第10話 馴れ初め

こんにちは、王女様も留学希望ですか?どちらへ」

「あなた、誰?」

「オムロイ・レイと言います。僕はリコ様と同じ学年です」

 リコは馴れ馴れしく、太々ずうずうしい態度のレイに不快感をもった。

 学内でも有名なチャラ男で、女とお金に汚い人間だ。

 金持ちの令嬢を騙しては、お金を貢がせていると評判が悪かった。

 それからも、レイはストーカーに近いくらいにいつもリコの側にくっついてきた。

 幸か不幸か、リコの周りにいる育ちのいい男子学生は皆退屈だった。

 リコは段々、この図太く卑しい根性のレイに興味を持ち始めた。

 こんな狡猾で野心家の人間は見たことがなかった。

 もしかしたら利用価値があるかもしれない。

 そう考えると、少しずつだが話をするようになった。

 その頃からレイは、リコのお気に入りになれるように髪の毛を茶髪から黒髪に戻した。

 来ている洋服も好感の持てる、ベーシックなものに変えた。

 チャラをから、見ためは優等生に変身したように見えた。

 リコとレイは、次第に二人きりで会うことも多くなっていた。

 ただお金はなく、デート代はいつもリコが支払っていた。

 ある夜にレイは大学のみんなと居酒屋で飲んだが、払えるお金を持ってなかった。

 誰に頼んでも、お金を借りることができなかった。    

 レイに借したお金は帰ってこなく、あげたことになると学友達の間では評判になっていたので当然のことだ。

 仕方なくレイは、リコに電話をして車で届けてもらうことにした。

 レイがお金に汚いことは感じていたが、リコはそんなことはどうでも良かった。

 理由はたくさんあるが、リコにはレイ以外の男には相手にされなかったし、男性と付き合った経験もなかった。

 それにレイは下僕ように従順で、リコの言うことを嫌がらずになんでも聞いた。

 王族のリコは叱る人が誰もいなかったので、人一倍甘やかされて育った。

 母の妃殿下も気が強く、毎日使用人を叱責するのが仕事のようだった。

 リコは母親そっくりで、人の言うことには聞く耳を持たなかった。

 気に入らないことがあれば大声で叫び、物を近くにいる女官に投げつける。

 女官達は<壊し姫>と影で呼んでいた。

 リコとレイは、はたから見れば女王蜂と働き蜂のような主従関係だった。

 気が強く我儘な王女様と、野心家のヒモ男は似合いの組み合わせだと学内で評判になった。

 協調性のかけらもない似たもの同士は、驚くほど相性が良くて、急速に親密な間柄になった。

 今では、二人が歩いているとキング&プリンセスロードと言われ、周りの学生達が遠慮して道を開けた。

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