パワーもスピードもバフをかけたクラエルよりも上である。


「クッ……!」


「死ねえええええええええええええええっ!」


 男の連続攻撃にクラエルが怯む。

 大剣が最上段まで掲げられて、トドメの一撃が放たれようとしている。


「ウォーターカッター!」


「ギャアッ!?」


 しかし、それで勝負はつかなかった。

 クラエルが突如として魔法攻撃を放ち、男の顔面を斬り裂いたのだ。


「フッ!」


「グウッ……!」


 そして、ダメ押しの追撃。

 錫杖による打撃を受けて、男がノックバックして後退する。


「馬鹿な……テメエは神官だろうが!? どうして、攻撃魔法が使える!?」


 男が顔を手で押さえて、呻く。

 一部を例外として、神官は基本的に攻撃魔法を使えない。

 だからこそ、ギャングの男も魔法攻撃を警戒していなかったのだ。


「悪いね……これはアイテムの効果だよ」


 錫杖を握るクラエルの指には青いリングが輝いている。

 それはレイナから貰い受けたアイテム……『蒼月のリング』。

 水属性攻撃に対する絶対耐性を与えて、さらには水属性の魔法を使用することができるという効果があるものだった。


「家族愛の勝利だよ。ウチの可愛い聖女に手を出そうとするから、こうなるんだ」


「ふざけんな……! チクショウ、チクショウ、チクショウ……!


「タイダルウェイブ!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 クラエルがさらなる魔法を放った。

 津波のような大波が押し寄せて、ギャングと背後にいたリザードマンをまとめて呑み込んだのであった。

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