第6話 大学一年生 幼馴染も有りだよね

大学に入学した私はサークルで悩んでいた。

何故なら見た目は大学デビューに合わせて改造しているので、敬遠されはしない筈である。

けれど中身は乙女ゲームが大好物なままなので、こんな私に合うサークルはあるのだろうか?

私は悶々としながら掲示板に貼られているサークル勧誘のチラシを見ていた。

すると斜め後ろから知らない声がした。


「君、新入生?」


私がその声に振り返ると黒髪のなかなかのイケメンがいた。キラキラオーラが何故かそこには出ている気がする。


「そうですけど何か用ですか?」

「君、サークル決まってないならうちのサークルはどう?」


どうやら私に声をかけてきたこの人物は、私が掲示板のチラシを見ていた事から新入生と判断し、声をかけてきた先輩らしい。


「どうって私は(妄想出来る)運命のサークルを探しているので」

「運命のサークル?それなら僕のいる演劇サークルはいいと思うよ」 

「いや私は(妄想出来る)運命の人がいるサークルがいいんで」

 

私が断ろうとしても先輩の話しが止まる様子はない。見た目よりも大分喋る人の様だ。

正直かなり迷惑だ。

だがそれが私の琴線に触れた。


「演劇サークルだから恋愛有りの演劇もやるよ。この間は学校でって内容で劇をやったよ。他にも色々な運命的な出会いの劇やるよ」


幼馴染みと偶然再会する。その言葉が私の頭の中でリフレインされ始めた。


♡妄想レベル3♡


大学に入学して1週間が経った。

私は未だ話せる友人も出来ず一人で講義を受けている。


私は選択している講義の教室に入ると後ろから3番目の席に着いた。

教室で使用している長机は、本来なら2人で使用する事が可能だが、私が使用している長机には私一人だ。

友人同士で席に着いている同級生を見ると、私もお喋り出来る友人が出来ればと思うが、人付き合いが苦手でなかなか友達が出来ない。


私が周りを羨望の目で眺めていると突然、私の隣の席がガタリと動いた。


「ここいい?」

「はい」


椅子が引かれる音に隣を見上げると黒髪の男子生徒が立っている。

知らない顔だ。

他にも席は空いているのに何故、私の隣に来たのか不明だが嫌な顔をする訳にもいかず頷いた。

すると男子生徒は「ありがとう」と一言だけ話して椅子に座った。

なんとなく居心地が悪い。


普段は誰もいない自分の隣に誰かがいるのは不思議な気分がする。

けれど講義中に他の事を気にしている場合ではないので講義に集中する。

だが講義が始まって30分程するとある違和感に気付いた。


私はノートを取る為に下に向けていた視線を隣の男子生徒に気付かれない様に、男子生徒のノートに向けた。

するとそのノートは真っ白で、シャープペンも机に置いたままだった。


不思議に思った私が思わず首を横に向けると合う筈のない真剣な眼差しと目が合った。

慌て視線を自分のノートに戻したが、一度視線に気付いてしまうと、肌にチリチリと男子生徒の視線を感じる様で集中出来ない。

一体いつから男子生徒は私を見ていたのだろう?

他にも生徒はいるのに何故私?

講義に集中しようと思えば思う程にパニックになる。

そして集中出来ないまま講義は終わってしまった。


私がノートと筆記具をカバンに片付けていると、机にノートと筆記具を出しっ放しのまま私の隣の男子生徒が、頬杖をついて話しかけてきた。


「ねえ、このあと暇?ちょっと僕に付き合ってよ」

「えっ、あの……」

「決まり」


突然の事に私が困っていると、男子生徒は私の意見も聞かずに勝手に決め、雑に自分のノートと筆記具をカバンに仕舞い私の右手を掴んだ。


「行くよ」

「ちょっと困るんだけど」


咄嗟に自分のカバンを掴んだものの、私の手首を掴んで歩く男子生徒は私の苦情を無視して歩き続ける。

次の時間の講義は取ってないものの一体なんなのだ。


そして大学の庭まで来るとやっと私の手首を開放してくれた。

庭には他の生徒もいるので変な事をされる事はないと思うが、私のイライラはMAXで気が治まらず噛み付く様に声を荒げる。


「あなた一体なんなんですか!!」


けれど男子生徒は私の苦情など気にする様子もない。

そして先程の真剣な眼差しとは打って変わって歯を出してニカッと笑った。


「ホント優来ちゃんは変わってないね。昔も僕が優来ちゃんを振り回すとそうやって怒ってた」

「はぁ?意味わかんないんだけど」

「けどいつも最後は許してくれてた」


私が意味の分からない会話に困惑していても男子生徒は話しをやめない。


「ここで会えるとは思わなかったけど、また会えて嬉しい。あの時は突然引っ越していなくなってごめんね」

「引っ越し……」


私は引っ越しという言葉に反応すると黙りこんだ。

身に覚えのある記憶、頭の中の霞が徐々に晴れる様に思い出される記憶。

小学生の時によく一緒に遊んだ男の子の記憶。

そして突然の引っ越しで男の子がいなくなって大泣きした記憶。

見知った笑顔の顔。


「もしかして□□□君?」

「ただいま、優来ちゃん」


私の目から涙が溢れた。

あの時とは違う嬉し涙だ。

□□□君はそんな私の涙を優しく脱ぐってくれた。



私が自分の妄想に感極まっていると遠くから声が聞こえる。


「もしもーし。聞こえてるー?」

「!!!!」

 

その声に我に返ると私は慌て返事をする。

 

「すみません。ちょっと妄想に耽っていて」

「妄想?」

「私、イケメンを見ると自分の頭の中でストーリーを作る癖がありまして」 


そこまで話して私は余計な事を話してしまった事に気付いた。

間違いなく変人だと思われる。


「ふーん、君面白いな」


私が冷や汗を流していると先輩は面白そうにジロジロと見てくる。

その視線に居心地の悪さを感じたが、このままここを去って変な噂を流されたらたまったものじゃない。

私がどうしたものかと悩んでると先輩の肩を叩く男子生徒が現れた。


「こんなとこに居たのか藤本。お前に頼まれた脚本の手直し終わったぞ」

「あぁ、伊藤ありがとう」


どうやら私の目の前にいる先輩は藤本先輩というらしい。そしてこの声をかけて来た先輩は藤本先輩の友人の伊藤先輩というらしい。


「でこの子誰?」

「いやサークル探してるぽいからうちの演劇サークルに勧誘してたんだけど、面白いんだよ」

「面白い?」


余計な事を言わないでほしい。

私が冷や汗を流していると藤本先輩はニタニタと人の悪い笑みを浮かべている。

この人はたぶん自分の顔が妄想に使われていたのに気付いてる。

そして私の願いは虚しく砕け散った。


「この子、イケメン見ると頭の中でストーリー作って妄想するんだってよ。マジで面白い」 

「ストーリー?」


私の大学生活は終わった……

オタクと罵られイメチェンの意味もなく過ごす事になるだろう。

私が自分の理想の大学生活の終わりを告げる鐘の音に嘆いていても、2人は私を無視して会話を続けていた。


「そうそ。最初はうちのサークルに連れて行こうと思ってたけど、お前のサークル向けだし伊藤にやるよ」

「はっ?」


伊藤先輩の背中を叩く藤本先輩の「やる」という声に私が顔を上げると、高橋先輩は私にウィンクした。


「こいつ僕の親友で伊東海人いとうかいと君。小説サークルのリーダーで、うちの演劇サークルの脚本もたまに手伝ってくれてんの。因みに僕は藤本裕樹ふじもとひろき演劇サークルのリーダーね」


これが小説サークルと私の出会いだった。


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氷堂優来の乙女ゲーム的妄想日記 黒猫ゆうみ @tibita28

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