第6話 お手伝いするよ
アウスターとの交渉により、レイナは正式に神殿に引き取られることになった。
その一方で、神殿で留守番を任されたレイナはというと……雑巾と
「よし……がんばろう!」
レイナは気合を入れて、掃除に取り掛かる。
絶対に神殿をピカピカに磨かなければならない。
優しくしてくれた司祭の恩に報いるために、そして、手を差し伸べてくれた人を失望させないために。
箒を握りしめて、神殿の床を隅から隅まで掃いていく。
「よいしょ、よいしょ……!」
レイナが箒を動かすたび、床の土やホコリが洗い清められて新築同然になっていく。
クラエルも掃除をさぼっていたわけではないのだが、残っていた汚れが見る見るうちに消えていった。
いくらレイナがアウスター家の屋敷で普段から掃除をさせられており、慣れているからといって、明らかに異常なことである。
「よいしょ、よいしょ……」
箒で床を掃けば床が輝く。雑巾で椅子や棚を
無意識ではあるものの、レイナは聖女の力を発動させていた。
聖女が持っている能力の一つ……『浄化』の力によって、汚れの一切が消されているのである。
「ふう……これで良いかな?」
二時間ほどで掃除は終わった。
神殿全体が聖女の力によって光を帯び、神聖さに文字通りに磨きがかかっている。
王都にある大神殿でさえ、ここまで神聖で清浄なオーラを放ってはいないだろう。
「司祭様はお昼には戻って来るって言ってたし……ごはん、作ろうかな?」
レイナは手早く掃除道具を片付けて、身体を払う。
服に着いた汚れが消えて、クラエルから借りたシャツが綺麗になった。
そんなことができるのなら、どうして昨日はボロボロの服を着ていたのだと思うだろう。
その理由は簡単。
司祭から借りた服を汚したくなかったからである。
レイナは聖女の力をコントロール出来ていない。綺麗にしたいと心から思わなければ、『浄化』の力を使うことができないのだ。
「…………」
掃除道具を片付けたレイナが台所に向かおうとするが……ふと、廊下で立ち止まる。
「……司祭様の服」
裾を引っ張って顔に持っていき、クンクンと鼻を鳴らす。
便利なことに……聖女の『浄化』は汚れを消しても、レイナにとって不浄に該当しないものを消すことはない。
つまり、クラエルの臭いはしっかりと残っているのだ。
「ンフ」
何故か嬉しい気持ちになって、口から変な声が出た。
昨晩は同じベッドで眠ったが……とても良く眠ることができた。
あんなに安眠したのは母親が死んでから初めてかもしれない。
「~~~~♪」
ご機嫌になったレイナは鼻歌を口ずさみながら台所に行き、チェストから食材を探す。
「お野菜……ない?」
しかし、そこには食材がほとんど入っていなかった。
元々、クラエルが一人暮らしのため蓄えはなく、残っていた食材は昨晩の夕食に使ってしまったのだ。
小麦粉と調味料があるばかりで、まともな料理が作れそうになかった。
「どうしよう……ごはん、作れないよ……」
悲しそうな顔をするレイナであったが……後ろからゴトリと音が鳴る。
「…………?」
振り返ると、台所のテーブルの上に肉と野菜、魚、ビンに入ったミルクが置かれていた。
肉は切り分けられたブロックで。魚など
「あれ? 司祭様が買っておいてくれたのかな?」
気がつかなかった。
台所に入ったとき、そんな物あっただろうか?
「ま、いっか」
食材が無くなったのならば困るが……出てきたのであれば問題ない。
レイナは深く考えることなく、桶に水を張って魚を移した。
『クスクス』
『喜んでるね』
『良かったね』
さっそく肉と野菜を使って料理に取りかかるレイナであったが……そんな彼女を見守っている者達がいた。
光を纏い、部屋の天井辺りをフワフワと飛んでいる彼らは『聖霊』。
神の御使いとも呼ばれている下級天使だった。
テーブルの上にあった食材は聖霊が持ってきた物。
別の町の神殿に奉納されていた供物を運んできて、レイナに渡したのである。
どうして、急に聖霊が現れたのかというと……先ほど、廊下で口ずさんでいた鼻歌が原因である。
無意識であったが、レイナが歌っていたのは『讃美歌』と呼ばれる神を
聖女の魂に刻みつけられた歌によって聖霊が召喚されたのである。
「フンフ~ン♪」
レイナはご機嫌な様子で野菜を刻んで、鍋で煮込んでいる。
またしても鼻歌を口にしているため、料理に神聖なエネルギーが溶け込んでいた。
「司祭様、喜んでくれるかなー?」
気づかないうちに奇跡を連発するレイナ。
これはゲームの設定にもあることだが……聖女は愛されて幸せになることによって奇跡を起こすことができる。
実際、ゲーム後半では恋人になった攻略キャラの愛の力により、巨大な力を引き出して悪を撃ち滅ぼすことができるのだ。
クラエルがレイナを大切に扱ったことにより、愛と幸福の力が無意識に発動しているのだった。
「できた!」
レイナは完成したシチューを見下ろして、満足そうに胸を張る。
ミルクをたっぷりと使ったホワイトシチュー。
そこには聖女の加護もたっぷりと入っていて、病気の予防やアンチエイジングの力が宿っている。
無意識にとんでもない料理を生み出したことに気がつくことなく、レイナはクラエルの帰りを胸を躍らせて待つのだった。
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