第4話 高校三年生 同人誌との出会い

高校三年生になった私は自宅の自分のベッドに寝そべり絶望していた。

何故なら、母に大学に合格するまで乙女ゲームを禁止させられてしまったからだ。


お陰で今の私はRPGで言うところのMP(マジックポイント)が空の状態。OP(乙女ポイント)を回復させない事には使い物にならないオタクだ。


私は深く溜め息を吐くと跳ねる様にして起き上がり、ハンガーにかけてある上着を羽織った。

取り敢えず乙女ゲームは出来ないものの、気晴らしにアニメショップにでも行こうと思ったのだ。

そして私はそこで運命の出会いをする。


お店に着いた私は何処から見ようかとキョロキョロしていた。

するとすぐ側にいた二人組の女子の話しが耳に入って来る。


「ねぇ。今度のイベント、私無理かもしんない」

「えっ?何で!!」


虚ろな目で話す友達の言葉に女の子は驚いた様に目を見開く。

すると友達は大きく溜め息を吐いた。


「新刊間に合わないかもしれない」

「ちょっと待って。次のイベントで一緒に指モノの新刊出そうって言ったじゃなたい」

「ごめん。締め切り間に合わないかもしんない」

「頑張ってよ」


泣きそうな女の子の体を揺さぶる友達に、女の子は何やら言い訳をしている。

けど私の注目ポイントはそこではない。

彼女達の会話に出て来た『指モノ』だ。

通称、指モノと言われる『指輪の声の物語』

というタイトルの私の1番お気に入りの乙女ゲームだ。


内容はヒロインが小さい頃、幼馴染のお兄ちゃんが夏祭りで買ってくれた指輪をなくす事から始まる。

そしてその指輪を探していて迷い込んだ異世界で、攻略対象達と様々なイベントをこなし絆を深めて魔王を倒すという話しだ。

ただこのゲームの1番の推しポイントはそこではない。

全ての攻略対象を攻略すると指輪ルートが現れ、魔王を倒した後に指輪に封印されていた精霊が現れ、それが幼馴染のお兄ちゃんだというお兄ちゃんルートだ。

そのルートに始めて辿り着いた時、私は狂喜乱舞した。 


そんな私の愛するゲームの話しをしていたのだから、私の耳が反応するのも仕方ない。

けれど新刊とは何のことかと思い私は頭を捻り聞き耳を立てる。


「やっぱり時間もなくなって来たし、そろそろ私も同人誌卒業なのかな」

「そうだけど最後に新刊出そうよ」


女の子の言葉に友達は同意の意思を見せるが、その表情は名残惜しそうだ。

けれど2人の会話から私の心には光がさした。

私はアニメショップの端を一目散に目指した。

そこには乙女ゲームを禁止されて乾いた私の心を潤してくれる『同人誌』という聖典がある筈だから。

私は世の中には同人誌という存在があるのに、何故その存在に気付かなかったのだろう。 

だが今はそんな事を気にしている場合ではない。私はそのままバイトで稼いた資金で指モノの同人誌を買い漁った。


その後、私は戦利品を抱えたまま友人の家に行った。

そして正座をして友人とテーブル越しに会話をしているのだが、テーブルの上には私が購入した同人誌が散らばっている。


「優来さ、なんでおばさんがゲーム禁止って言ったか分かってるの?」

「それは……」


私は新しい餌を見つけた事で、喜んで友達に報告しようとしていたのだが、乙女ゲーム禁止令を知った友人に逆に怒られていた。


「あんたの成績を心配してでしょう。なのになんでこれ?」

「いやそれは、ゲームがダメなら同人誌にすればいいじゃないか。と思って……」

「何そのパンがなければお菓子を食べればいいじゃない。みたいな理論は」

「だって私、ご褒美がないと頑張れない……」


友人が目の前で溜め息を吐くと、私は目を泳がせモゴモゴと小さな声で答えた。

この友人の倉科響子くらしなきょうこという人物は、普段は私の話しをよく聞いてくれるのだが非常に真面目な部分もあるのだ。

その為、私の母からも信頼を得ているという事を同人誌に浮かれていた私は失念していた。


「まぁ、いいわ。買ってしまったものは仕方ない。けど優来が今度、同人誌を買ったらこの事をおばさんに報告するよ」

「ちょっと待って。それは止めて」


私は顔を青褪あおざめると懇願する様に響子の顔を見つめた。

すると響子は人の悪い笑みを浮かべた。


「ダメ」

「うちの親が怖いの知ってるでしょう」


私が冷や汗を流しながら話すと、響子は目尻を下げた。


「ただしこれからの模試全部平均点以上で大学に合格したら、同人誌買う為のイベントに付き合ってあげる」


これが響子にとっての最大限の優しさだったのだろう。

けれど私は嬉しくて朝、絶望していた事なんて忘れて喜んだ。


そして私の妄想は進化する事になる。

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