第146話 一網打尽にしてやります

『白の奉竜殿』はレイナがゲームのイベントによって訪れる場所なのだが……最初、この遺跡にやってきても何も起こらない。

 プレイヤーからしてみれば、意味深な石板があるだけで何もない場所。モンスターが出ることなく、宝箱もない謎の遺跡である。

 しかし、シナリオが進むことで遺跡の奥に入ることができる合言葉を獲得することができるのだ。

 合言葉を使って遺跡の深部に進んだレイナはかつて聖女と共に戦った聖竜と出会う。復活するラスボス……邪神を倒すために重要なヒントを獲得するのだが、現時点においては関係ない話である。


「合言葉がわかれば、聖女じゃなくても奥に進めるんだよな……馬鹿どもを誘い出すには格好の檻だ」


「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「うわあああああああああああっ!」


 クラエルが冷たくつぶやく中、周囲のギャングが魔物に襲われている。

 ギャングに襲いかかっているのは、赤い鱗をまとった二本足のトカゲ……いわゆるリザードマンだった。

 先ほどの石板の部屋よりもさらに広い部屋の中には、無数のリザードマンがいて待ち構えていた。

 リザードマンは次々とギャングに襲いかかり、手に持った骨の大剣を振り下ろし、牙で噛みついている。


「く、クソ! 何でこんなに魔物が!」


「チクショウ! 来るな……来るなあアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ギャング達の絶叫が響きわたる。

 先ほどまで、こちらを囲んで得意げにしていたギャングであったが……さらに数多くの魔物に囲まれてしまったことで、クラエルを捕まえるどころではなくなってしまった。


「バーン先生、もう良いな!」


「よっしゃあ! 暴れるぜえ!」


 クラエルの周りにいたテンプルナイトが被っていた兜を投げ捨てる。

 兜の下から現れたのは……攻略キャラである四人だった。

 王太子エリックを筆頭にして、四人はテンプルナイトに変装してクラエルに付いてきていたのだ。


「君達のレベルだったら問題ないでしょうけど……リザードマンは決して弱くはありません。くれぐれも注意してください!」


「わかっています……みんな、やるぞ!」


「「「オオッ!」」」


 エリックの宣言を受けて、攻略キャラ四人が戦いに参じる。

 魔法剣士であるエリックが剣を振りつつ、魔法を撃って。

 戦士職であるヴィンセントが大剣を振り回して。

 魔法職であるウィルが距離を取りつつ、魔法を撃って。

 援護職であるリューイが仲間を支援しつつ、補助魔法を使う。

 四人はギャングを倒しつつ、襲いかかってくるリザードマンを撃退していった。


(改めて、思うけど……コイツら、普通に強いよな……)


 いま一つ、避暑地の海では活躍する機会がなかったのだが……四人の攻略キャラはかなり強い。


(まだレイナが学園に入学してから半年。ゲームでは中盤っていうところなのに……それにしてはかなり、レベル高いな……)


 レイナとの恋愛的な攻略状況はまるで進んでいないというのに……どうして、ここまで強くなっているのだろう。

 普通に疑問である。まさか、シナリオとは無関係なところで自主トレでもしているのだろうか?


(今更だけど、エリック王太子がアフロになっているのも気になるよな……いや、本当にどうしてこんなことになっているんだろうな)


「おっと……俺も動かないとな」


 攻略キャラにばかり、働かせてはいられない。

 そもそも……クラエルが今回、レイナを巻き込むことなく、クマのぬいぐるみ達にすら気がつかれないようにギャングを罠に嵌めたのには理由がある。

 できるだけレイナを巻き込むことなく、問題を対処したかったからだ。


(この件には、ウチの愚兄が関わっている……俺の家族のやらかしたことにレイナを巻き込みたくはない。レイナの知らないところで、全て片付けてしまいたい……)


 攻略キャラを巻き込んでしまった時点で、自力での解決はできていないが……それは諦めることにした。

 彼らには彼らなりに、譲れない信念があるのだろう。


「『パワーアップ』、『ハイ・パワーアップ』、『スピードアップ』、『ハイ・スピードアップ』、『ガードアップ』……」


 クラエルは神聖術によって、自分の能力を強化させた。

 レイナと一緒に暮らすようになって増えた力であるが……聖人なったことで、称号ボーナスなのかさらに強くなっている。


「フッ!」


「ギャアッ!?」


 クラエルが力強く踏み込んで、金属製の錫杖を振るった。

 遠心力が十分に乗った一撃によって、ギャングの一人が床に沈む。


「殴りヒーラーの面目躍如だ……俺がレイナに守られるだけのヒロインポジじゃないってことを、存分に思い知らせてやるよ!」


 クラエルが堂々と言い放ち、ギャングに次々と攻撃を浴びせかけたのだった。

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