第3話 高校二年生 バイト先で

テストで29点だった私も乙女ゲームをやる合間に勉強をして、なんとか二年生に進級する事が出来た。


そんな私も最近バイトを始めた。

私は日に日に物欲が増え、お小遣いだけではお目当ての乙女ゲームを買うことが出来なくなったからだ。

最初は一年生の時のテストが散々だったので、母に反対されるかと思っていたが、家の中でゲームばかりしていないで社交性を身に付ける良い機会だと、母がすんなり許可をくれたのには驚いた。


そして現在、コンビニでバイト中だ。

ただ少し残念なのはイケメンのお客様が来ても接客中の為に妄想出来ない事だ。

しかもお客様だけではない、このコンビニで私と同じ様にバイトしている大学生もイケメンなのだ。

名前は佐藤亮太さん。高身長で茶髪の彼は私の事を優来ちゃんと呼んでくれているので、私も有り難く亮太さんと呼ばせて頂いている。


私はバックヤードで冷蔵庫にジュースを補充しながら溜め息を吐いた。ゲーム生活ばかりしていた私には肉体労働はけっこうキツイ。

他のバイトの子よりも時間がかかっているかもしれない。

けれどこれも乙女ゲームを買うためだ。


私はジュースの入った箱を持ち上げたり、中腰になったりして硬くなった体を伸ばす為に両腕を上げた。

すると丁度腕を上げているタイミングでバックヤードの入口が開いた。


「優来ちゃん終わった?」


サラサラと癖のない茶髪を揺らして、バックヤードの入口の外から、私しかいないバックヤードを覗き込む亮太さんは、私の妄想スイッチをオンにするのは十分だった。


♡妄想レベル2♡


亮太さんは私がジュースの入った箱を持っているのを確認すると、無言でバックヤードの中に入って来て私の手から箱を奪った。

そして軽々と箱を持ち上げると在庫置き場に戻してくれる。


「いつまでも戻って来ないと思ったら、他の子が出しっ放しにしてたの片付けてくれてたんだ?」

「はい、出しっ放しにしてたらここ薄暗いから、誰か怪我しちゃうかなと思って……」


私はいつも目を見て話してくれる亮太さんが、背中を向けたまま話したので咄嗟に怒られると思って俯いた。

勝手な事をしたのは私だけど、亮太さんに怒られるのは何となく辛くてこれ以上話せない。

その為、私が黙っていると下を向く私の視界に亮太さんの右手が上がるのが映った。

そしてその次の瞬間、息が止まるかと思った。

亮太さんが私の頭を優しく撫でたのだ。

私が自分の身に何が起きているのか直ぐに理解出来ず、俯いたままでいると亮太さんが溜め息を吐いた。


「優来ちゃん、いい子なんだけど、こんなにいい子だと他の奴に騙されたりしないか心配だな」

「騙されたりしません」


子供扱いされたと思った私は、頬を膨らませると顔を上げて亮太さんを睨みつける。

すると亮太さんは私に顔を近づけて目を細めいたずらっ子の様に笑った。


「ホントに?悪い男に騙されたりしない?」

「大丈夫ですよ」


私がムキになって反論すると、亮太さんは私との距離を詰める様に近づいてくる。

それに対し私が後退あとずさっても、亮太さんは構わず距離を詰めて来た。そして私が商品の在庫を置いている棚を後ろにし、これ以上後ろまで下がれない所まで追い詰められると、自分の両腕の間に私を入れる様にして、後ろの棚に両手をついた。


「もし俺が悪い男だったらどうするの?」

「亮太さんはそんな事しません……」


突然の事に私がしどろもどろになって答えると、亮太さんは私を優しく抱き締めた。

そして私の耳元に自分の唇を近付けた。


「そんな事ってこんな事?」


予想だにしていなかった事に、私がどうしたらいいか分からなくなって赤くなっていると、暫くして亮太さんは私を開放してくれた。

そして困った様に眉を寄せた。


「そんなに固くなられると俺も困るな。けど俺の気持ち分かってくれた?」


亮太さんは無言の私に苦笑すると頭をポンポンと2回撫でてそのままバックヤードから出て行った。



「優来ちゃん大丈夫?」


私は亮太さんの2回目の掛け声で正気に戻ると、バイトで身につけた笑顔を顔に貼り付ける。


「もう少しで終わります」


変な奴だと思われたらバイトがやりにくくなる。妄想女という事がここではバレてはいけない。

私は何事もなかった様に振る舞うと妄想を振り払う様に頭を振った。

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