第145話 そして、決戦です
そして……かねてよりの計画実施のXデーがやってきた。
学園の休日を利用して、クラエルはそこを訪れる。
枢機卿の許可を得て来訪したのは……巡礼地である『白の奉竜殿』。
かつて聖女と一緒に戦った聖竜が眠っているという、古代遺跡だった。
今回の巡礼について、レイナには何も言わないように口止めはしてある。
枢機卿としてもレイナが襲われるのは避けたいらしく、とりあえず了承してくれた。
「それでは、行って参ります」
クラエルは鎧で武装した数人のテンプルナイトを引き連れて、『白の奉竜殿』へと足を踏み入れる。
『白の奉竜殿』はセインクル王国北部にある遺跡である。
パルテノン神殿のような外観の白亜の建物の中には、地下に通じる階段があった。
ここから先に入れるのは一度に五人だけと決められているため、大勢で入ることはできない。
地下に降りるのは、クラエルと四人のテンプルナイトだけである。
「…………」
祭礼用の衣装に着替えたクラエルが無言で階段を降っていく。
古い石の階段はいったい、いつの時代からあるのだろう。
古めかしく、この遺跡の歴史の長さを感じさせる。
百段近い階段を降り切ると……そこにあったのは広大な空間だった。
ホールのような石造りの部屋には、人間の身長以上の大きさの石板が設置されている。
この石板の前までやってきて、祈りの言葉を捧げる……『白の奉竜殿』への巡礼はそれで終わり。
決して、難しい儀式ではなかった。
「それでは、少し待っていてください」
「…………」
クラエルの言葉に、テンプルナイトが頷いた。
クラエルはそのまま石板の前まで進み出て……膝をついて、祈りを捧げようとする。
「!」
しかし……次の瞬間、クラエルに向けて何かが飛んでくる。
クラエルが後方に飛ぶと、足元に短い弓矢が突き刺さった。
「ほお、思った以上に動けるじゃねえか」
「へへっ……コイツは楽しめそうだぜ……」
すると……物陰からゾロゾロとガラの悪い男達が現れる。
いかにも無法者といった雰囲気の男達だ。手には剣やナイフ、弓矢などの武器を持っていた。
現れた男達は二十人ほど。いくら広い部屋とはいえ、よくぞここまで隠れていたものである。どうやら、隠密の力のあるマジックアイテムを使用していた人間もいるようだ。
クラエルの周りにテンプルナイトが集まってきて、ガードしてくれる。
「何者だ、お前達!」
テンプルナイトに守られつつ……クラエルは周りを取り囲んでいる無法者に問いかけた。
さりげなく遺跡の入口にある階段を確認するが……そこから、さらに無法者が降りてくる。
「逃げられると思うなよ? 聖人さんよ」
「いくら神様の加護があったとしても、こんな地下までは届かないぜえ」
「死にたくなければ、大人しくお縄につくこったな! ヒャッヒャッヒャ!」
多勢に無勢である。
こちらはクラエルを入れても五人。敵は五十人近い。いずれも武装している。
どう考えても……勝ち目のない状況だった。
「殺しはしない……だが、ちょっとだけ痛めつけさせてもらおうか?」
「テメエを誘拐するために、何人も部下がやられたからなあ!」
「ちょっとくらい、お返ししてやっても罰は当たらねえよなあ! クソ野郎!」
「……自業自得だろうが。犯罪者なんだから」
クラエルがつぶやいた。
ここにいるのはクラエルと、レイナを拉致しようとした犯罪者である。
法を犯して生きているのだから、どうなろうと自己責任。
どんな目に遭ったとしても、クラエルを恨むのはお門違いだった。
「逃げられると思うなよ? こっちはこれだけ数がいて……外にも部下を配置してある。何があっても、逃げられやしねえよ!」
「ここにいるのが五十人、そして……外にはさらに部下か。これだけ集まっているとなると……アッチも必死だな」
ほぼ間違いなく……ギャング達が持てる戦力を総動員させているのだろう。
つまり、ここにいる敵を潰せば問題は解決。晴れて、平和な学園生活の獲得ということである。
「バーン先生……どうやら、初めて良さそうだ」
テンプルナイトの一人が言ってくる。
クラエルは頷いて……その言葉を口にした。
「『白き竜はうたかたの眠りの中へ。黒き夢に足を踏み入れん』」
「なっ……!」
「何だあっ!?」
ギャング達から混乱の声が上がった。
クラエルが口にしたのは、この遺跡に仕掛けられたとあるギミックを発動させるための合言葉。
「……ゲームでは、この言葉を口にすることでダンジョンの中に入れるんだよ。まあ、お前らに分かる訳がないよな」
石板が光を発した。
足元に光り輝く、巨大な魔方陣が現れる。
魔方陣は部屋全体まで網羅しており、その場にいたギャング達も青白い閃光に巻き込まれてしまう。
「転移する先はいくつかあるが……この部屋にいる人間の合計レベルによって変更される。合計レベルが高いほど、難易度が高い場所に転移される仕組みだ……」
誰に向けるでもなく、クラエルが独り言を口にする。
この場には五十人以上の人間がいる。一人一人のレベルが低くとも、合計レベルはかなり高くなるだろう。
つまり……転移先はかなり困難を極める場所となる。
「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
「「「「「うわああああああああああああああああっ!?」」」」」
即ち……モンスターハウスである。
周囲を無数の魔物に取り囲まれて、ギャング達が混乱の悲鳴を上げたのだった。
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