第9話 実父との再会
カイにはあトキノの証券会社で、為替取引をしている実父がいた。
カイはジョンに勧められるままに、急いで手紙を書いた。
海軍兵学校にはいるまでの間、一緒に住ませて欲しいと頼むことにした。
久しぶりに、本当のパパに会える。
カイの心は弾んだ。
返事はすぐにきた。
「いつでも息子が来ることは大歓迎だ。来る日が決まったら、連絡をしてくれ。迎えに行くから」
カイは、航空券を購入して賢斗のいるラパンに向かった。
カイの父親の賢斗は空港まで迎えにきていた。
「パパ、お世話になります」
「随分大きくなったな、パパと同じくらいか」
「174センチ、まだ伸びるよ」
「家事は頼むぞ」
「任せて、僕は将来はシェフだから」
賢斗は嬉しそうに目尻を下げ笑うと、カイの頭を撫でた。
カイはマンションに着くと荷物を解き、すぐにノートパソコンを立ち上げてプリンターをセットアップしてアメリカで調べてきた道場の地図をプリントアウトした。
それを見ていた賢斗は、カイに携帯電話を渡した。
「ないと不自由だろう。買っといたよ。家族割だから遠慮しないで使え」
「パパ、いいの?」
「親子だろ、今日はすき焼きにしよう。いい肉を買っておいたぞ」
「ありがとう、今夜は最高」
カイは、親指を立てた。
二人はすき焼きを食べながら、今まであったことを話した。
「カイはなぜ、海軍兵学校に行くことに決めたんだ?」
「二度目のパパのジョンが軍人で、かっこよかったから」
「それだけか?」
「僕、小柄だから、ずっといじめられっ子だった。でもパパに教わった空手で、みんなのヒーロになったよ。小さくても技で勝てるし、自分を守ることできる。それはみんなも守ることにつながるだろ。だから軍人になろうって決めたんだ」
「そうか、それを聞いて安心したよ」
「今度は、僕がパパに質問?」
「なんだ」
「ねえ、パパはなんでママと離婚したの?」
賢斗は予想もしなかった質問に戸惑い、どう答えたらいいか考え込んでいた。
やがて、答えがまとまったように口を開いた。
「家族にいい暮らしをさせようとして、パパが働き過ぎたんだ。それでママやお前をほったらかしにしてしまったんだよ。お前が生まれてから家族みんなで出かけたことは一度も無かったんだよ。ママはとても怒ってね、もう我慢できないって」
「そうだね、パパと遊んだ思い出はないしね」
「そうだよ、子育てはママに任せっぱなしだったしな」
「そりゃ、ママが怒るはずだよ」
「ごめんな。だから言っては何だが、日本にいる間の武術を習う費用は全部パパが払うから、好きいなだけ道場で修行しろよ」
「ありがとうパパ」
カイは、皿洗いをしながらテレビのスイッチをつけてニュースを聞いた。
ニュースでは皇太子殿下の長女が二十歳になり、正式に王室の公務を行うようになったとアナウンスをしていた。
王女は誕生日の記者会見を豪華なティアラと、高価なドレスで着飾っていた。
「パパ、この人が王女様なの?なんか地味な人だね」
食後のコーヒーを飲んでいた賢斗も、テレビを見ながら呟いた。
「ああ、欧米人と違ってドレスは似合わないからな」
「違うよ、そんなことじゃない。この人なんか嬉しそうじゃないよ」
「そうかきっと、王族として生まれたことが不満なんだろう。それは仕方ないことさ、生まれる場所は自分では決められないからな」
「そうかな、それは誰も同じだけどな」
「ほう、カイは随分大人になったな」
「パパもね」
「そうだカイ、ラパンで修行をしたら、この後はブラジルへいくといいよ。ブラジルにはブラジリアン柔術というがある」
「ほんと、見てみたいな」
「柔道が起源のブラジル発祥で、護身術に重きをおいた武術だ。カイにはぴったりだと思うよ」
「うん、やってみたい」
カイは目を輝かせて、賢斗のアドバイスを受け入れた。
「それなら、ブラジルのお祖母ちゃんに手紙を書くよ。きっと喜ぶぞ」
「やった、楽しみ。やっぱりパパは頼りになるね」
カイはジョンとは違う頼もしさを、賢斗に感じた。
実の父はやはり頼りになるし、なんでも話せて一緒にいても楽しい。
両親の離婚と再婚のおかげでカイは、いつの間にか4か国語が話せるようになった。
それ以外にも、賢斗は株取引のやり方をカイに教えた。
この二つのことは、カイの将来の仕事にとても役にたった。
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